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執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

今後の研究に期待大の慢性腎臓病:これでわかった!食事摂取基準33

児林 聡美

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エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、信頼できる食情報のエビデンスとして活用できる「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」を連載でご紹介しています。

今回は食事摂取基準の最後の項を解説します。
生活習慣病と食事の関連を扱っている第3章の4つめの、慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)です。

●食事摂取基準で扱うのは軽症者

慢性的に腎機能が低下した状態がCKDです。
具体的には、蛋白尿やその他の腎障害を示唆する所見、または腎機能の状態を表す糸球体濾過量(glomerular filtration rate;GER)の低下などが3か月以上継続しているときにCKDと診断されます。

CKDの重症度は、どのような疾患が原因で腎障害が現れたのかという原疾患、GFRの値、尿蛋白の値を合わせて評価し、表1のように分類されます。

表1. CKDの重症度分類(文献1 3-4 表2):食事摂取基準ではおおむね軽症といえるステージG1からG3aを対象として扱っています。

CKDが進行した場合、人工透析を導入する必要が生じます。
また、心血管系疾患の発症などの他の疾患や、骨ミネラル代謝異常などの合併症を生じることもあります。
そのため、重症化を予防する必要があり、食事は重要な役割を担っていると考えられています。

食事摂取基準では、おおむね軽症といえるステージG1からG3aまでを対象として扱っています。
それ以上のステージの人は、CKDの専門のガイドラインに従いましょう。

●エビデンス・レベルが言えない!?

栄養素摂取とCKDの重症化との関連は、図1のようにまとめられています。
食塩、たんぱく質、そしてエネルギー産生栄養素である炭水化物や脂質が取り上げられています。

図1. 栄養素摂取と慢性腎臓病(CKD)との関連(文献1 3-4 図1):エビデンス・レベルが示されておらず、栄養素摂取量との関連を検討した研究が少ないことがわざわざ記載されています。

ところでこの図に、これまでに解説してきた3つの生活習慣病の項で紹介した栄養素摂取との関連図とは異なる点があるのですが、お気づきでしょうか。
それは、エビデンス・レベルを表す(+)や(++)といった表示がないことです。

これはどの栄養素がどの程度の強さでCKDに関連しているのか、十分なエビデンスが蓄積されていないことを意味しています。
食事摂取基準で扱われているのに意外と思われるかもしれませんが、これが現状なんですね。
それでも食事が重要な重症化予防の因子であることは臨床の現場などからある程度認識されていることであり、研究結果も少しずつ増えてきているため、食事摂取基準で取り上げられているのです。

それでは、栄養素との関連を具体的に確認していきましょう。

●まずは肥満を避ける

肥満は直接的にCKDの発症リスクとなる場合があります。
さらに、肥満によって生じた高血圧、高血糖、脂質異常といった疾患がCKDを引き起こす可能性もあります。

肥満はできるだけ避けることが望ましいと考えられ、そのためにはエネルギー摂取量を適正にしておく必要があります。
食事摂取基準では、健康な人のエネルギー摂取量はBMIで管理するという考え方を用いていました(エネルギーなのに体重で管理?:これでわかった!食事摂取基準11)。

CKD患者の総エネルギー消費量は健康な人と変わらないか、少し低いと報告されています。
健康な成人の目標とするBMIはどの年代でも25 kg/m2未満であり、CKD患者でもその値を参考にしてよさそうです。
日本腎臓病学会編の「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」では、BMI = 22 kg/m2を目標に用いることを推奨しています。

ただし、メタボリックシンドロームの有無などによって、適正なBMIが異なる可能性もあることを知っておきましょう。

●食塩の基本は「制限」

CKD患者を対象にした研究では、食塩の摂取が多いと、血圧、尿蛋白量、尿アルブミン量の値を悪化させ、CKDが重症化するという研究結果が示されています。
これらの研究結果より、食塩制限は重症化予防のひとつであるとされています。

一方で、極端に食塩制限すると、心血管疾患や死亡のリスクが上昇するという報告もあります。
それがどういう理由から生じるのか、詳しいことはよくわかっていません。

「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」では、これら様々な研究結果を参考に、CKDのステージを問わず、食塩摂取量は3 g/日以上、6 g/日未満を推奨しています。
とはいえ、多くの人の食塩摂取量が食事摂取基準の目標量を超えている現状を考えると、下限値よりも上限値を意識したほうがよいでしょう。

●たんぱく質の基本も「制限」

たんぱく質の多い食事は腎臓に負担をかけるため、基本はたんぱく質摂取量を制限することが目標となります。
とはいえ、尿蛋白(アルブミン)量の減少のためなのか、GFR低下抑制のためなのか、透析療法までの期間延長のためなのか、それぞれの目的に応じて参考にできる研究結果は様々で、その結果もそれぞれです。

そのため、CKDのステージごとに、目的を分けて考える必要があります。
ステージG1、G2の場合、たんぱく質制限が有効であることを示した大規模な研究結果はありません。
とはいえ、過剰な摂取をすると、症状が悪化する可能性は示されています。

数値を明確に示すことは難しい状況であり、「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」では、数値を示さず、過剰な摂取をしないことが推奨されています。

もう少しステージが進んだCKD患者を含む研究では、たんぱく質摂取量を制限するほうが末期腎不全のリスクは減る傾向にあるようです。
けれども閾値を決められるほどの十分な研究結果がまだ蓄積されていません。

「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」では、G3a のたんぱく質摂取量は 0.8~1.0 g/kg 標準体重/日が推奨されています。
この値を参考にしながら、一律ではなく個々の病態に応じて設定する必要があります。

●注意したい高齢者と小児のたんぱく質制限

CKDの重症化予防のためにたんぱく質摂取量の制限を考えたほうがよいとしても、高齢者にとってたんぱく質は、体の機能を維持するために必要な栄養素です。
不足すれば、フレイルをはじめとした低栄養の発症リスクがあります。

高齢者の場合、末期腎不全のリスクと低栄養のリスクのそれぞれを考えて、腎機能の低下が見られる場合にはたんぱく質制限を行い、フレイル等の発症が予想される場合には、低栄養を避けるためにたんぱく質は制限しすぎないなど、個別に判断する必要があります。

そして小児は、たんぱく質摂取により体を作る、成長期です。
さらに、小児CKD患者のたんぱく質制限に関しては、研究結果が十分に得られていません。
「CKD診療ガイドライン」でも、小児に対してたんぱく質摂取制限は行わないように提案されています。

●カリウムは血清濃度を測定して対応

腎機能が正常なときは、腎臓から不要なカリウムが排泄されます。
けれどもCKDが進行すると腎臓からのカリウム排泄量が減少し、高カリウム血症を起こす頻度が上昇します。

「CKD診療ガイドライン 2018」では血清カリウム値(mEq/L)を 4.0 以上 5.5 未満にコントロールすることを提唱しています。

血清カリウム値は、カリウム摂取量に影響を受けてはいますが、腎機能の状態やナトリウム排泄量、そして服用している薬剤などにも影響を受けます。
血清カリウム値が5.5 mEq/Lを超えるときにはカリウム摂取制限が必要となってきますが、その理由は個人差が大きいため、一律にどの程度の摂取にすべきかを決めることができません。
危険なときには漠然とした制限をするのではなく、血清カリウム値を頻繁に測定し、個人ごとに対応する必要があります。

以上のように、腎臓病と栄養素摂取量との関連ははっきりとしたことが言えない点が多々あります。

CKDの重症度によって、栄養素摂取量との関連が異なる場合もあり複雑、ということもありますが、研究が十分にないという理由は大きいです。
今後の研究が待たれているのです。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.

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執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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