科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

EU 新しい食品表示ルールが始まる

森田 満樹

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 EUの欧州議会は2011年11月22日付で、新しい食品表示ルールとなる一般食品表示規則(No 1169/2011)官報に掲載した。EUにおける食品表示の法律は、すべての領域の食品に横断的に適用される水平的な法律と、特定の食品領域に適用される個別食品ごとの垂直的法律の二つからなる。今回定められたのは、前者の水平的な法律に該当するものだ。規則の大半は、これから3年を経てから各国で適用される。

 EUにおいて横断的な食品表示ルールを定めたのは1970年代後半からで、EU域内で円滑に食品が流通すること、消費者を保護することを目的としてスタートした。それが改正・統合されたのが、現在適用されている一般食品表示指令2000/13/ECである。消費者を誤認させてはならないことが大原則になっていて、ラベルに記載するべき義務表示項目を横断的に規定している。食品市場と消費者のニーズの変化から、法律の改正が求められるようになり、2008年1月に新しい食品表示規則が欧州委員会より提案され、その後も検討が重ねられてきた。

 当時の駐日欧州連合代表部は食品表示規則の見直しの目的について「消費者が賢明な購買選択を行う際に必要な基本情報を、読みやすく、わかりやすい形で得られるよう、EUの食品表示のルールを刷新し、改善することにある。(中略)これらの新たなルールは、食品表示についてより明瞭で調和の取れた法的枠組みを設定し、すべての事業者にとって公平な競争条件を創出することになるため、産業界もその利益を受けることになる。規則案は、消費者団体、産業界、その他の利害関係者との広範な諮問の結果、起草された」と解説している。

 4年の歳月をかけてまとまった今回の食品表示規則は、40ページちかいものだ。消費者庁が11月28日に開催した第3回食品表示一元化検討会の席上で、さっそく検討会委員の日本生活協同組合連合会組織推進本部安全政策推進室の鬼武一夫さんが紹介してくれた。この新しい規則にかんする資料を配布して、この検討会の議論の参考にしようとポイントを解説した。

 その特長は「食品の表示、即ち食品情報の提供は、消費者が情報に基づく選択を行い、かつ消費者が食品を安全に利用するためのベースを提供することにより、高いレベルの消費者の健康と利害の保護の追求を目的としている。この関係では、消費者は、健康、経済、環境、社会、または倫理の観点から選択を行うであろう。ここでは健康とは健康増進を含む。環境の観点から、また倫理の観点から(たとえば、動物福祉やフェアトレードの観点から)、消費者は選択を行うかもしれない」というものだ。日本における食品表示は、これまで安全、品質に関する情報が中心だったが、EUではさらに広範な情報を含むことになる。

 新規則は第1章に一般的規定として、法律の範囲、ことばの定義が示され、第2章に食品情報に関する一般原則として、目的、義務表示の原則など、第3章に一般的な食品情報要件および食品事業者の責任が続く。そして第4章に義務的食品表示事項がリスト化されている。

 第4章第9条の中の義務表示リストは、(a) 食品名、(b)原材料リスト、(c)アレルギー性、不耐性を引き起こす原材料、加工助剤(d)特定の原材料の含有量、(e) 内容量、(f) 期限表示(消費期限あるいは消費期限)(g)保存条件、使用条件、(h)製造者あるいは販売者名、所在地、(i)原産地、原産国、(j)特別に必要な使用方法、(k) 1.2%以上のアルコール含有飲料におけるその含有率(容量)(l)栄養成分が盛り込まれている。なお、遺伝子組み換え食品や有機農産物に関する表示、食品添加物の規則については、個別の食品表示規則に該当するため、今回の一般食品表示規則には盛り込まれていない。

 新規則の一番大きな変更点は、栄養成分表示が新たに義務付けられたことだろう。新しい栄養表示は、栄養価の表示義務として、エネルギー含有量、脂肪、飽和脂肪、炭水化物、糖類、たんぱく質、食塩の量について、読みやすい一覧表の形で包装に表示することが主な内容になっている。また、これらの情報すべては100gあたりまたは100mlあたりで表示されなければならないが、ポーションサイズあたりの併記も可能としている。

 今回の一般食品表示規則は大原則の傘のようなもので、これをもとに各国がそれぞれ適用することになる。中を読み込んでいくと、日本の現状の食品表示よりも進んでいる部分もいくつかあるように見える。栄養成分表示の義務化はもちろんのこと、若年層の飲酒が深刻な社会問題になっているためアルコール飲料の表示も含んでいたり、多くの食文化を抱えているため食品によって使用方法についての表示も義務付けられていたりする。
 EUにおける新しい食品表示の目的や考え方、義務表示項目を参考に、日本の新しい食品表示も十分に検討したいものである。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。