科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はHERS M&S代表としてフリーランスで栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

「エビデンスに基づく」が信頼度をはかるキーワード:これでわかった!食事摂取基準5

児林 聡美

(2020年10月に出産し、その後育休をいただいておりました。コラムの続きを楽しみにしてくださっていたみなさま、お待たせいたしました。またよろしくお願いいたします。)

国が公表している、エネルギーと栄養素の摂り方に関するガイドラインであり、信頼できる食情報が満載の「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」はどういうものなのか、その内容を連載でご紹介しています。

これまでに、食事摂取基準の基準値である「指標」には5種類があること、そしてその目的や意味、活用の場面が異なることを紹介しました。

これで、食事摂取基準の指標ってなあに?ということの理解は進んだかなと思います。

それでは次に、これらの指標はどうやって作られているの?という疑問にお答えしていきます。

●信頼できるハイレベルな健康情報

食事摂取基準の指標は、健康な日本人がそれぞれの栄養素をどのくらい摂取すれば、健康を維持できるか、を示すために作られているものだと紹介しました。

つまり、これは健康情報の一種だと考えることもできます。

世の中でよく見かける、「食品〇〇を食べると△△という病気が防げる」といったたぐいの情報と、類似の情報ともいえるのです(実際には、このような健康情報とは作られ方に雲泥の差があるのですが、情報の種類として、健康のためにどのような行動をとればよいかを知らせるために発信される情報である、という点では類似しているという意味です)。

さて、そのような健康情報は、信頼性があると判断される場合に初めて、日常生活の中で実際に活用できるようになります。

信頼性が乏しければ、実際の効果は見込めませんし、そのため活用することもできません。

ということは、食事摂取基準は栄養の業務の現場で活用されるガイドラインとしての役割がありますから、活用してもらうためには、信頼できる健康情報である、と評価できる情報になっている必要があります。

それでは、信頼できる健康情報というものがどのようなものなのかという、そもそも論にあたることを確認しておきましょう。

それが理解できれば、食事摂取基準も、信頼できる健康情報を作る方法と同じ方法で作ればよいわけで、なぜそのような策定方法をとられているのか、その背景を理解しやすいと思います。

●求められるのはエビデンス

健康情報の評価方法というのは、実は以前のコラム(連載第18回 科学的根拠が生まれるまで:論文発表の裏側お見せします)でほんの少しだけ触れていました。

そのときに示した図を再度見ながら、健康情報をどのように評価したらよいか、復習してみましょう(図1)。

図1. 健康情報の見分け方フロー図(文献2):各ステップの基準にもとづいて信頼度を判断するには、研究の内容を理解する必要もあり、とても難しいかもしれません。ひとまず、日常生活で活用できる信頼できる健康情報というものは、このような基準をすべて満たしたものであり、その条件に当てはまる情報は少ないものだ、ということを知っておくことで、氾濫する健康情報に翻弄されなくなるかもしれません。そして、食事摂取基準はこの5つのステップの基準を満たした健康情報をまとめたものなのです。

この図では、ある健康情報が日常生活で活用できるほど十分な信頼性があるか、ということを評価するための、5つの評価ステップを示しています。

ステップ1では、具体的な研究に基づいているかを確認します。

個人の体験談などに基づくだけでは不十分です。

ある人には効果があっても、別の人には効果がない可能性があり、どんな人にも安心して活用できる情報にはなりません。

一方で、研究として実施されていれば、どのくらいの人が試してみて、そのうちどのくらいの割合の人に効果があったのか、そしてどのような人に、どの程度の効果があったのか、といったことが、詳細に公表されています。

そのような場合にのみ、別の人が試したときに効果がある可能性が考えられるようになります。

ステップ2では、その研究が動物や細胞を対象に行われたのではなく、ヒトを対象に行われたものであるかを確認します。

動物や細胞実験による研究では、まだヒトに効果があるかわかりません。

日常生活で活用するには、少なくともヒトで効果があった研究がある場合に、その効果が期待できるようになります。

この「ヒトを対象にした研究」というのが、「疫学研究」といわれる分野の研究です。

ステップ3では、その疫学研究の結果が、学会で発表されたものではなく、論文として発表されているかを確認します。

学会発表と論文報告のどちらも研究発表であることに変わりはないのですが、学会での発表はほかの研究者という第三者の評価を経ずに発表されるため、極端にいうと、少々詰めの甘い研究をしていたとしても発表できてしまいます。

方法や解釈が間違っている可能性もあります。

そのため、あまり信頼性は高くありません。

一方で、論文で発表されるには、ほかの研究者の厳しい査読(質問や指摘をもらい、その内容に従って丁寧に書き直す作業)を経る必要があります。

この詳細なやりとりは、以前のコラム(連載第18回 科学的根拠が生まれるまで:論文発表の裏側お見せします)で紹介しています。

論文を投稿して、実際に発表されるまでに、1年ほどかかる場合もあります。

このような過程を経て発表された論文発表の結果は、学会発表の信頼性よりも非常に高いのです。

ステップ4では、その疫学研究の、研究デザインの種類を確認します。

ここで確認している、「無作為割付臨床試験」や「前向きコホート研究」というのは、今回は難しいので詳しく説明しませんが、研究デザインの種類のことで、因果関係を明らかにできるデザインになります。

つまり、食事が原因で、健康を維持できているという結果が現れる、ということを確認できるデザインのことです(因果関係を確認できるものであることが効果を期待するうえで大切、ということを復習したい方は、「連載第19回 相関関係と因果関係の違いを知ろう」を読んでみてくださいね)。

ひとまず今回は、いろいろある研究デザインの中で、このような研究デザインの研究だけが因果関係を確認できて、特に信頼性が高い、ということだけを頭に入れておいてください。

このステップ4までをまとめると、何かの健康情報が信頼できるかどうかを判断するのに重要なことは、その情報が、「因果関係を明らかにできる研究デザインで実施された疫学研究の、論文発表に基づいていること」が必要であることがわかりました。

このような論文発表の結果のことを「科学的根拠(エビデンス:evidence)」と呼びます。

エビデンスに基づいた情報、というのが、信頼性の判断には重要なのですね。

●たったひとつのエビデンスは危ない

さて、健康情報を活用するには、エビデンスに基づいている情報であることが必要条件ではありますが、エビデンスが1つあればそれで十分かというと、そうは言えません。

そこで最後のステップ5では、複数の研究(エビデンス)があるかを確認します。

たったひとつのエビデンスでは、ある集団では効果があったとしても、別の環境や生活習慣が異なる集団の人たちには効果がないことも考えられます。

それに、ひとつの研究で見られた効果は、たまたま得られた効果かもしれません。

そこで、複数の研究で同じような結果が現れているときに、初めて、その健康情報は現時点で活用してもよいものなのかもしれない、と判断できるようになります。

ただし、これは「現時点では」という条件つきだということも頭に入れておきましょう。

研究は日々実施されています。

新しい研究結果が発表されれば、古い研究結果はくつがえされる可能性もあります。

常に正しい、と信じ込まない、柔軟な姿勢が大切です。

これが、日常生活で活用できる、信頼できる健康情報の条件です。

●エビデンスに基づいた健康情報をめざして

話を食事摂取基準に戻します。

食事摂取基準も、この5つのステップで評価したときに、結果を受け入れられ、活用できると判断できるような情報である必要があります。

つまり、疫学研究、特に食事の分野の疫学である、栄養疫学研究の、複数の研究論文で公表されている研究結果に基づいて、各指標の値を決めていく必要があります。

そこで、食事摂取基準の策定委員の先生方がどうやって指標を作成しているかというと、実際の作業は、これまでに公表されている世界中の研究論文を収集し、指標の策定に必要な記述がある論文をその中から抽出し、その論文の信頼度や、結果が複数あるのかを確認し、それら複数の研究から得られた結果をまとめて解釈をし、その結果を使ってひとつずつ指標の値を決めていく、ということをしているのです。

こうして、食事摂取基準2020年版では、1816報の研究論文を根拠として引用して、指標を作成していきました。

同じような「健康情報」であったとしても、個人の体験にもとづいて「食品〇〇を食べると△△という病気が防げる」と書かれているような情報と、食事摂取基準とでは、情報の作るまでの作業量が全く異なります。

食事摂取基準は、信頼性が非常に高い、エビデンスに基づいた健康情報の宝庫なのです。

だからこそ、栄養業務の現場では、まずはこの結果を拠り所にしつつ、そのうえで目の前の患者さんにはどのように活用したらよいか、状況に合わせてその都度考えて、活用していただきたいと思います。

膨大な本文の内容を理解して活用するには、学ぶ時間もかかりますが、くれぐれも、インターネットなどで検索した結果得られた、エビデンスのない情報だけで業務を遂行することがないことを願っています。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
  2. 坪野吉孝. 検証!がんと健康食品 健康情報の見分け方. 河出書房出版社 2005.

※食情報や栄養疫学に関してHERS M&Sのページで発信しています。今回説明した内容の参考になる、信頼できる食情報を見分ける方法をさらに詳細に説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、通信講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はHERS M&S代表としてフリーランスで栄養疫学研究の支援を行う.

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