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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

食品表示の目的から議論がスタート(第2回食品表示一元化検討会報告)〜小比良 和威さん

森田 満樹

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<事務局から>
 消費者庁は9月より、食品表示に関わる法律の一元化に向けた「食品表示一元化検討会」を毎月開催しています。編集部ではこの検討会について、会員や読者の皆さまから、様々な視点で論じていただきたく、傍聴メモや感想を募っています。
 10月25日に開催された第2回目は、食品コンサルタントの小比良 和威(おひら かずたけ)さんに議論の概要を報告していただきます。

(概要) 

 第2回にあたる今回は、(1)食品表示の目的・機能、(2)わかりやすい食品表示の在り方についての2つの議題について検討が行われた。
 (1)の目的・機能の部分では、表示のあり方のみに留まらず、一元化を行う法令の範囲など、議論の前提条件部分についても討議が行われた。この点について、事務局からは「議論を制限するものではない」としつつも、「消費者庁食品表示課が主管するJAS法・食品衛生法・健康増進法の三つの法律の表示部分が、対象である」との回答がなされた。また、議論する表示の内容については、義務表示である一括表示について、まずは議論を行うべきという意見に傾きつつあるように思われた。
 (2)のわかりやすい表示については、まず「わかりやすさ」とは何を指すのかについて、事業者と消費者では意味するところが異なることが指摘された。いずれの議題についても今回は結論が出ず、第3回の会議で引き続き議論が行われることとなった。

(1)食品表示の目的・機能
 新たな食品表示制度の目的の確認について、今回はもっとも時間をかけて討議が行われた。議論は、新制度においての表示の目的に留まらず、その前段となる表示一元化の範囲についても多くの意見が交わされた。この部分は議論の大前提でもあり、以降の議論のためにも重要である。食品表示に関する法律には、資料にもあるJAS法・食品衛生法・健康増進法以外にも容器包装リサイクル法や計量法のほか、景表法と公正競争規約なども関係してくる。これらについてどこまでが対象なのか、法律から表示の部分のみ抜き出して新たな法律を作るイメージなのか、など、各委員から質問がでた。

 これに対し、事務局は「あくまで議論を限定するものではない」としながらも、消費者庁食品表示課が主管となっている前記3法の表示部分が対象であることを説明した。また、景表法と公正競争規約については消費者庁が主管であるものの、食品表示課は管轄では無く、これらの法律は食品に限ったものでは無いため対象とは考えていない、との回答がなされた。

 事務局から、新しい食品表示制度の目的について(1)合理的な商品選択(2)安全性情報(3)健康増進の3つが示された。また、そのための機能として(i)合理的商品選択のためのわかりやすい情報提供(ii)安全情報の平易な伝達(iii)適切な栄養摂取のための情報提供(iv)自由な競争の促進の4つが示された。それに対して、委員からはそもそも現在の法律の内容がそのまま書かれているだけではないかという疑問や、機能ではなく要件ではないかといった指摘がなされた。また、栄養成分表示は義務表示事項では無いため、健康増進は目的として適切なのかといった意見も寄せられた。全体としては合理的な商品選択と安全情報の提供が目的である、との意見に集約されつつあるよう思われたが、次回あらためて議論することとなった。

(2)わかりやすい表示
 続いて、「わかりやすい表示」についての議論が行われた。前回コンセンサスとして得られた「わかりやすい表示」が望ましいというところから、今回はそもそも何がわかりにくいのか、何がわかりやすければいいのかということについて、議論が行われた。
 委員からは表示がわかりにくいということについて複数の要因によるとして、事業者にとっての「表示制度のわかりにくさ」と消費者にとっての「表示の書きぶりのわかりにくさ」について違いを整理していくべきだとの意見がでた。

 事業者にとっては3つの法律が集約されるだけでわかりやすくなる面があるが、他にも個別の表示基準について、横断的な加工食品品質表示基準へ集約したほうがよい、といった意見や、公正競争規約もあるのだから民でできることは民に任せるべき、という意見もでた。
 また、消費者にとってのわかりやすさについては、参考資料のアンケート結果によると、情報量を増やして表示の拡充をという意見がある一方で、大きな文字でわかりやすく表示してほしいという両立しがたい要望がある。真の消費者利益を実現するための方向性について、委員の意見は分かれた。

 そのなかで、前回も意見が出た原材料表示をはじめとする「表示の書き方」や「表示の優先順位」がわかりにくいという部分については様々な意見が出され、認識が異なることがわかった。食品のジャンルによっても異なるがもっともわかりにくいのは原材料名の部分だが、その書き方は事業者の努力で何とかなる部分もあり、横においてはどうかといった意見が出た。今後の検討会では、徐々に一括表示の義務表示事項について検討を行い、整理を行っていくという方向性に落ち着きつつあるようにみえた。

(今後の議論について)

 今回の2つの議題については、共に結論が出ずに次回引き続き議論することになった。しかし、義務表示事項である一括表示部分が最も優先順位が高いという認識の共有はできつつあるように思われた。一方で、限られた開催回数の中で議論を有意義に行っていくため、事務局の資料や進め方に対する意見や提案もなされた。

(感想)

 現在の表示制度も複雑であることは事実だが、3つの法律それぞれの目的は明確であるため各表示事項の要件も明確であり、ある種の「わかりやすさ」は存在している。では、事業者にとってわかりやすいかと言われると、やはり難しい部分もある。あくまで個人の印象だが、JAS法ではQ&Aなども近年整備されてきているし、そうした資料も農林水産省や消費者庁のサイトにまとめてあるので参照は容易である。一方で、食品衛生法に関しては非常に見通しが悪い。表示一元化によって、それらが整備されるのならば、それは大きなメリットになる。

 また、消費者にとってのわかりやすい表示については、原材料表示とそれ以外の表示項目では分けて考える方が良い。会議資料にカップめんの表示が例示されているが、その一括表示部分は確かにわかりにくかった。しかし、よく見ると法令の範囲内でもっと簡単に表示を行うことが可能である。例ではアレルギーの表示について、各原材料にそれぞれ、どのアレルギー物質を含むのかの表示がなされていた。これは一見「親切」な表示かもしれない。しかし、個別のおかずをたべるかどうか選べる弁当などと異なり、カップめんではアレルギーに応じて特定の具材を食べないということは不可能だ。そして、法律ではアレルギー表示については複数の食材に含まれているアレルギー物質を、それぞれ重複して表示することまでは求めていない。

 委員も指摘していたが、わかりにくさには表示制度と事業者の書きぶりの2つがある。今回の例ではそれらが整理されずに示されていたことになる。開催回数も限られた中で、実りのある議論を行うためには資料の構成や例示に今以上の精度が求められる。事務局側の今後の舵取りに期待したい。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。