科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

あいかわらず、迷走、紛糾が続く(第3回食品表示一元化検討会報告)~板倉ゆか子さん

森田 満樹

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 第3回目は(1)食品表示一元化に向けた基本的な考え方について (2)加工食品の原料原産地表示の拡大について の2つの議題が示された。そのため資料としては、「資料1 食品表示一元化に向けた基本的な考え方について」と「資料2 加工食品の原料原産地表示の拡大について」が傍聴者には配付され、それに加えて、鬼武委員提供資料と山根委員提供資料が委員に配られた。内容については、消費者庁の検討会のサイトの第3回資料を参照していただくと理解いただけると思う。

 今回ははじめて、委員全員が揃ったが、会議自体はあいかわらず、迷走、紛糾と感じられる展開であった。まず、食品表示一元化に向けた基本的な考え方について、資料1に沿って事務局から簡単な説明があった。この資料は前回の資料とかなり重複しており、前回に指摘のあった、義務表示と任意表示の区別を加えた(現在の食品表示制度で表示すべき主な事項(加工食品の場合))という説明スライド(7枚目)もあったが、例えば「ばれいしょでん粉(遺伝子組換えでない)」という表示は任意表示であるにもかかわらず、その説明が不足しているなど、資料としては不十分であった。

 また、この資料には新たに一元化後の法体系のイメージ(案)として、食品衛生法、JAS法、健康増進法の表示についての条文が新法へ移行すると説明のあるスライド(8枚目)もあった。第2回の議論で事務局が「議論を制限するものではない」としたとはいえ、「消費者庁食品表示課が主管するJAS法・食品衛生法・健康増進法の三つの法律の表示部分が対象である」というスタンスは一部の委員の「アルコール飲料を対象にすべき」という意見があっても、ゆるぎないように感じられた。

 食品表示新法の目的(案)としては、
*案1
 「食品の安全」「国民の健康の増進」等については商品選択の際の要素の一つとして位置付け、「消費者の合理的な商品選択に資すること」を直接の目的とする。
*案2
 「消費者の合理的な商品選択に資すること」に加え、「衛生上の危害の発生を防止し、国民の健康の保護を図ること」「国民の健康の増進を図るための措置を通じ、国民保健の向上を図ること」「公正で自由な競争を促進すること」等を並列して目的に位置付ける。

の2案が示された(11枚目)。

 以上の2案について、事務局は「叩き台として出した」と説明したが、「案1は食品表示制度の目的であり、案2は食品表示の目的ではないか」といった意見や、「品質についての説明がないのはおかしい」という意見、「三法のみ視野に入れているが幅広い議論をすべき」という意見、「案1に比べて案2は大きすぎるので、前文等を設けるなど、法律を作る場合には工夫が必要」という意見、「消費者基本法の基本理念が入ることが重要」との意見もあった。二者択一の資料の出し方に引きずられたせいか、案2の方を支持する委員の発言が目立つように感じたものの、意見の集約までは至らなかった。

 また、新たな制度における表示の考え方(案)(14枚目)には、「消費者と事業者の質的・量的格差の是正」が表示行政の目的とうたわれていたが、読みやすさなども入れるべきとの発言があった。ここでは、基本的な考え方として
*案A
現在の表示事項を原則として維持した上で、さらに消費者に関心のある事項を容器包装に記載する。
*案B
容器包装については、予備知識の少ない一般の消費者でも理解できる内容を中心に記載し(現行より簡素化)、アレルギー表示等健康に直接関連する事項をわかりやすく表示する。一方、その他の事項は容器包装以外の媒体を活用できることとする。

の2つが提示された。

 それをわかりやすくするために表示のイメージ (案)凡例として、
*案①
原材料の上位2品目について、原料の原産地を表示。添加物は全て、物質名に用途名または一括名を併記、 製造者の名称及び所在地を表示し、製造所固有記号は使用しない、栄養成分名及びその含有量を表示(一般表示事項及びトランス脂肪酸等を表示)。
*案②
アレルギーは原材料に付記することをやめ、一括で表示する、 原材料、添加物は上位8品目を表示、容器包装には原材料名とは別に添加物名を項目として追加し、用途名または一括名を記載、 商品に責任を持つ者(併せてその電話番号または住所)を表示、製造者の名称及び所在地を表示し、製造所固有記号は使用しない、栄養成分名及びその含有量を表示(一般表示事項)、一括表示欄に表示されない残りの情報はWEBサイトやPOP等で表示可。

の2案が出され、即席カップめん、チャーハンのもと、シチュールウの表示のイメージが提示された。

 両極端な2案のどちらかを選択させられるような危惧を抱いた委員もあり、「レシピや製造方法が示された後に表示が示されないと、どの表示が実態をわかりやすく示しているのかわからない」という発言もあった。また、②案は添加物表示として用途名ばかりが並んで表示され、現行とは異なった新ルールによる表示例になっていたので、「食品添加物については、別途分科会を持って議論すべきではないか」といった意見が出された。

 また簡素化したという②案でさえも、商品責任者に加えて製造者名、製造者住所が記載されて、製造者固有記号がなかったことから「議論なしに製造者固有記号による表示を出さないのは、製造者固有記号を廃止すべき表示という見解から書かれているのか」との質問も出た。事務局は「義務表示を足していったときにどういう表示になるかをイメージするための表示案である」と弁明していたが、資料の一つひとつに疑問が呈される有様で、議論はまとまらなかった。

 結局、二つ目の議題である(2)加工食品の原料原産地表示の拡大については、終了予定時間の5時を過ぎた後に、簡単な説明を事務局がするだけにとどまった。座長から「議論するには、コストについてのデータがないこと、何がわかりづらいのかについては、消費者庁で一般の消費者を対象にインターネットを通じて、アンケート調査を計画しているので、それを実施した後に、重要度を理解するための資料として検討したい」との発言があった。

 第4回の会議では、前半の再整理と原料原産地表示の議論をするということで閉会になった。このように資料の書きぶりで混乱した会議は、三つの法を並列に並べて組み合わせて出来上がりとするだけで一件落着になる不安さえ感じられるものであった。

 この会議の中で鬼武委員が資料として出した「消費者に対する食品情報の提供に関する2011年10月25日のヨーロッパ議会の、および理事会の規則(EU)№1169/2011」の説明には、2ページ目に「食品の表示、即ち食品情報の提供は、消費者が情報に基づく選択を行い、かつ消費者が食品を安全に利用するためのベースを提供することにより、高いレベルの消費者の健康と利害の保護の追求を目的としている。」という一節があった。さすがにヨーロッパの各国の意見でもまれた内容だけあって、今までの単なる虚偽などの不当表示を避けるための選択から、さらに高度の、健康、経済、環境、社会、倫理の観点から、賢い選択、より高い安全性という選択が出来るという点は同調する委員が何人かあったが、これも委員の総意としてまとめられるところまでは議論が進まなかった。

 また、山根委員提供資料の食品表示法案要綱案については山根委員から目的を中心に簡単な説明があり、消費者の消費者基本法にも掲載されている消費者の権利の確保についても「入れることは重要」と同調する発言があった。これについて、表立った反対意見もないとはいえ、結論までには至らなかった。

 消費者サイドからみると、品質だけでなく、価値観に合わせて選択する際に役立つ情報という観点を押さえた上で各論に進まないと個別の表示で行き詰るのは必至と思えるが、事業者サイドは原料原産地表示の拡大ともつながりかねないせいか、警戒感があるように思われた。また、消費者の権利の確保については、「基本法が前提なのだから、入れる必要がない」ということにしておきたいのだろう。

○製造所固有記号の省略について、もっと議論を

 以上が傍聴の内容だが、製造所固有記号の省略について―事務局は意図したことではないと説明し、それ以上の発言は委員からはなかったが、私個人としてはもっと議論をしてほしいと思う。

 製造所固有記号は、都道府県を経ずに直接に担当省庁に提出する事業者が多くなったために、都道府県の保健部レベルでも自分の地域の製造者の製造所固有記号が把握できないようになっている。ある製造者がいろんな販売者に同じ製品を委託されて作っていて、そのひとつで食中毒がみつかっても、販売者と連絡が取れない限り、製造者を明らかに出来ず、他の販売者の製品を知ることが出来ないため、保健所を通じて被害の拡大を防止することが困難な場合があると聞いている。食品表示についての共同会議でも、「現場の食品衛生監視員の意見としては、固有記号は現在の情報公開の流れからは廃止していくべきだと思う」という意見が議事概要に記載されている。

 「製造者固有記号の表示で、製造者名を表示していない商品の製造者名は行政で把握出来る仕組み」があるといっても1日に数百件の届出があり、変更届や廃止届は必要ないので、届出数は増える一方で、 今、どれだけの固有記号が市場にあるのかを行政が把握しているとは考えられない。当然、甲社が販売している商品△に使われているAという固有記号がどの製造業者であり、その製造業者が他にどの販売業者の製品を作っているかについて、厚生労働省から業務を引き継いだ消費者庁が直ちに回答できる状況にあるとは考えにくい。機能していない仕組みは無いのと同然であると思われるからだ。

 消費者庁食品表示課がまとめた製造所固有記号に関する手引き(Q&A)には、「製造者及び製造所所在地の表示については、表示面積が小さいことにより全てを表示できないこと等を勘案して、例外的に製造所固有記号の表示に代えることができるとされています。そのため、消費者等から製造者及び製造所所在地についての問い合わせがあった場合には、すぐに回答できるよう、既に届け出ている製造所固有記号を一覧にまとめ、問い合わせ窓口に備えておくなどの対応が必要です」という記載もあるが、消費者からの問合せに答えない販売者に対する苦情もよく耳にする。

 公衆衛生の面からは原料原産地表示以上に重要とみられ、食品衛生を監視する仕事についている立場から廃止の希望のある製造所固有記号の表示については、冷凍餃子事件の教訓を忘れず、消費者庁の管轄ではない保健所や食品衛生監視員がどのように公衆の衛生を担保できるという観点からも、検討会の俎上にあげて議論してほしいと感じる傍聴となった。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。