科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

台湾で日本産ラーメンからエチレンオキサイド検出・不合格

斎藤 勲

台湾では、日本の食品が残留農薬の基準値超過等でしばしば輸入差し止めになる。5月のFOOCOMコラムでは、台湾に輸出された日本のイチゴの農薬違反について紹介した。

その後もイチゴの違反から、ミカンのテトラジホン(基準:不検出)、シアントラニリプロール(基準:不検出)、モモのクロルピリホス(基準0.01ppm)と、季節に合わせて違反対象が変わってきている。台湾に基準値がないものを出荷すれば、基本的には多成分一斉分析法で検査して引っかかる可能性は高い。

 そんな中、ここ最近変わった違反事例が報告されている。日本から輸入した塩ラーメン、味噌ラーメン、ゴマ風味ラーメンの調味料から酸化エチレン(エチレンオキサイド・EO、基準:不検出)が、0.058~33ppm検出され不合格となっている。

台湾FDAの違反食品リストより抜粋。あるラーメンの不合格原因説明では「案內產品之料包檢出殘留農藥環氧乙烷(ethylene oxide) 0.064 ppm」と記載されていた。

●EOと2CEの関係

正確には、EOは分解して検出しないが、反応生成物2クロロエタノール(2CE、エチレンクロロヒドリン)が検出されたため、EU基準と同じように合算で基準違反となっているのだろう。EUの規定では、EOと2CEの合計をEOで表示し、その検出基準0.05ppmを採用している。

EOは国際がん研究機関IARCでヒト発がん物質グループ1(遺伝子などを損傷する発がん物質)に分類され、EUでは食品に使用禁止となっている。一方、インド、米国、カナダなどではハーブ、スパイス、シードなどに燻蒸剤、殺菌剤として使用が認められている。

EOは滅菌ガスとして広く医療用具、文化財保存等の燻蒸にも広く使用されている。EOは、水と反応すれば甘い味のエチレングリコール、塩素が存在する状態だと2クロロエタノール(2CE)などが反応物として生成する。

2CEは毒性物質ではあるが、エチレンオキサイドのような機序の発がん性は認められていない。EO以外の経路から由来することもあり、環境中にも存在することもある。米国とカナダではEOと区別して管理することが必要として、EU基準とは異なり、CEとEOを別個の物質として基準値を設けて管理している。

●欧州ではEO検査で2CEが検出されリコールに

ことの発端はEU(欧州)での出来事である。2020年9月にEU(ベルギー)でインド産ごまからEO(正しくは2CE検出)が33ppmほど検出され、緊急警報システムRASFFでリコール回収された。その後、EU各国でEO検査が実施されゴマ、ゴマ含有食品、シリアル、調味料はなどいろいろなものから2CEが多数検出、アラートが発せられ混乱が生じた。

2021年ドイツの商品テスト財団の検査で、44検体中ゴマ製品4件から基準値の14倍から525倍(!)のエチレンオキサイドが検出されたと、消費者に不安を与えるようなレポートもあった。

EOはほとんど検出されず、反応生成物2CEをEOに換算(×0.55)して数値化して違反を出しているのは、使用不可のEOの使用の有無を確認する目的から反応物質2CEを基準に合算しているのではないだろうか。

EOの取り扱いは発がん物質なので不検出で問題ないが、分解物の毒性も異なる2CEを同じ基準で括ってもいいのかの議論があり、現在欧州食品安全機関EFSAが毒性試験など評価中とのことであり、遺伝毒性の可能性の有無が明らかになったらばEFSAは新たな基準を設定するという。

●韓国ラーメンも2CE検出でアラート

昨年、韓国ラーメンもEUに輸出してEOとして2CEが検出され、緊急警告システムに引っかかっている。詳細は、食品安全情報(化学物質)No.19/2021(2021.09.15)別添参照

韓国は貴重な輸出品がアラートに引っかかったので、食品医薬品安全処MFDSが精力的に調査している。韓国国内での製造工程など調査し、2CEは乾燥ネギ0.11、野菜ミックス2.2、粉末スープ12.1ppm検出されたが、EOを製造工程で使用していないことも確認された、EO以外の汚染源の可能性も考慮して2CEの暫定基準30ppm以下(幼児食品10ppm以下)としたとのこと。

ちなみに米国やカナダではスパイス、ゴマなどEO 7ppm、2CE 940ppmと、別個に基準が設定されている。今回も各国の基準運用の違いが貿易トラブルを引き起こしている残念な事例である。

今回の基準の取り扱いもさることながら、スパイスなど摂取量は少ないものの、細菌汚染など食中毒に直結する食材をそのままで輸入するよりも、きちんと燻蒸して殺菌して安全な食材(発がん物質EOは残存していない)として流通すべきというリスク管理からの観点も重要だと感じる。

台湾も、米国やカナダの基準を運用してくれていたらこんな問題が起きなかったかもしれない。しかし、当面はEUの「EO+2CE 0.05ppm」の基準を準用するようである。EUや台湾などに輸出する際は、その国が運用している基準値を十分理解しておいしい日本産食品を届けてほしいものである。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。