科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

大学共通テスト 添加物の誤った記述

長村 洋一

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以前、市民公開講座を依頼された方から「今年の大学入学共通テストの英語の問題で、人工甘味料に関して疑問視したくなるような設問があったのはご存知でしょうか?」というメールを頂いた。そのメールには日本食品添加物協会の見解と科学ジャーナリストの松永和紀氏の意見が紹介されていた。早速、この2つを読んでみた。

松永氏の意見の最後には「共通テストを、50万人を介した科学への誤解を広げるブースター、増幅器にしないでください」と悲痛なお願いが書かれていた。これを読んでいたく共感し、この試験問題に書かれている添加物の誤った記述について多くの方に知ってもらいたいと、筆を取らせていただく。

にじむ「天然安全信仰」

試験問題は、2021年大学入学共通テストの英語(リーディング)第6問Bの読解問題である。この問題文の前半では、まず、砂糖などが多量に添加された食品は、肥満などの健康上の問題につながるので、多くの人が低カロリーの代替品を選ぶと指摘。そして、その低カロリー甘味料(LCSs)はステビアを除いては人工的なものであり、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースをその例として挙げて、その特徴を紹介している。

ここまでの記述は「天然安全信仰」を強く感じさせるものがあるが、特に問題としたいのはこれに続いての記述である。いくつかの研究によれば人工的なLCSsには健康に懸念があるとして、次のように記している。

Some LCSs contain strong chemicals suspected of causing cancer, while others have been shown to affect memory and brain development, so they can be dangerous, especially for young children, pregnant women, and the elderly.

いくつかのLCSsには、がんを引き起こすと疑われる強力な化学物質が含まれているが、一方で他の物質には記憶や脳の発達に影響を与えることが示されている。そんなわけで特に幼児、妊婦、高齢者にとって危険となりうる。

2021年大学入学共通テストの英語(リーディング)より 訳文は筆者

また、キシリトールやソルビトールなどの天然由来の甘味料について以下のように結んでいる。

Unfortunately, these move through the body extremely slowly, so consuming large amounts can cause stomach trouble.

残念ながら体内を極めてゆっくり移動するため、大量摂取で胃のトラブルを引き起こす可能性がある。

2021年大学入学共通テストの英語(リーディング)より 訳文は筆者

このUnfortunatelyという書き出しは、筆者の天然安全信仰の考え方がにじみ出ている。

甘味料の発がん性や神経毒性に関する記述は、明らかな誤りである。ここで記されているLCSsは、海外でも日本でも安全性に問題が無いとされ、使用が認められている。ところが、この文章の前書きは「You are studying nutrition in health class.」で始まり、そこでの教科書の記述とされているから見過ごせない。

2021年大学入学共通テストの英語(リーディング)の第6問Bの冒頭部分

見過ごせない問題点

私はこの問題を読みながら、多くの日本の消費者にも見られる天然安全信仰と、必要以上に添加物を危険視する姿勢に危機感を持った。そして、それが文部科学省と、メディアによって育まれているのではないかという危惧の念を改めて抱いた。(詳細は拙著「長村教授の正しい添加物講義」を参照されたい)

なぜなら、この英語の問題は一大学の入試問題ではなく、英語教育の専門家、社会的に立派な方が複数集まられて検討を重ねられ、やっと出来上がった問題であるからである。すなわち、しっかりした社会常識を有する方々が、誰一人としてこの内容に疑問を持たなかった――という事実に対して驚いている。

大学に入って、理系の食品衛生学を習得される学生ならともかく、ほとんどの学生は現在の甘味料の安全性、食品添加物の科学的な見解を習得する機会がないだろうと推測する。となれば、今後この問題文の内容をそのまま正しいと信じ続けられる可能性が高いだろう。また受験勉強で、この過去問に接する学生も同じである。その観点から、この問題の影響は大きいと言わざるを得ない。

文部科学省のスタンスは

話は変わるが、2019年度に開催された消費者庁「食品添加物表示に関する検討会」でも、文部科学省の記述が問題となった。同省が2009年に出した「学校給食衛生管理基準」の中の以下の一文である。

有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他の食品添加物が添加された食品、又は内容表示、消費期限及び賞 味期限並びに製造業者、販売業者等の名称及び所在地、使用原材料及び保存方法が明らかでない食品については使用しないこと。

学校給食衛生管理基準より 詳細は別記事参照

この検討会では、食品添加物そのものに関しても普及・啓発を進めていくことが大事とされ、この記述について食品添加物の誤解を招くとして改正を求める声が複数の委員から上がった。議事録だけでなく、報告書にもそのことが書かれている。しかし、文科省は未だにこの記述を変えていない。学校教育の現場で食品添加物の誤解が広がってしまうことが懸念されるのは、今回の共通テストの問題が初めてではない。

教育課程で修得した知識は、多くの人は年を経るとともに変化してゆく。ことに現代社会ではその変化が非常に目まぐるしい。近年は最新情報をテレビ等のメディアとネットから得ている人が大半である。専門分野を除いては、かく言う私も全くその一人である。

様々なメディアの情報には多くの誤った情報が含まれているが、その真偽については自身の専門分野を除いては判断をするのは容易でなく、多くの場合は感覚的に納得できるかどうかで判断される。メディアも添加物に関しては誤った情報にあふれており、化学物質に関しては量を無視しての議論が多くまかり通っている。

そんな事情から私は15年ほど前から医学、薬学、医学検査学、栄養学、農学の教育機関の方々とで(一社)日本食品安全協会を立ち上げ、健康食品を含む食のリスクコミュニケーター養成を行っている。今回の問題を通して、より直接的に一般市民の方々へ情報発信を行ってゆく必要性を改めて感じている。

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

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