科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

国が責任を負ってくれない?機能性表示食品とは

児林 聡美

機能性表示食品を摂取して健康被害が生じたという報道がなされていますね。
様々な専門家がこの事件に関して発信しています。

事件の経緯や今後の課題は、他のFOOCOM専門家の方が記事にしてくださっており、そちらをご覧いただいたくのがよいと思います。
小林製薬「紅麹コレステヘルプ」で6人入院 機能性表示食品の問題、自主回収の責任は?
機能性表示食品で健康被害?有象無象(うぞうむぞう)の「健康食品」ではないのに

また、別のFOOCOMコラムでは、食品添加物として食されているベニコウジ色素は、今回の事件で話題に挙がっている紅麴とは異なるものであることが丁寧に解説されています。
ベニコウジ色素(食品添加物)と、小林製薬の紅麹原料(食品)は違うもの

こういった記事で状況を正しく理解し、正しく判断、批判などを行いたいものです。
さて、今回生じた事件が機能性表示食品であったために、制度の在り方の意見も出されているようです。

なぜ多くの専門家がこの食品の制度を批判しているのでしょうか。
そもそも「機能性表示食品」とはどのような食品なのでしょうか。
様々な媒体で解説されていることかもしれませんが、改めて解説したいと思います。

●機能性ってなに?

食品の「機能性」とは本来、一次機能、二次機能、三次機能の3つがあると言われています(文献1)。
一次機能とは、食品中の栄養素が生体に果たす機能のことです。
栄養性とも言われていて、生命維持に必須の機能です。

二次機能とは、食品成分の得意構造が感覚に訴える機能のことです。
おいしさ、よい香りによる気持ちの安定、食べる楽しさを感じられるのは、二次機能のおかげです。

三次機能とは、食品による生体リズムの調節や免疫系の調整などに関わる機能のことです。
体調調節機能ともいわれています。どんな食品でも、これら3つの機能は持っているものです。

一方で、「機能性表示食品」のときの「機能性」とは特に三次機能のことを指します。
たとえば、「おなかの調子を整えます」とか「脂肪の吸収をおだやかにします」といった表示は「機能性」の表示だといえます(文献2)。

●機能性が表示できる食品の仲間

機能性を表示できる食品は保健機能食品と呼ばれていて、大きく3つあります。
特定保健用食品(いわゆるトクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品、の3つです(文献2;図1)。

機能性表示食品も、それとよく対比して出されるいわゆるトクホも、同じ保健機能食品です。

図1. 食品の分類(文献2):機能性が表示できない一般食品に対し、機能性が表示できるのが保健機能食品で、3種類に分けられます。

●キーワードは「事業者の責任」

今回解説している「機能性表示食品」の最大の特徴は「事業者の責任において」機能性を表示した食品であることです。

消費者庁に決められた書類を提出しさえすれば、表示をすることができます。
消費者庁では書類の信頼度、根拠となっている資料(論文など)の内容は審査しません。

提出書類の内容には決まりがありますが、その食品の安全性はその資料の内容で十分か、表示される機能のような効果が本当にあるのか、という国の審査は個別に行われないということです!

そのために、個別の「許可」などもありません(文献2;図2)。

これがトクホとは大きな違いで、多くの専門家がこの制度の課題として指摘している部分です。

ちなみにトクホは、その食品の安全性や、表示される機能のような効果が本当にあるのか、という国の審査が行われ、問題ない、とされたときのみ表示を「許可」されます(文献2;図2)。

図2. 機能性表示食品とトクホの説明(文献2):事業者の責任で国の許可を得る必要なく機能性が表示できる食品が機能性表示食品、国の許可を得て機能性が表示されている食品がトクホです。

●公開情報で消費者も確認を

事業者の責任で表示がされ、それがどんな根拠資料をもとに表示されているのかわからないのは消費者にとって不安ですよね。

そこで、この機能性表示食品として登録された食品の届出に使われた書類は、すべて公開されており、「機能性表示食品の届出情報検索」サイトで検索すれば、必要な情報は消費者が閲覧できる状態になっています。
つまり、機能性表示食品を摂取するときには、自分でその内容が信頼できるか確認してね、ということなのでしょう。

国は内容を確認してくれませんし、ある意味、自己責任をつきつけられているような気もします。

●機能性の根拠は?

ちなみに、機能性を表示するための根拠として使えるのは「1. 製品を用いた臨床研究の論文」または「2. 製品または機能性成分に関する研究レビューの結果」のいずれかとなっています(文献2)。

以前のFOOCOMコラムでは、食情報を判断するときには栄養疫学研究の論文の結果を根拠にしているかを確認しましょう、とお伝えしました。
出典があるか?ないか?が重要だ!

上述した1または2の条件をクリアしていれば、いずれも疫学研究の論文を根拠にしているものになりますから、この最低限の条件はクリアしていていると言えます。
とはいえ研究者の感覚としては、論文1報ではまだ、日常の活用へは程遠い気がします。

紹介したこのFOOCOMコラムのステップ5になりますが、最終的には複数の論文の結果が得られたときに、ようやく日常に活用ができるかな、という感じです。

そのことはさらに以前のコラムでも解説しました。
「エビデンスに基づく」が信頼度をはかるキーワード:これでわかった!食事摂取基準5

けれども、機能性表示食品は、1のような論文がひとつでもあれば表示はできてしまいます。
そして、2のような研究レビューを実施したときにも、ひとつでも論文が存在すれば表示はできてしまいます。

これはかなり大きな問題だと感じます。

●安全性の根拠は?

そして、安全性を示すための根拠として使えるのは、「1. 今まで広く食べられていたかどうかの食経験」「2. 安全性に関する既存情報の調査」「3. 動物や人を用いての安全性試験の実施」のいずれかとなっています(文献2)。

「食経験」に関して、この制度の中では期間の目安はありません。
数年でも摂取していれば「食経験あり」となってしまいます。
これはちょっと短すぎるという印象です。

そんな、専門家が十分とは感じられない条件をクリアした商品が、現在社会に出回っているんですよね。

●氷山の一角では?

先日、別の機能性表示食品の消費者庁への届出資料や根拠になっている論文を読んでいると、論文には誤りがあり、研究があまり丁寧に実施されていない印象を受けました。

初めて確認してみた機能性表示食品の資料でここまで内容に疑問をもつとなると、その他の食品の根拠資料はどんななのだろう、と背筋が寒くなりました。

今後、この制度は見直しがされるのか、このまま存続するのか、注視していきたいと思います。

参考文献:

1. 山田耕路. 食品成分の機能と科学. アイピーシー. 2001

2. 消費者庁. 機能性表示食品って何?
(2024年3月29日アクセス)


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執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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