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執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

中国産輸入食品違反を取り上げるなら、日本からの輸出違反は?

斎藤 勲

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出所:Adobe Stock

週刊誌などでは定期的に中国食品の危険性を伝える記事が発信されている。最近も「あぶない中国食品2022」(週刊文春5月5・12日)として中国産ピーナッツのアフラトキシン、冷凍ブロッコリーや玉ねぎの基準違反、中国国内でのトンデモ食品の流通、中国産アサリなどの偽装問題など、中国食品の危険性が紹介された。中国食品の危険性を強調したいようだが、事実がゆがめられることが多い。

今回はピーナッツのアフラトキシンと冷凍ブロッコリー基準違反(殺菌剤、大腸菌)についての問題点を指摘し、日本からの輸出食品についても考えたい。

ピーナッツのアフラトキシン違反

カビ毒アフラトキシンは発がん物質として有名で、汚染国の疫学調査でも食品中残留濃度と肝がん発生率との相関が証明されている。海外では高濃度のアフラトキシン汚染トウモロコシなどを食べて死亡事例もあり、1974年インド、2004年ケニアでは100人を超える死亡者が発生している。

輸入時のアフラトキシン検査は特に厳しく、輸入申請時に輸入者自らが検査して適法と判断されるまでは輸入されない。現在はアフラトキシンB1、B2、G1、G2の合計で10ppbの基準がある(飼料の場合はアフラトキシンB1基準で、乳用牛10ppb、配合飼料20ppb)。

以前は最も毒性が高いアフラトキシンB1だけで10ppbだったが、2011年より4成分合計で10ppbの厳しい基準に改訂された。これらは、アスペルギルス属(コウジカビ)の一種のカビが高温多湿の条件下で産生する毒素で、熱に強い。暖かい国では多くの作物が汚染されており、国内に輸入される食品、特に米国から輸入されるトウモロコシ、落花生、アーモンドの違反件数は毎年中国の倍以上である。しかも、米国の違反重量は輸入食品全体(2020年度)の約6割を占めているのも問題である。米国では総アフラトキシンが食品中20ppb、乳用牛、幼畜用20ppb、肉用牛300ppbと基準値が異なるため、汚染管理の差もあるだろう。他にもイタリア、インド、ブラジル、イラン等々暑い国からのピスタチオ等の種実類や香辛料の輸入は違反が見つかっており、検査命令等の対象となり厳しく監視されている。中国産ピーナッツのこれらの国と比較すると違反率はかなり低く、違反品はもちろん国内には入ってこない。

カビ毒の検査で難しいのは、カビ毒汚染の局在化である。極端な場合1000粒のピーナッツの中で、一粒だけ11ppmのアフラトキシンに汚染されていると、均一に粉砕されたならば11ppbとなり違反となるが、同一ロットの中でも検査結果が大きくばらつく原因ともなる。そのためカビ毒検査ではサンプリング部位を増やして、よく混ぜてサンプルとするなどの操作が必要となり検査のハードルは高い。

ブロッコリーの殺菌剤プロシミドン、大腸菌違反

中国産野菜の記事で気になったのは、「糞尿を十分に発酵する前に畑にまく農民が多く、大腸菌が検出されてしまう。そのため、大腸菌や虫を防ぐ目的で大量の農薬や殺菌剤をまく―――。」の部分である。

土壌に植えられる野菜には多くの微生物が付着している。まれに食中毒菌も付着することはあるだろう。現に生鮮野菜等でサルモネラ、腸管出血性大腸菌による食中毒が発生している。しかし、そもそも論として、自作や小規模ならいざ知らず、広大な圃場で管理がきびしい輸出農産物で糞尿の使用などは考え難い。

今回のブロッコリーの違反は冷凍食品(区分は加熱後摂取冷凍食品・凍結食前未加熱)である。冷凍食品には成分規格として細菌数(生菌数)300万以下/g(加熱しないで食べる場合は10万と厳しくなる)、大腸菌(E.coli)陰性の規定があり、農薬などの検査とともに実施される。これは製造工程での衛生管理指標であり、中国産のいろいろな野菜や加工食品もE.coli違反となっており、圃場での汚染というより加工製造工程での汚染だろう。

また、農薬の違反としては殺菌剤プロシミドンの違反が多い。これは日本ではブロッコリーに適用がなく一律基準0.01ppmとなるが、中国では使用でき、5ppmの基準がある。リスクが高いとかではなく、国と国の制度の違いが原因の違反である。

一律基準超過といっても大半が0.05ppm未満であり、それなりに気を付けて栽培しているだろうが、土壌汚染やドリフトなどが原因の場合もあるだろう。またプロシミドンは1981年に国内登録(住友化学・スミレックス)され、菌糸の伸長生育を特異的に阻害し、菌核病、灰色カビ病、灰星病などに有効である。40年以上使用され、現場では有用な息の長い殺菌剤であるが、細菌類、鞭毛類にはほとんど活性がないので、大腸菌を防ぐ目的では使用されるはずもない。

日本からの輸出食品は大丈夫?

中国からの輸入商品の違反をそこまで問題にするのなら、日本からの輸出食品はどうなのかも見ておくべきだろう。

最近、日本から台湾へ輸出されたイチゴなどが毎月違反として報告されニュースにもなっている。松永和紀さんも台湾でのイチゴの違反事例を紹介している。

台湾では、日本産イチゴは2月21日から全ロット検査を6か月継続することとなっており、その延長線上で違反事例が続いている。通常は2~10%の検査率だが、一度不合格となると強化検査(20~50%)となり、二度不合格となると全ロット検査(100%)に移行する。

台湾健康福祉部3月分検査結果では、違反事例(不合格)の20件中19件はイチゴからクロルフェナピル、フロニカミド(基準0.01ppm)で、多くは福岡産アマオウ、熊本産ユウベニなど九州産であった。当局のHPには写真入りで違反検体の写真が掲載されており、JAの名前や生産者名が分かるものもある。余談だが、4月違反の佐賀県産イチゴ「備前淡雪」の写真が載っているが、淡雪という名前がよく合うイチゴである。

また4月検査分の発表では、栃木県産イチゴ「スカイベリー」約89㎏からフロニカミド0.15ppm検出され不合格となっている。2011年の福島原発事故以来東北5県の農産物は輸入禁止となっていたが、今年2月から原則輸入解禁され、満を持しての日本からの輸出だったはずだが、検査の結果このイチゴだけが違反となり、新聞報道されている。満を持してなかったということか。検査基準が0.01ppmの農薬は散布履歴で使用していたらまずダメ、使ってなくてもドリフトなどがあるので一度は検査して確認しておかないと安心できない。

違反の詳細を見てみると、いろいろなことが分かってくる。検査対象ロットは900㎏近くから1㎏(イチゴ2,3パック位)のものもある。1トン近いロットで違反廃棄となれば相当の被害である。イチゴが1件違反となると、検査頻度が上がるので余計違反件数は高くなる。

実は8年前、2014年にFOOCOMで台湾への輸出イチゴなどの違反のことを書いたことがある。その時問題となった農薬にフロニカミド(商品名ウララ)も含まれており、今回も多数検出されている。イチゴのアブラムシなどに収穫前日まで使用可能な殺虫剤で国内では2ppm、台湾でも基準がない場合は0.01ppm で検査される。検査方法は世界的標準法になりつつあるQuEChERS(キャッチャーズ)法である。

台湾にイチゴを輸出しようと思った時、どうして相手国の規制基準をチェックしないのだろうか?イチゴ生産者は、輸出するつもりで作っていないのに誰かが勝手に輸出したのだろうか?確かに、イチゴ3パック位では残留農薬検査をしていては大赤字になってしまうのは分かるが。

現在、輸出に際し各国の残留農薬規制状況と輸出国に合わせた生産管理などガイドラインも作成されており、それに従ってイチゴを作れば残留農薬問題はクリアでき輸出促進につながるはずであった。しかし、今回の違反事例を見ていると、言葉は悪いが性懲りもなく繰り返されている感じがする。自分が多大な損害を受ける、だけなのに。

せめて、輸出商品の農薬散布履歴くらいは確認して輸出するかどうかを決めてほしい。分からなければ輸出しないことだ。台湾では5月10日からクロルピリホスの基準値削除があり、穀物0.02ppm、乾燥果物・野菜・香辛料など0.05ppm、茶2.0ppm以外は0.01ppmで運用されるので、日本からの果物なども注意する必要がある。

日本産食品の輸出違反事例を見ていると、まさに先ほどの中国違反食品と同じことを日本もやっている。しかも子供が良く食べるイチゴに「危険な農薬(基準値超過)を使っていた」などと台湾で報道され、日本はとんでもないものを輸出してくると思われても反論できないではないか。

中国からの輸入食品を批判するなら、日本からの輸出食品も念頭に置いて議論してほしい。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

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