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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

消費者庁の考えが見え隠れ~原料原産地表示拡大と製造所固有記号廃止(第3回食品表示一元化検討会報告)~小比良 和威さん

森田 満樹

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 早いもので食品表示一元化検討会も第3回を迎えた。議事の概要は板倉さんが報告して下さっているので、私の方は主に資料にある新しい表示制度について思うところを述べてみたい。

 今回の傍聴にあたって、まず驚いたのが傍聴者に配付される資料であった。これまでの議事録を見てもわかるが、前回までは法律の目的などについて延々と議論が続いていた。ところが、配布資料2として、「加工食品の原料原産地表示の拡大について」が用意されていた。まだ、目的など前提の議論が煮詰まらない中で、個別の表示項目に対する詳細資料として、他に先駆けて原料原産地表示の議論ができるのだろうか。事務局の進め方には正直驚いた。

 そして、もう一つの驚きが新法による表示のイメージとして用意された2つの案であった。案①は現在の表示事項に加えて消費者に関心のある事項を表示したもの。案②は逆に消費者が読みやすいように簡略化したものだ(詳細は板倉ゆか子さん報告を参照)。事務局からの説明もあったが、あくまでイメージであり、あえて両極端なものを示したというのだ。しかし、私の周囲では「あくまで例とはいえちょっとどうか?」といった印象であった。

 そこには、原材料の上位2品目に原料原産地表示を拡大して表示する例、製造所固有記号を廃止して製造所の名前と住所を表示する例などが例示され、個別の項目において消費者庁が新たに提案しているように見える。検討会ではこれまで大きな目的しか議論しておらず、個別の議論は全くしていないのに、こうした例がいきなりでる。多少なりとも消費者庁の考えが見え隠れしているのではないだろうか。

○サンドイッチのパンに用いられている小麦粉まで、原料原産地表示を求めるのか?

 まずは原料原産地表示を見てみよう。原料原産地表示は「その原産地に由来する原材料の品質が製品自体の品質に大きく関わっているような、加工の程度が低く、生鮮食品に近い加工食品(単に農畜水産物を乾燥したもの等)については、原料原産地表示を義務付ける」制度である。

 一見、原料の原産地が分かることは悪くないようにも思えるが、ことはそう簡単ではない。消費者庁の資料にもまとめられているが、メーカーは商品を安定的に供給し続けるために、複数の産地を切り換えたり、ブレンドを行っている。そのため、それらを逐一表示に反映させるのは困難だ。加工地の変更に伴う経費として、多種類のパッケージの準備や切り替えなどでコストアップにつながり、それが消費者価格に転嫁される可能性がある。原料原産地表示を必要としない消費者にとっても、そのコストを負担しなければならない。原料原産地表示拡大に伴う問題点についてもこれまでも議論されてきた。

 さらに、製品によっては原材料の原産地が製品の品質に与える影響が小さいものもある。そのため、これまでは「原産地に由来する原料の品質の差異が、加工食品としての品質に大きく反映されると一般に認識されている品目」のうち「製品の原材料のうち、単一の農畜水産物の重量の割合が50%以上である商品」についてのみ表示が義務化されてきた経緯がある。その方針の一大転換には実行可能性や実効性も含めた慎重な議論が必要とされるだろう。

 ここで、消費者庁案の問題点をいくつかあげてみたい。消費者庁の資料では表示案の比較を行う上でカップ麺、チャーハンのもと、シチュールーの3つが例示されていた。これらの原材料の上位品目を見ると小麦粉、パーム油、ねぎ、砂糖など、単一の原料に原料原産地が表示されている事例だった。しかし、複数の原料からなる食品が原材料となる場合はどうなるだろうか?例えばサンドイッチの原材料表示を見ると、当然パンが原材料表示の1番目にくることが多いだろう。この場合はパンの原材料にさかのぼって小麦粉の原料原産地を表示することを求めるのだろうか?あるいは洋菓子で他所から仕入れたホイップクリームが主要な原材料となる場合はどうだろうか?この場合、原料原産地として表示すべき上位2品目は植物油脂、砂糖、乳製品のいずれかになるのだろうか?

 原料の産地が製品に与える影響は商品によって様々だ。また、現在義務化されていない食品においても任意で表示することは可能であることは忘れてはいけない。食品の種類によって求められる食品表示は異なるはずだが、消費者庁の事例案では議論が偏る恐れがある。原料原産地に関する表示にはこれまでなされてきた膨大な議論の積み重ねがある。それらが今後の議論に生かされるのかについて一抹の不安を覚える。

○製造所固有記号を外して、製造工場がわかったとしても有益な情報になりうるか?

 次に、製造所固有記号についてだ。製造所固有記号は複数の工場を持つ場合や、製造を他社に委託している場合に、製造者・工場を表示するかわりに、あらかじめ届け出た記号による表示を認める制度だ。これが消費者庁案においては、①②案とも製造所固有記号を使わず、そのかわりに製造所の名前と住所が表記され、販売者・製造者の名前と住所の下にダブルで表示する、という事例が示された。これは、消費者庁としては製造所固有記号を廃止したいという意向だと私は受け取っている。

 実際、製造所固有記号というのは一部では評判が悪く、インターネット上では各社の製造所固有記号がどこの工場にあたるかをまとめたページなども公開されている。確かに、その製品がどこで製造されたのか知りたいですか?と問われれば、知りたいと思うだろう。だが、製造工場の名前と住所がわかったところで、それが(消費者にとって?保健所などにとっては有益でしょう?)有益な情報になりうるかと考えると、必ずしもそうではない。

 現在、食品表示において表示責任者の部分には製造者の他に、販売者や輸入者と表示される場合がある。商品に対する責任はなにも製造者のみにが負うものではない。例えば、プライベートブランド(PB)では販売者と製造者のどちらが商品に対してより大きな責任を持つべきなのだろうか?実は、現在においてさえ製造者の表示のみで販売者の記載がないPBは多い。これは見方を変えれば、そのPBにおいて販売者は責任を負いませんと暗に主張しているようなものだ。しかも、食品製造業者はほとんどが中小企業である。流通業者に比べてはるかに企業規模が小さいことがほとんどだ。製造所固有記号の廃止は企業の体力を考慮したときに、弱者により負担を強いる制度となるように思える。もちろん、現在の製造所固有記号制度にまったく欠点がないわけではない。問題点は修正しつつ、より良い制度に改めることも検討されてしかるべきではないか。

 最後に、原料原産地にしろ、製造所の名前・住所にしろ、輸入品においては適用されないはずだ。国内で製造することによって表示作成のコストが著しく上がるならば企業としては海外で生産したほうがよいということにならないだろうか?

 検討会の今後の進め方においては、まず目的について結論を出し、その上で各表示項目の意義を再点検することが急務だ。でないと、表示項目が増えるにしろ減るにしろ不毛な議論が延々続くことになるだろう。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。