科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

中国産アサリに除草剤 その安全性は?

斎藤 勲

中国産アサリが熊本県産と偽装表示され大問題となり、店頭から熊本県産アサリが消えた。中国産と表示したアサリもあるが、売れ行きは悪いようだ。今回の騒動に尾ひれをつけたように、中国産アサリに除草剤が残留し、内臓に悪影響がある等の不安を招く情報が発信されている。

こうした記事に間違いが散見されるので、指摘しておきたい。

1.中国産アサリの除草剤は輸入時に検査され、違反品は流通しない仕組みである

ある記事で「検査件数は輸入品全体の届け出100件当たり8.5件程度と少ない」など、検査が十分に行われておらず、違反品が横行しているような記述がある。
しかし、2012年に中国産アサリは命令検査に移行している。命令検査とは全ロット検査で、輸入業者がアサリを輸入する場合は自主的に検査を行い、除草剤プロメトリンが検出されない証明書を添付して届け出ることが義務付けられている。その段階で違反が見つかれば廃棄・積戻し措置となる。
命令検査は今も継続されており、密輸でもしない限りプロメトリンが残留するアサリは輸入できない仕組みになっている。国内に流通する中国産アサリの農薬違反を心配する必要はない。

2.プロメトリンの残留レベルは低く、健康影響を与えるような量ではない

記事では「プロメトリンは、腎臓、肝臓、血液等への悪影響が懸念されている農薬」とあるが、そもそも前述のとおり違反品は輸入されないのだから心配することはないが、リスク評価からも心配ないことが明らかである。
プロメトリンは犬を用いて1500ppm含有する餌を2年間食べさせ慢性毒性試験を行った結果、オスでび漫性肝細胞色素沈着、腎臓尿細管変性、オス・メスで骨髄委縮が認められたので無毒性量はその1/10レベルの150ppm(摂取量3㎎/kg体重/日)と考えられている。これを根拠に安全係数100で除した0.03㎎/kg体重/日が1日摂取許容量ADIとされた。
今回、輸入時の基準違反となり廃棄・積戻しされたとして公表されているレベルは0.02~0.15ppm(大半が0.02,0.03ppmが多い)。0.15ppmのアサリむき身を毎日100g食べるとすると、100g×0.15μg/g=15㎍、体重50kgだと、15㎍/50kg=0.3㎍/kg体重/日食べることになる。ADIと比較すると0.03㎎=30μg、0.3/30=1%となる。
ADIに比べて1%のプロメトリンでは、健康影響はまず考えられない。内臓への悪影響などは杞憂である。

●10年前にプロメトリンが検出されたが…

実は10年前、中国産アサリのプロメトリン違反について「新聞報道で伝えてほしいこと」と寄稿している。

この時は、国内での自主検査でアサリ加工品からプロメトリンが検出され、それを受けて国が輸入時検査をしたところ基準値違反が明らかになった。2012年からは命令検査に移行して、現在も継続されている。ちなみに2011年には届出件数1751件、届出重量3.8万トンであったが、検査はたった2回であった。通常アサリなどは、残留農薬検査対象にはならない食品である。

その後は検査命令となったが、毎年2~7件程度で中国産アサリから除草剤プロメトリンが一律基準値の超過違反となり廃棄・積戻しされている。検査命令は輸入業者国にとっては大きな負担となるので、関連事業者は生産から出荷までを徹底的に管理をして、違反にならないように努めるのが通常である。10年前に私が寄稿した時も、養殖や栽培時の環境管理が重要だと指摘したが、その状況は変わっていない。

●適正な表示で、正直者が馬鹿を見ないシステム作りを

農水省の調査によれば、令和2年には21トンしか熊本県では獲れていないのに推計販売数量は2,485トンで、販売割合の8割が熊本県産だったとか。これまで愛知、北海道等国内産のアサリは、この販売量に押されて、価格を下げて販売せざるを得なかっただろう。すごい損害である。

以前は国内で16万トン以上のアサリが獲れ、戦後から1970年頃までは千葉県、1985年頃までは熊本県(獲れていた時期もあった!)、福岡県、大分県でも大いに獲れていた。1990年頃から生育環境の劣化のためか漁獲量が減少し、中国、韓国などからの輸入で消費量を賄うようになった。1980年頃からは三河湾を抱える愛知県が、相対的に国内有数の生産県となっている。昔は愛知県知多半島の普通の砂浜でも結構アサリが獲れた記憶がある。

近年は愛知県、北海道、福岡県、静岡県が主な国内産地だが漁獲量は減少し8,000トン程度、それを補う数倍以上が輸入されている。平成2年には国内流通量の9割が輸入ものとか。ということは、関係者は以前からおかしいことはご存じだったでしょうが、多くの消費者はその実態を知らず輸入ものを熊本県産の表示で高く買わされていたということになる。食品は信頼関係をなくせば、品質は悪くなくても売れなくなるのは当然である。

今回の中国産アサリの産地偽装は長年の業界の構造的違反であり、本来なら不当に得た利益を還元すべきところだろう。農水省の調査に原産地別の販売地域の図が載っているが、北海道産は北海道、東北、関東等、愛知県産は中部地区、関西、関東と生産地と近いところに販売している。しかし、熊本県産は北海道、高知を除く全県で販売されていたという。これを見ても嘘がすぐわかる図である。なぜ、このようなことが横行していたのか、徹底的に調査をして真相を解明し、罰則を講じてほしい。

今後、国内生産量が飛躍的に伸びない中で、中国産、韓国産に頼らざるを得ないだろうが、正々堂々と産地表示して低価格だが品質は良いことを、地道に長い時間をかけて消費者に理解していってもらいたい。どこの国であれ、正直者が馬鹿を見ないシステム作りは食品販売の基本である。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

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残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。