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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー
8月5日、農林水産省は前年(2021年)の食料自給率を発表した。カロリーベースでは前年より1ポイント増の38%だが、生産額ベースでは4ポイント下がって63%と過去最低になった。毎年、この時期恒例の発表だが、今年はロシアのウクライナ侵攻による小麦など穀物不安や肥料輸入危機、円安による原材料や燃料の値上がりが重なり、メディア各紙は例年以上に「伸びない自給率」、「輸入依存への不安」を強調する記事が目立った。
私が驚いたのは3日後の8月8日、金子農水大臣の定例会見の発言だ。農水省のサイトに公式発言が載っている。
食料自給率の質問はこの2つだけ。大臣の発言へのさらなる突っ込んだ質問はなかった。私は大臣の発言はどちらも答えになっておらず、とくにカロリーベース自給率が40%以下で低空飛行を続けていることへの反省がまったく感じられない無責任発言だと思った。
金子大臣は2日後の内閣改造で交代し、参議院議員も引退したので、怖いものなしの開き直り発言にも思える。しかし、過去の経歴、発言から、放言、失言をするタイプではない。記者の質問にまともに応えず、過去20年以上、40%すれすれの低い値のままなのに、「1年、2年で自給率を上げるのは難しい」と平然と言い放ったのは大臣個人ではなく回答書を書いた農水省の役人たちの本音なのだろう。過去1度も目標値を達成できないことへの反省、危機感はない。振り返れば、毎年8月の自給率発表時の農水省の数値変動の解説と、メディアのあまり深みのない記事、論評が繰り返されてきた。今年も例年通りだったとも言える。
過去の数値を見てみよう。食料自給率は食料・農業・農村基本法によって、5年ごとに見直し、10年後の目標値を決める。生産額ベースの目標も決めるが、為替レートなどによる輸出入の変動要因が大きいので、ここではカロリーベースの目標値のみを示した。
自民党時代の2005年には45%だったが、政権交代した民主党は2010年に50%という野心的目標に変えた。しかし、その後も39%が続き、上昇の兆しがまったく見えないため、自民党政府は2015年に45%に戻し、2020年も45%に据え置いた。
しかし、目標を45%にしても50%にしても自給率はまったく上がらない。毎年の数値の推移を見ていれば、2015年や2020年の基本法見直しの際に、増えない原因を明らかにし、抜本的な対策をとるべきだった。しかしそれをやらなかった。過去5年の発表時の農水省の解説を見てみよう。
毎年、減った、増えたと細かい数値をあげ、天気が悪かった、コメの消費がどうだったと微細な解説をしているが、その根拠も確たるものではなく、表面をさらりとなぞっている感じで、深刻度は伝わってこない。
農水省は5年ごとの自給率見直しとともに、新たな指標も作った。食料自給力と食料国産率だ。
食料自給力は2015年から登場した。国内生産だけでどれだけカロリーを最大限生産できるか。要するに外国から輸入できなくなった時を想定し、コメやイモ中心で生産できるカロリー値を示した。今の肉や野菜、果物をバランスよく食べる生活と、なにも輸入できない非常事態のイモ中心の食生活のカロリー生産量を示している。かつての第2次世界大戦による食料不足を想定し、国民に覚悟を求めたのかもしれない。しかし、非常事態と言っても、化学肥料や農薬まで輸入できなくなることは想定していない、中途半端で現実的とは言えない数値で、ほとんど普及していない。
食料国産率は2020年から登場した。飼料自給率を考慮しない、カロリーベースの食料自給率だ。今までのカロリーベースの(総合)自給率は飼料の海外依存度が高いので、国産の家畜農家などが頑張っても自給率はわずかしか上がらない。そこで飼料自給率を考えない純国産自給率指標を新たに作ろうということで、登場したのが「食料国産率」なる指標だ。エサのトウモロコシや牧草が輸入でも、日本で育った家畜の肉や卵なら100%国産ということで、この数値でカロリーベース45%を達成しようという目論見だ。2020年と2021年のカロリーベース自給率は37、38%だが、食料国産率に換算すると、46%、47%になる。この数値を使うとカロリーベース45%%目標をすでにクリアしている。
しかし、飼料の75%を輸入し、それをエサにした肉や卵、乳製品は純国産とすることに何の意味があるのだろうか。食料国産率は2020年2月の農水省政策審議会に提案された。しかし委員からも用語の定義や、目的の分かりにくさを指摘する意見があがった。
2020年2月の新聞記事を紹介する。総じて評判は悪い。
北海道新聞は「姑息以外の何物でもない。新指標は輸入飼料への依存度をさらに高めかねない」と糾弾しているが、その通りだろう。45%どころか40%維持も難しい。そこでひねり出した国産自給率だが、どう考えても無理があるお粗末な指標だ、
国産自給率なる新指標をひねり出した2020年2月当時は、足りない分は外国から輸入すれば済むという平和な時代だったが、2022年2月以降、状況は大きく変わった。金があっても肥料や農薬の原材料が買えない。円安で円の価値も大きく下がっているので肥料や穀物飼料の価格も急騰している。
ウクライナ問題が解決し、再び円高に戻って、「国内で足りない分は輸入し」「買ったほうが安い」状態になるのなら、農水省のその場しのぎの食料自給率政策でも良い。
しかし、そうはならないだろう。ウクライナやロシアの情勢を見ると、穀物相場や肥料、原材料市場が短期間で改善するとは思えない。むしろ来年、再来年と日本農業、食品産業にとって深刻度は深まると思う。
冒頭の農水大臣の会見にもあるように、農水省は今秋から農業基本法を検証し、自給率が向上しない原因なども検討するらしい(日本農業新聞2022年8月17日)。
どこまで原因を深掘りして、どんな対策を作るのだろうか。輸入飼料を考慮しないならカロリーべース自給率は今でも45%を超えているので、家畜飼料輸入ゼロにすれば数字上は解決するが、現実には無理なシナリオだ。
「国民がコメを食べないのが諸悪の根源。内食、外食、コンビニおにぎりなんでもいいからもっとご飯を食べよう」と強調するのか。それでも「国産食料率」のような新指標を作って、数字だけの帳尻合わせを目論むよりはましだが。今まで通り、10年単位の長期目標を掲げるだけで、責任をあいまいにする施策なら、期待はまったくできない。
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介