科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

「検出限界」は下げれば良いというものではない

斎藤 勲

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 先週の新聞で、アクリフーズが「未検出」にも農薬可能性があるので、精度下げ検査という報道があった(産経新聞 1月10日)。

 その記事によれば、まず1商品の検査を昨年12月中旬、外部業者に依頼したが、同27日になって2200ppmのマラチオンを検出。このため、検査時間の短縮を業者に要請したところ「(検出の下限が)1ppmなら可能」と言われ、公表を急いだためその検出下限で検査をしてきたという。異臭がするとして返却された商品20件のうち、19件を国が定める残留基準値(0・01ppm)の100倍に当たる検出下限1ppmで検査をしており、通常より甘い基準で検査していたことは明らかにしていなかったと会社の対応を批判している。今後の調査で、これまで未検出とされた商品から新たに農薬が検出される可能性があると報道している。

 今回のような事件の場合、どうしたらいいのか。昨年4月3日の本欄「加工食品に高濃度に含まれる農薬等の迅速検出法について」で、厚生労働省から出された事務連絡を紹介した。2008年の冷凍餃子事件を受けて作成された高濃度混入の迅速検査法の改良法である。この中で、検出限界は0.1ppmとしている。

 今回の事件も、冷凍餃子事件と同様に通常の残留農薬問題ではなく、意図的?な混入事件であり、健康影響を懸念して検査をするのなら、検出限界は0.1ppmで十分ではないだろうか。マラチオンの検出限界1ppmというのは、今回の緊急の場合は妥当だと思う。なぜならば、マラチオンの食品中残留基準は、お米では0.1ppmだが、多くは0.5ppm、2.0ppm、8ppm(ポストハーベスト使用も含む)など、結構高めの数字があてはめてある。健康影響の可能性を見たいのなら、それなりに有効な検査であると思う。
 そういった面では、「国が定める残留基準値0.01ppmの100倍にあたる1ppm以上しか検出できない方法」という表現は、いかがなものであろう。この基準0.01ppmは、あくまでも加工度の高い加工食品からは残留農薬は出ないであろうから、とりあえず監視レベルとして一律基準0.01ppmを適用している。微量でも検出されるのであれば、その素性をトレースして品質管理をチェックしておきなさい、というのが本来の加工食品の基準の意味だろう。

 有症の申し出があり現品が残っていて検査された商品では、マラチオンが検出されていない状況(1月15日現在777件検査して0件:厚生労働省まとめ)の中、現時点では、0.02,0.05ppmの数値を知ることよりも、検出された商品の包装材の表面には付着はあったのかなかったのか、包装材の内面はどうなのか、コロッケのコロモが高かったという報道はあるが、商品全体の分布はどうかなどを明確にする方が重要だ。情報が制限される中であっても、読者の不安が解消されるような、断片的でなく統合的データ整理をして伝えてほしい。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。