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執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

台湾で相次ぐ日本産イチゴ違反 香港では?

斎藤 勲

今年も台湾での日本産イチゴ違反が賑やかしい。
毎月、台湾の衛生福利部食品薬物管理署が、日本からの輸入食品の不合格の検査結果を公表する。今の季節は違反食品としてイチゴがずらりと並んでいる。またか、という感じがするが、台湾での報道では「日本から毒イチゴ」みたいな表現もあり、ほっておくわけにもいかないだろう。

多くは、日本人が普通においしく食べているイチゴや、付加価値を付けたイチゴを輸出しているだけなのだが…。

● 台湾では全ロット検査 少量ロットでも検査され違反となるケースも

1月6件、2月10件、3月8件の不合格事例を見てみると、九州地区、奈良、静岡の輸入イチゴの検査で殺虫剤フロニカミド(台湾:一律基準0.01)、シアントラニリプロール(台湾:不検出)、スピロテトラマト(台湾:一律基準0.01ppm)、クロルフェナピルなどが不合格となっている。

日本の基準値では十分低い値であるが、0.02ppmでも検出されれば不合格である。ロットは最小1.5㎏から最大345㎏、全ロット検査だからイチゴがあれば4パックだけでも検査され違反となる。

しかし、気になる検体が2件ある。ピメトロジン*1.5ppm(1.0ppm)とビフルブミド1.3pm(0.8ppm)である。ピメトロジンは日本基準は2ppmなので1.5を四捨五入して2ppmで日本でもギリギリ、ビフルブミドは日本基準1ppmなので1.3は四捨五入で1ppm だが、サンプリング部位によっては1.5で2ppmになる可能性があり、散布時期など残留を配慮した散布を心がけてほしい。

日本は台湾での登録がないこれらの農薬について、残留基準の設定の申請(インポートトレランス)を求める方針だという。しかし、今シーズンには到底間に合わないだろう。来シーズンに向けて早急な対象のための農薬リストと申請に必要なデータをそろえて、台湾側の迅速な対応を促してもらいたい。いつまでたっても規制の違いで違反になるのは、無意味な風評被害を招くだけだから。

今年に始まった違反ではないので、日本各地のイチゴ生産者も対策を進めており、台湾の残留基準に見合った病害虫防除体制を積み重ねているところも増えてはいる。

● 日本のイチゴ輸出 台湾で違反が多い理由

さて、日本のイチゴ輸出は2014年以降増加し、2018年には1000トンを突破、金額も40億円となっている。大ぶりで甘くておいしく、見たこともないようないろいろな種類の日本のイチゴは、日本産だから安全安心であるという信頼感もあり、価格は2倍から5倍、モノによっては10倍近い値段で販売されている。佐賀県産さくら淡雪など、違反の写真が公開されて初めて知った種類もある。

2021年のデータでは、輸出先は香港1,343トン、台湾236トン、シンガポール95トン、タイ57トンで、輸出量では圧倒的に香港である。香港には米国、韓国からも倍以上のイチゴを輸出しているが、金額は3,4割低く、いかに日本産が高評価されているかがわかる。台湾でも米国からの輸出は5倍くらいの数量だが、金額は日本産の2倍未満である。

日本産イチゴが農薬の基準違反で不合格になるのは圧倒的に台湾である。一番多く輸出している香港からは、台湾ほど頻繁にイチゴの違反を聞くわけではない。どうしてなのか。それは、台湾と香港の輸入食品の検査体制、違反の対応方法の違いもあるだろう。

台湾は日本と同様、ポジティブリスト制度を運用している。また、検査は輸入される膨大な数の農産品についてある頻度でモニタリング検査を行い、違反事例が見られると検査頻度を上げ、そこで違反品が見つかると全ロット検査の命令検査となる。日本と同様の厳しい検査体制である。

日本でも毎月、違反事例が報告されているが、出荷量が多い中国などの食品は違反件数も高くなるため中国産は悪い食品というイメージを作り出している。まさにその状態が台湾での日本産イチゴの状況である。人のことは言えないのである。

● 台湾と香港 検査における考え方の違い

日本も台湾も、自国で設定する基準値の管理であり、リスク評価的な対応ではない。日本の違反事例には、「現実的ではありませんが、体重 60 kg の人が、0.04 ppm残留した食品を毎日 1 kg摂取し続けたとしても、一生涯の平均的な摂取量が許容一日摂取量を超えることはなく、また、1日に100kg摂取したとしても、急性参照用量を超えることはなく、健康に及ぼす影響はありません。」といったリスク評価があるが、確かに現実的ではない。

一方、香港では、食品中残留農薬管理について、以下のコメントが載っている。

「食品中残留農薬: 規制の一般原則は、免除された農薬を除き、 MRL/EMRL が指定されていない残留農薬を含む食品の輸入または販売は、当該食品の消費が危険または健康に害を及ぼさない場合にのみ許可されるというものです。 リスク評価に基づいて、食品安全センターは当該食品の消費が危険であるか健康に有害であるかを決定します。

「Import Control and Food Safety Guidelines,Centre for Food Safety,Hong Kong」

つまり、ポジティブリストではなく、基準値が設定されていない農薬が見つかった場合は、そのリスク評価を行い対応すると述べている。多くの食品が、相当量食べても健康影響はないという判断もされている事例もあるだろう。香港の食品衛生行政は、本国からくる膨大な食品の衛生管理が主軸であり、定期的なモニタリング調査で海外からの輸入品もチェックしているという状況なのだろう。

さらに、違反検査結果の備考欄には、次のように記されている。

「一般的に言えば、野菜の残留農薬を減らすために、市民はきれいな流水で野菜を十分にすすぎ、表面や隙間から殺虫剤や汚染物質を含む汚れや物質をきれいなブラシで硬い表面でこすり洗いすることができます。残留農薬に関する食品規制における残留農薬(Cap 132CM)の要件を遵守していない食品を輸入、製造、または販売する者は、犯罪を犯し、有罪判決を受けた場合、最大 50,000 ドルの罰金と 6 か月の禁固刑に処せられます。サンプルで検出された残留農薬のレベルに基づくと、通常の消費では健康への悪影響は引き起こされません(下線筆者)。 CFSは、問題の食品の出所を追跡し、検査のためにサンプルを採取することを含め、違反結果をフォローアップします。」

昨年1年間の香港食品安全センターのモニタリングで残留農薬違反となったのは21件、葉物や輸入果実などからチアメトキサムなどネオニコチノイド、有機リン剤、ピレスロイドなどが検出され不合格となっている。そこには、圧倒的に輸入量が多いイチゴの名前はない。

一方、台湾は日本と同じくポジティブリスト制度でゼロリスクに近い形の運用をしており、その運用に多くの経費をかけて一律基準違反の厳格な運用を輸入食品にも適用している。リスク管理上問題はないのに、イチゴ4パックの検体で法律違反を出していて、正直なところどんなメリットあるのだろうか?と、ふと呟いてしまう。

注*)記事をアップロードした際には「ペルメトリン1.5ppm(1.0ppm)とビフルブミド1.3pm(0.8ppm)である。ペルメトリンは日本基準でも1ppmなので1.5を四捨五入して2ppmで日本でも違反、」としていましたが、農薬名が誤っていました。ペルメトリンではなく、正しくはピメトロジンでり、これに伴い基準値も変更しました。(2023年5月8日修正)

注)その後、日本の要請を受けて台湾で農薬2種に残留農薬基準設定のニュースも報道されています。ご参照ください。(5月8日追記)

「台湾、使用未許可のイチゴ農薬2種に残留基準値設定へ 日本からの要請受け」https://japan.focustaiwan.tw/society/202305040001

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

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残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。