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執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

おいしいホタテが台湾でいじめられている

斎藤 勲

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日本から台湾へ輸出されるホタテ貝が、今年に入って何度か台湾側でカドミウムの検査で不合格となっている。「いじめられる」と書くと語弊があるかもしれないが、日本と台湾の基準設定の違いがいろいろ不都合を呼んでいる。

●台湾ではホタテにもCODEXのカドミウムの基準を採用

以前も台湾への輸出農産物の農薬基準違反を書いたことがあるが、その際も同じ違反食品でホタテやイカなどがカドミウムの基準違反となっている事例があり気にはなっていた。世界標準であるCODEXのコメのカドミウムの基準は、実は2011年に日本の努力もあって0.4ppmと設定されている。日本ではカドミウムの摂取量から安全性評価を行い、問題となる食品は当面ないので他の食品には基準を設定していないが、海産物では調査をすることにはなっている。

貝類の中腸線(ウロとも呼ばれる)や頭足類の内蔵に高濃度のカドミウムが蓄積していることは周知の事実である。ホタテ貝も貝柱を食べている分には良いが、サザエやオオアサリと同じように生のホタテ貝を焼いて醤油をかけて食べたりするときウロを食べないようにする必要がある。

こうした背景もあり、CODEXではカドミウムについて海産二枚貝(カキ、ホタテを除く)2ppm、頭足類(内臓を除く)2ppmと基準を決めている。EUはもう少し厳しく二枚貝は1.0ppm(ホタテ貝は貝柱と生殖腺のみ)、頭足類(内臓を除く)1.0ppmと半分の基準を採用している。

台湾では水産動物類衛生標準で貝類は2ppm以下(ホタテなどはどこの部位まで検査しているのか不明)、頭足類(内臓を除く)2ppmと対象に含まれないカキやホタテまで拡大してCODEX基準を採用している。

そのため、その基準に沿って輸入海産物も検査を行われ、今年1~9月までの検査でもアカガイ、松葉ガニ、ホタテ貝、ホタルイカ、アンコウの肝臓、エビなどがカドミウムの基準違反で不合格となっている。ホタテ貝は4ppm、6ppm、3ppmで3回違反となっているが、中腸線を除いた検査でカドミウム濃度が6ppmや4ppmはあるのかなあというのが実感である。ホタルイカは2件が3ppmで違反となっているが、多分小さいのでそのままの検査で内蔵などを除いて処理はされていない可能性もあり、かわいそうな面もある。

さらに、今年8月1日に水産庁から出された事務連絡では、来年1月1日から台湾の貝類のカドミウム基準が1ppm(殻は除く、ホタテは中腸線を除く)、頭足類(内臓の属)も1ppmに厳しくなるとのこと。

●体重50kgの人がホタテを1週間に7個食べるとPTWIの13.6%

実際のホタテ貝中の各部位のカドミウムの蓄積状況を、耐容一週間摂取量(PTWI)を用いて、リスクベースの安全性評価の点から見てみよう。

PTWIはヒトが一生にわたり摂取し続けても健康影響が現れない一週間あたりの摂取量の指標で、カドミウムのPTWIは 7μg/kg体重/週である。なお、1ug(マイクログラム)は100万分の1グラムのことである。

通常、焼いたりして食べる部分は貝柱、生殖腺(卵又は白子)、ヒモで、ウロ(中腸線)とエラは食べないとして、表に国内でのホタテ貝の部位別検査の結果を載せてみた。このデータを見る限り、千葉市を除けば通常は貝柱を中心に食べていればおいしく安心して食べられるということはわかる。千葉市の結果は他のデータと比較してもかなり高めの数値があり、検体輸送の段階などで冷凍、解凍などの操作で組織が破壊されて他の部位への移染は考えられるが、詳細は不明である。

                 日本国内におけるホタテ貝の部位別検査結果

2002年の東京都の10検体の検査では、貝柱は平均で0.22ppm、一個31gの重さの貝柱を一個食べると6.8μgのカドミウムを摂取することになり、体重50kgの人が1週間に合計7個食べたとすると、PTWIの13.6%を摂取したことになる。台湾の公的機関でのホタテ類の調査でも部位は不明だが検出せず~0.7ppmくらいで日本の調査と変わらない報告もある。

比較として、カドミウムが0.2ppm含まれるお米(通常は0.1ppm未満が多いが)を一合(150g)毎日食べると、PTWI の57%となるのでそれよりは少ない感じである。余談だが、中国のお米のカドミウム基準は日本より厳しい0.2ppmを採用しているので、中国において高い違反率や毒米という情報が出てきた時には、この基準値の差のことも覚えておいてほしい。

●他国の基準値に注意して輸出促進を

日本ではホタテ貝の安全性が問題になることはないが、台湾では基準値が厳しく設定されていることから今後も注意して輸出しないと不合格となることはあるだろう。おいしいホタテが、カドミウムが含まれているので危ないと言われいじめられれば、それは残念なことである。

韓国でも今年夏ごろ日本産活ホタテから基準値2ppmを超える2.5ppmのカドミウムを検出し販売中止、回収作業を進めているという報道もあり、実情を知らない消費者には不安な情報だけが流布されるのは心配である。

海外の状況はEUの基準に倣って、ホタテのカドミウム基準は、中腸線は除いて1ppmという基準を採用する国もあるので、それぞれの産地で季節ごとのモニタリングを地道に進めトラブルを未然に防ぎながら輸出促進に努めていいただきたい。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。