科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

改めてファクターXとして日本の食生活を考える

長村 洋一

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昨年早々から始まったコロナ騒動は、何度も大きな波を押し寄せ、ワクチンで収まるかの様相を一時は見せたが、ブレイクスルー感染がワクチン接種後予想外に早く起こり始め、ドイツなどでは最近過去最多感染者数を記録している。そして、外国では幾つかの大都市が再びロックダウンや厳しい行動制限を行い始めている。新たなオミクロン株の出現も、世界各国の緊張を高めている。

そんな中、日本では9月30日にすべての緊急事態宣言が解除され、行動制限のみ残されているが、9月初旬から始まった感染者の減少傾向が諸外国より急速な減少カーブを描き、11月30日現在全国の感染者数が132人で、都道府県別にみても最高が東京の21人で、感染者ゼロの県に至っては27県と全国の半数を超えている。これは諸外国と比較してみてもかなり特異な現象であることが、ネット上で検索できるデータを比較してみると明らかである。

●急激な減少の因子は?

最近、急激に感染を抑え込んでいる大きな因子の一つがワクチンであることは確かだと考えられるが、その抑え込みの度合いが諸外国よりも激しいことは検証すべき事項である。それは、ワクチン接種率が日本より高い国または同等に近い国のデータと比較してみれば一目瞭然である。

マスクの着用に抵抗感が少なく、日常生活でハグによる挨拶的行為が少ない日本の生活習慣がワクチン以外の大きな要因だと考えているが、ここで改めて思い出したいのはファクターXである。

2020年の春ごろ、ノーベル賞学者の山中先生が日本におけるコロナの感染者、死者が欧米に比較して少ないことから、日本にはファクターXが存在するのではないかと仮説を出された。多くの学者がそのXを求めたが決定的な結論は出ず、複数の要因が絡み合って起きた現象である、との見方からこの話題はあまり取り上げられないようになってきた。

しかし、私は「現在の日本は、同じような条件下にある諸外国に比較して明らかに感染者数が少ない」という事実を直視し、このことの解析を行う十分な価値があると考えている。

●改めてファクターX

総合的な因子で感染が抑制されているとするならば、その総合を構成する因子を全て洗い出し、実行すれば第6波が来たとしても諸外国のようにならないように済ませることができるに違いない。

振り返ってみれば本年のオリンピックが始まる前の頃の数名の学者のシミュレーションによれば、東京で1日1万人を超える日はそんなに遠くなく、中には1日5万人以上の可能性もと予測され、メディアを賑わしていた。そのデータの根拠は、諸外国における感染状況と日本の現状から感染力を算出し、描かれた図であった。

しかし、現実には東京都では8月初旬に5千人を超えた日が数日あったのみである。私は、日本には諸外国にはない何か感染に制御を掛ける因子(ファクターX)が存在すると確信する。そしてその因子は単独ではない、微力な抑制力を有する日本特有の因子であると推測している。

●野菜や果物が有する抗ウイルス因子

そこで着目したいのは、日本の食べ物というより食生活とでもいうべき日本人の多くが食べている食品に存在する、弱い抗ウイルス効果物質の探求である。最近目にした以下2つの論文の中にコロナウイルスとの関連文献を見つけた。

  1. Natural Agents Modulating ACE-2: A Review of Compounds with Potential against SARS-CoV-2 Infections
  2. Structure-based drug designing for potential antiviral activity of selected natural products from Ayurveda against SARS-CoV-2 spike glycoprotein and its cellular receptor

この2つの論文はいずれもコロナウイルスをブロックする可能性をドラッグデザインの観点から追求した植物成分の研究報告である。

ここで、両論文に共通した化合物を見てみると、ケルセチン,クルクミン,ナリンゲニン,ルテオリン,ヘスペリジン、マンギフェリン, ガーリック酸(没食子酸)といった多くの植物に含まれる成分ばかりであることである。ケルセチンは玉ねぎ、リンゴ、ブロッコリー、コケモモ、お茶、モロヘイヤや柑橘類に多く含まれ、これら食品はいずれも健康に良い食品として扱われており、多くの生理作用も報告されている。

またヘスペリジンはミカンを始め多くの柑橘類に含まれていて、ミカンの皮は漢方では陳皮として医薬品に分類される。冬至の時に柚子湯に入る習慣が日本にはあるが、風邪のシーズンにヘスペリジンの湯に入るということは、ひょっとして「深い意味が?」と興味が湧いてくる。

このように植物がウイルスに対して抵抗性を示す物質を合成しているのは「ウイルスに抵抗しなければならないのは植物も同じ」であるからと考えれば、簡単に納得がゆく。植物も長い進化の過程で多くのウイルスと戦ってきたに相違ない。抗生物質が微生物同士の戦いのための武器として生成する化学物質であったことを考えれば、植物がウイルスとの戦の武器を化学物質として合成していることは十分考えられる。

我々の身近な果物・野菜の中にコロナウイルスと強固な結合をする化学物質が存在する。このような何か特効薬的効果はないが、日本の食べ物の中にコロナウイルスを抑制する化合物が諸外国よりわずかに多くあって、ウイルスを抑え込む力が少し強い可能性があるのではないだろうか。

●この問題を日本人の肥満度世界ランキングから考える

なぜこのような僅かな効果に注目したいかと言うと、日本は肥満度における世界ランキングで166位である(世界・成人の肥満率ランキング(WHO版) – 世界ランキング (sakura.ne.jp))。

また令和元年度国民健康・栄養調査によれば、日本人の1955年の国民の平均摂取エネルギーは2,104Kcalであったが、2019年には1,903Kcalと200Kcal近く減少している。しかし、肥満者や糖尿病患者は明らかに2019年の方が多い。このことは摂取エネルギーに対する運動量の減少なども考慮しなければならないであろうが、それだけではなく、食材が強く関係していると推測している。

日本では、経済的な状況下でお金がないために食べられない人の数は欧米に比較して決して劣らないにもかかわらず、肥満者は少ない。これは、明らかに日本の生活習慣、その大きな要素として食生活の食品素材を考える必要があるのではないだろうか。

たとえば、欧米の食材に比較して日本食の食材は一般にグリセミックインデックスが低い。どれか一つの食材に注目して疫学調査を行っても、どの食材も有意に体重増加を抑えることはない。しかし、全般に低いという事が結果としては体重増加抑制に大きく関係していると考えたい。こうした非常に僅かではあるが効果のある因子が集合したとき、結果としては非常に大きな変化をもたらす可能性を生活習慣などについては考慮しなければいけないと私は最近強く感じている。

●日本茶は、メタ解析では否定的だが…

たとえば、医学論文のシステマティック・レビューを行なう国際的団体のコクラン共同計画で行われたレビューでは「緑茶抽出物の体重減量効果は小さく、統計的に重要ではない」という結論をメタ解析によって結論付けている。この報告では全世界のデータを集計するとそうなるが、日本のデータのみを解析すると有意に体重減少効果がある、としている。この解析を、お茶を飲み、米やそばを食べ、魚を食べる人と括って比較すれば、お茶カテキンの有する体重減少効果が出てくると読んでいる。

ここに私は単一要素をあぶりだすことには優れている疫学的エビデンス手法の限界を感じ、何かさらに新しい手法はないものかと考えている。

日本茶で行われたような疫学調査をコロナウイルスに適用して、日本では日本茶を飲む人口が欧米よりはるかに多く、茶カテキンには抗菌作用があることを考慮して感染症に対する効果を調べてみても、その人たちに感染症の抑制効果はないという結果になると思う。

しかし、お茶を飲み、米、ソバ、魚、柑橘類や野菜を食べる人の抗ウイル作用は欧米食に比較して、若干であるが感染に対して強いと仮定することはできないのだろうか。

その抵抗力の閾値は決して高くないので、日本においても欧米的な挨拶習慣を行ったり食事を摂ったりすれば欧米と同じようになるが、マスク会食や換気をしっかりすれば、クラスターの発生頻度は欧米よりはるかに少なくなるのではないだろうか。

●緊急事態宣言時の行動制限はかつてのがん手術と同じ

もしそうだとすると、日本においてはロックダウンに近い緊急事態宣言時の行動制限は必要ないのではないかと考えている。私は緊急事態宣言における行動制限を一昔前のがん手術の様に感じている。

たとえば胃に小さながんが見つかったら、胃を全部取ってしまうのが確実な方法であるのは事実だが、患者さんにとっての負担は非常に大きい。今は、内視鏡で簡単に除去でき、患者さんへの負担を最小限にできる。このようにもう少しポイントを絞った対策で対応することにより、もし第6波らしきものが襲ってきたとしても、国民の多くが、欧米人よりその生活習慣によりウイルスに対し若干抵抗力があると仮定したら、その行動制限には今までの緊急事態宣言時におけるような必要はないのではないだろうか。

いずれにしても、日本型の食生活を含めた生活習慣全般が諸外国に比較してコロナに対抗力を有していると感じている。米、ソバ、魚、柑橘類、玉ねぎ、カレーなどを幅広く食べ、日本茶を飲むことが、ひょっとすると濃厚接触さえなければコロナ感染を防げるかもしれないと考えている今日この頃である。

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

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