科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

出典があるか?ないか?が重要だ!

児林 聡美

2023年の秋に「現在出回っている食事と健康に関する日本語で書かれた情報は、一般書籍でもオンライン情報でも課題が多い」と指摘した論文が立て続けに発表されました(文献1,2)。
論文によると、半数以上の情報に課題があると説明されています。

かなり残念な結論になるのですが、その論文の内容を解釈する前に、どんな情報なら信頼ができるのか、反対にどんな情報は課題があって信頼できないのか、今一度確認してみたいと思います。

●論文というエビデンス

食情報を含む健康情報のうち、どのようなものであれば信頼度が高くて日常生活に活用できるかは、以前のコラム「『エビデンスに基づく』が信頼度をはかるキーワード:これでわかった!食事摂取基準5」でも説明しています。

そのときに示した図はこちらです。再度確認してみてください。

図1. 健康情報の見分け方フロー図(文献3を参考に作成)

簡単に復習すると、特に以下の3つのステップがいずれも「はい」であることが、信頼度が高く、日常に活用できる情報の必要条件でした。

  • ステップ1:具体的な研究に基づいているか
  • ステップ2:研究対象はヒトか
  • ステップ3:論文報告か

ステップ1~3をクリアした情報というのは、「ヒトを対象にした研究論文の結果」に基づいた情報ということになりますよね。

「ヒトを対象にした研究論文の結果」を科学的根拠つまりエビデンスとして参照し、それを活用して臨床判断を下す、という方法は、Evidence-based Medicine(EBM)と言われていて、医療の場面で取られている方法です(文献4)。

この「エビデンスに基づく情報を活用する」という考え方は、日常の健康情報を活用するときにも使っていくべきですよね。
日常生活の中は医療の現場ほど専門的でなくてよい、なんてはずはありませんから。

そして「ヒトを対象にした論文」というのは、疫学研究の論文にあたります。
さらに食情報の場合は「食事のことを扱った(栄養学の)論文」ということになり、栄養疫学研究の論文になります。

つまり、食情報の場合の信頼度の高い情報というのは「栄養疫学の研究論文の結果」に基づいた情報ということになると考えられます。

●論文ってなに?

では、どうして「論文」の信頼度が高いのかを改めて理解しておきましょう。
そもそも論文とはどういうものなのでしょうか。

ある書籍(文献5)では、論文のことを「論文とは、ある研究テーマについて得られた成果を、論理的な手法を用いて書かれた文章のこと」と説明しています。

その分野の専門家たちが読む専門の「雑誌」に発表されています。
一般の人に向けては書かれておらず、その分野の専門家が読んで参考にすることが多いです。
とはいえ、なるべく専門外の人でも理解できるように、詳しく説明をしてあることが求められます。

●2番じゃだめなんです

研究は、今まで明らかにされていなかったことを明らかにするために行い、論文にはその結果が発表されます。
論文には、必ず今まで明らかにされていなかった内容、つまり「新規性」が必要です。
新規性がなければ論文として認められません。

となると、発表できる研究テーマってそんなにあるのかな?と思われるかもしれませんが、今まで明らかになっている内容を少し変えただけでも「新規」と言えることは多いです。

たとえば、これまで海外の人を対象にして明らかになっていたことを、日本人を対象にして検討してみる場合でも、日本人では「初めて」なので「新規」です。
「日本人で検討した」ことは世界で初めて、つまり得られた結果は世界で1番目に発見したことになるわけですね。

研究者は、自分が第一発見者となるような発見をしようと日々研究に取り組んでいるのです。
こんなふうに、世界で1番になることを追求していないと、研究者としては認められないんですよね。

今までできなかったことをできるように、知られていなかったことを明らかにできるように取り組むのが研究で、それを追求することが社会の進歩や発展につながるわけですから。

そして論文には、そうして得られた結果が書かれています。
その時点での最新の結果であり、書籍などに比べると新しい知見として扱われます。

●査読による評価を得た結果

論文は、研究者が書いた原稿を雑誌社に送って、掲載をお願いすることになります。
けれどもすぐに雑誌社が掲載を許可してくれるわけではありません。

雑誌の編集者や、その分野の他の研究者が「査読」という審査をして、論文内容が問題ないか、研究は適切な方法で実施されているか、結果の解釈は間違っていないか、といったことを評価します。
内容が不十分であれば、修正を求められたり、その内容では掲載できないと断られたりします。

1報の論文を掲載させるのに1年以上査読のやりとりをすることもあります。

そんな大変さは以前のコラム「科学的根拠が生まれるまで:論文発表の裏側お見せします」でも紹介しました。

研究発表といっても論文発表以外に学会発表もあります。

学会発表の場合、査読はないか、あっても厳しくないことが多いです。
そして、聴衆と意見交換をして、研究により磨きをかけるつもりで発表されることもあります。

学会発表は研究の途上なんですよね。

そのために、「学会発表の結果」をエビデンスとして使うのは、信頼度が低いと考えられます。

●食事と健康に関する情報の信頼度をはかるには?

これまでの様々なコラムでも、そしてこのコラムでも改めて述べたように、食事と健康に関する情報のうち信頼度が高いものは「栄養疫学の研究論文の結果をエビデンスにしているもの」ということです。
そしてそれが分かるように、その情報にエビデンスとして参照した論文がどれなのかが「出典」として示されているものです。

逆に、信頼度が低く課題のある情報というのは、出典が示されていないものであったり、論文以外の情報を根拠として参照しているものであったり、示されている出典から根拠論文が特定できないもの、ということになります。

このことを頭に入れたうえで、次回は現在の日本語の食事と健康に関する情報の現状を、論文結果を参考にしながら読み進めてみたいと思います。

参考文献:

1. Oono F, et al. Public Health Nutr. 2023; 26: 2815-25.

2. Murakami K, et al. JMIR Form Res 2023; 7: e47101.

3. 坪野吉孝. 検証!がんと健康食品 健康情報の見分け方. 河出書房出版社. 2005.

4. Jenicek M. J Epidemiol 1997; 7:187-97.

5. 村上健太郎. 基礎から学ぶ 栄養疫学研究. 建帛社. 2022.


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執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします