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斎藤くんの残留農薬分析

輸入加工食品も農薬検査へ。でも検査だけでは解決しない

斎藤 勲

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 2008年2月19日、NHKの「ニュースウォッチ9」の伊藤敏恵アナウンサーが、「(えー)またです。中国製の冷凍肉まんを食べた広島県の男性が体の不良を訴え、肉まんから殺虫剤の成分であるメタミドホスが検出されました。この肉まんはギョーザによる健康被害を出した天洋食品とは別の中国の業者が製造しており、厚生労働省は残留農薬の可能性もあるとして詳しく調べることにしています」と伝えていた。このニュースを聞いた人は、広島県男性の体調不良の原因が当初のギョーザ中毒事件が拡大した結果だと、捉えてしまっただろう。しかし、厚生労働省は残留農薬の問題(農業生産現場で使用された農薬が原材料の農産物に残留して検出され、その数値が基準値と比べ高いので、基準違反として扱うということ)として考えた。だいぶイメージが違う話である。

 この報道の詳細は、大阪市健康福祉局のプレスリリースに見ることが出来る。便利な時代である。商品名は「青島ニラ肉焼きまん」。06年8月2日に山東仁木有限公司で製造され、賞味期限が08年2月2日(1年半)の業務用商品である。広島県男性は1月31日と2月1日に食べていた。

 写真で見る限り、1個30gの肉まんというよりも薄皮のシューマイのような感じである。原材料はニラ30.9%、豚肉20.5%、ニンニクの芽、皮(小麦粉、ピーナッツ油)、豚脂、バレイショでんぷん、シイタケ、ほかに砂糖、しょう油、食塩、ごま油、調味料などが使われている。主原料2種の割合は包材に表示してある。

 持ち込まれた商品を広島県立総合技術研究所保健環境センター(いわゆる衛生研究所)が検査すると、食べた残品ではメタミドホス0.64ppm、持参品では0.55ppm、皮—0.45ppm、豚肉・バレイショでんぷん部分0.66ppm、ニラ・ニンニクの芽の部分0.5ppm、包材検出せずとなった。期限08.02.02以外の4検体(多くが賞味期限09年3月、4月であり、昨年07年9月10月頃の製造かと思われる)を大阪市立環境化学研究所(衛生研究所)が検査した結果、メタミドホス、ジクロルボスは検出されていない。

 また、賞味期限08.02.02の商品2品を、全体、袋(包材のこと)、皮、具に分けて検査している。全体では0.64ppm、0.51ppm、具は0.49ppm、0.59ppm、皮0.22ppm、0.25ppm、包材は検出せずとなった。皮からも検出されるのは、ニラやニンニクの芽に残留していたメタミドホスが(斎藤の推測)、ジュウジュウと蒸す間に豚肉や豚脂の油が溶けて、具全体に旨みと共にメタミドホスを運んだのだろうか。

 今回のギョーザ問題もそうだが、特に加工食品になってくるとどの部位に農薬が残留しているのかが重要な情報になってくる。単純な組成ならよいが、10種類くらいのさまざまな原材料がほぼ同じような量で入っていたら、それぞれ分析するのではため息が出てしまうのも事実である。

 食品安全委員会の資料では、中国でのメタミドホスの使用は、04年以降にメタミドホス、パラチオン、パラチオンメチル、モノクロトホス、ホスファミドンの使用を段階的に削減した一環で、07年1月1日より輸出と緊急対応向けを除き、中国国内での使用・生産を禁止した。08年1月9日からは、輸出向け製品への使用も含め、有機リン系殺虫剤の生産、流通、使用を全面禁止した(契約履行分のみ、08年末まで使用可能)。しかし、あの広い国、メタミドホスなどの使用を禁止したとしても、回収したり、代替の農薬を提供してくれるわけでもなければ誰も使うのをやめないだろう。有機リン系殺虫剤の生産、流通、使用を全面禁止するなどという、土台無理な目標は掲げないほうがいいのでは、と素人は思ってしまう。

 本題に戻って、今回のニラ肉焼まんからメタミドホスが出て、食品衛生法の違反食品と判定されたことについて、持参品のメタミドホス0.55ppmという値を用いて考えよう。植物油、乾燥果実、乾燥野菜など一部の加工食品には残留基準が設定されているが、通常の商品ではない。そこで基本的には一律基準(原則0.01ppm、通常の分析の検出限界としている所が多い)を適用し、超えた場合は原材料段階での濃度を推定し、それぞれの原材料で設定された残留基準を元に判断する、となっている。簡単な事例は、10%リンゴ果汁の場合、リンゴに設定されている基準値の10分の1をその判断基準とする。それを超えているといわゆる「違反の蓋然性が強い」ということになる。

 今回の商品では、ニラからだとするとニラの基準0.3ppmに肉まん中の割合が30.9%なので、掛け合わせた数字0.09ppmが判断基準となる。0.55ppmは基準を超えていて駄目。豚肉(豚脂)の基準は0.05ppmから判断基準は0.01ppm。これも駄目。あとはニンニクの芽(ニンニクは1ppmだが、芽はニンニクではないので、そのほかのユリ科野菜0.3ppm適用)、シイタケ0.1ppm、コムギ0.01ppm、バレイショ0.25ppmなどなどいろいろ適用してもすべて超えてしまう。八方塞がりで、こりゃ駄目だという判断をされて今回の違反食品となったのだろう。これが、1ケタ下の0.05ppm辺りになってくると、何からの由来か判断が難しくなってくる。このように加工食品の検査は、するのはよいが、結果判定が大変である。

 とはいえ、今回のギョーザ中毒事件を受けて、国は輸入加工食品も農薬検査対象に拡大する方針を固めた。都道府県でも同様な動きである。加工食品は野菜、果物と違い植物油、動物油脂、香辛料などなど分析を邪魔するものが多い。大変な仕事であるが、現状を把握するモニタリング検査と理解してデータ集積をする時期なのだろう。

 しかし、残留農薬検査は、農産物の検査で栽培管理履歴とリンクしてデータ評価しながら農薬の適正使用を促していくという基本を忘れないようにしたい。検査だけでは事件には対応できない。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)