科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

ベニコウジ色素(食品添加物)と、小林製薬の紅麹原料(食品)は違うもの

森田 満樹

小林製薬の紅麹サプリの健康被害が拡大し続けており、3月25日の同社発表(第二報)によると入院した人が26人となりました。その影響は同社の紅麹原料を用いた食品メーカーに広がり、現在、機能性表示食品、日本酒、豆菓子、みそ、豆腐、塩辛などの製品が自主回収されています。

消費者の不安は、同社が製造した紅麹ではない原料や添加物を用いた製品にも広がっています。様々な食品に表示されている「ベニコウジ色素」「着色料(紅麹)」の文字が気になるようですが、これらは食品添加物で、小林製薬の紅麹(食品添加物ではなく食品原料)とは違うものです。

食品添加物のベニコウジ色素は小林製薬の紅麹を原料としておらず、これまで健康被害も報告されていません。食品添加物として国の規格基準で成分規格や試験方法などが定められ、表示方法も異なります。下表にまとめました。

●ベニコウジ色素 食品衛生法の添加物公定書で基準が定められている

ベニコウジ色素は、食品添加物の既存添加物として様々な食品に使用が認められており、厚生労働省が食品衛生法に基づいて定めた食品添加物公定書にも記載されています。食品添加物公定書第10版の中に、ベニコウジ色素の成分規格等が定められています(下図)。

この成分規格には、純度試験も定められています。不純物として鉛やヒ素の重金属、かび毒「シトリニン」などの基準値が定められ、健康被害が起こらないように品質管理がされてきました。

使用基準は、着色料(化学合成品を除く)の基準として「着色料は、こんぶ類、食肉、鮮魚介類(鯨肉を含む。)、茶、のり類、豆類、野菜及びわかめ類に使 用してはならない。ただし、のり類に金を使用する場合は、この限りでない。」があります。これ以外の食品で、水産加工製品や菓子類など幅広く使われています。

●固体培養と液体培養 製造方法が違う

食品添加物「ベニコウジ色素」は、小林製薬の紅麹原料とは製法も異なります。小林製薬の紅麹菌の培養は、紅麹菌を米に植えて繁殖させる「固体培養法」で40~50日間かけて発酵を行います。長期間発酵させることで多くの成分が得られ、モナコリンK(コレステロール低下作用)やGABAなども産生されます。できあがった米の培地ごと食用とするもので、これが健康食品の素材となります

一方、食品添加物の「ベニコウジ色素」は、液体培養で発酵期間は短期間(約1週間程度)で色素を得られることだけを目的としています。多様な成分はできませんが、培養液には目的とする色素が得られ、さらに濃縮、抽出して純度を高めて着色料の添加物となります。前述の成分規格のとおり品質管理もされています。

固体培養でできたものと、液体培養でできたものを分析してもその違いは明瞭で、固体培養は多様な成分を産生するため、様々なピーク(波形)がでてきます。今回、小林製薬の未知の物質が何かはわかりませんが、固体培養の管理の難しさを物語っているようにも感じました。

●食品表示が違う

食品添加物のベニコウジ色素は、小林製薬の紅麹原料とは表示方法も異なります。食品添加物の表示は、一括表示の原材料名欄に、食品原材料のあとにスラッシュ(/)などで区切られて、「ベニコウジ色素」と表示されます。

添加物の表示方法は食品表示基準でルールが定められており、ベニコウジ色素のほか、モナスカス色素、着色料(ベニコウジ)、着色料(紅麹)、着色料(モナスカス)と表示されることもあります。モナスカス色素と書かれるのは、公定書では、ベニコウジ色素(Monascus Color:モナスカス色素)とされているからで、ベニコウジ色素と同じものです。

一方、小林製薬の紅麹原料は食品添加物ではなく食品原料なので、着色や風味付けの用途で使われる場合でも、食品原料の区分で書かれます。原材料名には、スラッシュ(/)の前に、米紅麹(米、米胚芽、紅麹菌)や紅麹などと書かれています。これらは食品添加物の表示で必須とされる「色」という字(着色料や色素など)は含まれせん。

なお、今回の健康被害は、小林製薬が自社製造した米紅麹の一部ロット(2023年後半に製造された複数ロット)で検出された未知の物質が原因、と想定されているものです。他社の紅麹を原料とする製品や、ベニコウジ色素が使われている添加物とは違うもので、紅麹に関する製品が全て危険なわけではありません。

以上のとおり、食品添加物のベニコウジ色素は公定書が定められ、製法も全く異なります。食品表示基準で表示方法も定められており、そのことを知って頂きたいと思います。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

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