科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食の安全・考

小林製薬「紅麹コレステヘルプ」で6人入院 機能性表示食品の問題、自主回収の責任は?

森田 満樹

キーワード:

とうとう起きてしまった。機能性表示食品の制度がスタートして以来、安全性に問題がある製品が世に出るのではと心配してきましたが、制度ができて10年目に入る直前、大きな健康被害が明らかになりました。2024年3月22日に小林製薬株式会社が発表した「紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ」です。

同日、記者会見が行われ、時系列で自主回収に至った経緯が説明されました。

  • 機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取した13人に、腎疾患等の症状が発生した。最初の症例は本年1月15日、医師からの連絡に始まり、これを含めて2月1日までに5人が入院、その後3月15日まで合計13人に腎疾患の症状が報告され、合計6名が入院した。中には透析を受けた事例もあった。
  • 入院の報告を受けた複数の医師から、かび毒シトリニン(欧州で基準値が設定されるなど規制されている成分)が原因ではないかと指摘された。製品はシトリニンが生成されない菌株でつくっているが、確認するために本製品に使った紅麹原料(自社製造)の全てのロットで分析を行い、シトリニンはは検出されなかったことが判明、医師に伝えた(2月6日~16日)。
  • 2月下旬に関与成分である「紅麹ポリケチド」で何か起こっているのではないか、アレルギー反応はないか等の仮説のもと、検証を行った。
  • 3月に入り、原料に不純物が入っているのではないかという仮説をもとに、腎疾患の報告で共通に摂取したと思われる直近の製品ロットと、製品に使われている紅麹原料ロットを検査した(3月16日)。
  • その結果、一部の紅麹原料と製品に、通常では見られないようなピーク(波形)が出ていることが確認できた。ピークは未知の物質で特定されていない。3月17日に関係者が結果を共有し、18日に緊急対策本部会の会議を行い、本日(22日)の報告に向けて準備を進めてきた。
  • 「紅麹コレステヘルプ」を含む紅麹原料を用いた機能性表示食品5品の対象食品をお持ちのお客様は、当該製品の使用を中止いただくようお願いする。体調不良を感じられるお客様は健康相談受付センターにご相談を。返金等の対応は3月26日より開始予定である。
  • なお、現時点で原因物質の特定には至っていないが、大学と共同で作業を進めている。可能性としてカビから産生されものがつくられていて、ここに原因があるのではないかと仮説をたてている。

以上、記者会見を聞いて、まず驚いたのが被害の大きさです。いわゆる健康食品の健康被害の報告は珍しくありませんが、今回、これだけ短期間に多くの症例が集まり、入院などの重症事例も報告された。しかもこれが、国の保健機能食品制度の1つである機能性表示食品で起こったのですから、ことは重大です。

●機能性表示食品とトクホの違い

「紅麹コレステヘルプ」の機能性表示食品としての安全性はどうなっているのでしょうか。記者会見で「機能性表示食品で国に届出されているが、安全面はあらゆる調査をしているのか」と聞かれ、「届出の際には、原料の安全性は弊社の試験も含め、多面的な論文、結果も含めて消費者庁に受理されたという状況である」と答えています。

「消費者庁に受理された」といっても、同庁に届出だけすればよく、届出内容の審査は行われずに受理されます。ここがトクホ(特定保健用食品)と大きく違うところです。トクホは安全性や有効性について国の審査を受け、審査をクリアすれば許可されて「消費者庁許可」のトクホマークがつけられます。

もし、この製品がトクホだったら…と思いますが、たとえ事業者がトクホの許可申請を行ったとしても、国の安全性の審査(食品安全委員会がリスク評価を行う)をクリアできないと思います。トクホの審査は厳しく、紅麹関連でトクホの製品はありません。

そもそも紅麹サプリは、海外で安全性の問題が指摘されています。食品安全委員会は「紅麹を由来とするサプリメントに注意」とする情報を出しています。紅麹由来サプリはかび毒シトリニンの問題だけではなく、紅麹に含まれるモナコリンがロバスチン(医薬品)の構造とほぼ同じで、コレステロール低下作用は期待できるものの、それだけ有害事象が起こりやすいことでも知られています。

このようにトクホの許可が難しいと思われる商品が、機能性表示食品に流れて大きな市場をつくっているように見えます。安全性の根拠が乏しい製品が次々と届出されており、消費者庁も調査事業などを行って指摘してきましたが、とうとう、健康被害が起きてしまいました。

いわゆる健康食品を選ぶなら、安全性の観点からいえばトクホが一番、信頼性が高いと言えます。機能性表示食品は国の制度なので大丈夫と思われがちですが、国は安全性を確認しておらず、国は責任をとってくれません。

また、有効性も届出で、データの根拠が薄弱で消費者を誤認しているとして2023年6月には景品表示法の措置命令も出ています。機能性表示食品の制度ができて10年、見直しの時期に来ていると感じます。

●自主回収の判断が遅すぎる

記者会見を聞いて、もう一つ大きな問題と感じたのが自主回収の判断の遅さです。1月15日、1月31日、2月1日(3件)と、腎疾患の入院の報告が5件あり、その時点で自主回収をしていれば、被害の拡大は防げたかもしれません。

食品会社であれば、この頻度と重症度で健康被害が起きれば、もっと迅速に対応して自主回収に踏み切るのではないでしょうか。小林製薬は製薬会社だからか、医師への対応に重きがおかれて対応が遅れているようにも見えました。

同社は2月5日に信頼性保証本部内で副作用の情報を集めて協議していますが(この対応も遅い)、この時点で検査を行ったのはかび毒シトリニンだけ。「原料の不純物の混入」の検証も進めて、被害者の共通ロットを絞り込んで分析を行っていれば、もっと早く自主回収ができたはずです。また、不純物の混入がわかって(3月17日)、その週の金曜日(22日)夕方の記者会見も遅すぎます。

記者会見では、小林章浩社長が自主回収の遅さを問われ、次のように回答しています。

「(この件は)2月6日に聞いたが、この時点でこの案件は何らかの形で回収になるという覚悟はもった。そこから、とにかく早く止めなければならない、ロットを限定しなくてはならないという気持ちで取り組んできた。事実確認や原因究明には努力してもらったが、結果として時間がかかってしまい大変申し訳なく思っている。判断が遅かったと言われれば、その通りだと感じております。」

ところで、健康食品の不純物混入といえば1989年秋に起きた米国のL-トリプトファン事件を思い出します。トリプトファンを主成分とする健康食品を摂取した人の中から、全身の激しい筋肉痛と好酸球増多を症状とする健康被害が多発し、報告患者数は1500人以上でした。その原因は製造の発酵工程で生成された不純物が一因であったとされています。

また、食品安全委員会から出された「いわゆる『健康食品』に関する報告書」においても、健康食品に有害な重金属等の不純物が入っていないかなど、品質管理は製造者まかせにされている点が問題と指摘されています。

「紅麹コレステヘルプ」の品質管理は、機能性表示食品の届出情報によれば、公益財団法人日本健康・栄養食品協会から認定を受けたGMP(Good Manufacturing Practice)適合で製造していたとあります。記者会見を聞いていても、原料管理(有効成分の検査、調合工程)は適切だったと思います。

それでも想定できない物質が産生されてしまったとなると、GMPでも対応は難しいでしょう。今回は培養タンクの中で何かが起きているのか、菌の変異なのか、異物混入なのか、管理上の問題なのかは想像もつきません。トリプトファン事件のように微生物の扱いの難しさも感じます。今後、未知の物質が特定されたとしても、その原因究明にも時間がかかるかもしれません。

紅麹は、有効性が高い一方、欧米では様々な課題があげられており、同社がいくら日本の菌株は欧米とは違うと主張しても、難しい素材であることに変わりはありません。こうした素材を機能性表示食品として扱い、市場が拡大してきたわけですから、それ相応の事業者としての責任が問われるべきです。

なお、同社は今回の健康被害について、3月22日に消費者庁に、その前に保健所に伝えたそうです。それも、遅すぎると思います。厚労省は、健康食品による健康被害発生の未然・拡大防止のために、2002年(平成14年)に「健康食品・無承認無許可健康被害防止対応要領(14年通知)」を出し、健康食品等が原因と疑われる健康被害の届け出があった場合は保健所等を通して厚労省に報告されることになっています。その改正案が2023年末に出されたばかりで、今後はより健康被害が国に集まりやすくなると思っていました。1月、2月の入院患者が出るほどの健康被害が起きたのに、国には全く報告されていないのでしょうか。

記者会見の最後に、社長は「品質に関して万全だと我々考えておりましたけれども、製品設計や品質管理体制の上で結果としては不足と言わざるを得ない状況だと思います。」とも述べています。そのことばに誠意は感じられましたが、影響は同社の機能性表示食品だけではなく、原料を供給してきた食品会社にも及びます。どのくらい拡大するのか、想像もつきません。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

FOOCOMは会員の皆様に支えられています

FOOCOM会員募集中

専門誌並のメールマガジン毎週配信

食の安全・考

食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。