多幸之介先生の健康と食の講座
食や健康に関する間違った情報が氾濫し、食品の大量廃棄が行われ、無意味で高価な食品に満足する奇妙な消費社会。今、なすべきことは?
食や健康に関する間違った情報が氾濫し、食品の大量廃棄が行われ、無意味で高価な食品に満足する奇妙な消費社会。今、なすべきことは?
藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める
第5回食品添加物検討会が9月20日に開催された。
最初に消費者庁から、前回の問題提起を受けた論点1、2が修正された資料1および小規模事業者への配慮の観点から要求のあった資料2が提示され、説明がなされた。本題である無添加表示に関する資料3に入る前に、文部科学省の学校給食管理基準の記述について、やり取りがあった。
●前回の問題提起に、文科省の学校給食管理基準への回答は?
前回に質問があった文部科学省の学校給食管理基準における文言について、消費者庁が文部科学省から“有害な”はどこにかかるかと問い合わせたところ、「食品添加物にかかる」との返事があったということだ。
その点について、消費生活コンサルタントの森田満樹委員(Foocom代表)は、学校給食管理基準で“有害な”食品添加物としていることは様々な場面で混乱を招くことになり、「消費者庁は、文部科学省と食品安全委員会など関連省庁との間の調整役を果たしてほしい」と要求した。
これに対し、主婦連合会の有田芳子委員から「“有害な”添加物としては防カビ剤などのことだが、これについては改めて提示する」との発言があった。事務局からも「文部科学省も使用が認められていない添加物の使用を意味しているの回答があった」と補足説明があったが、森田委員は「使用が認められていない添加物の使用とは、そもそも食品衛生法に違反するということで、問題が違うのではないか」と提起した。さらに全国消費者団体連絡会の浦郷由季委員からも「この文言に関しては文部科学省に見直していただきたい」との発言があった。
事務局として「状況によってはこの席で文部科学省の同席をお願いして議論することも含めて今後検討する」との発言があり、京都府立医科大学教授の中垣委員からは「この問題は後の論点5の食品添加物表示の普及、啓発、消費者教育に関する問題であるのでここでする議論ではない」との指摘もあり、一応この場では“有害な”の言葉の問題は終結した。
●本題は論点3「無添加」「不使用」表示の在り方について
引き続き今回の本題である論点3について、資料3が提示された。
1.「無添加」、「不使用」の表示に関する現行のルール
2.これまでの検討会における主な意見
3.消費者意向調査結果報告書の概要について
4.「無添加」、「不使用」表示に関する用語について
の順で説明があり、最後に資料3のp15に、「無添加」、「不使用」の表示の在り方についてとして表にまとめられ、その取り得る手段(案)が提示された。
●3人の委員から出された提案
以上の消費者庁からの説明に引き続き日本添加物協会の上田要一委員、食品産業センターの武石 徹委員、森田委員の3名から出された資料の説明があった。
上田委員からは、誤認に繋がる無添加・不使用表示の禁止に向け、食品表示基準の改正が必要であるとの訴えがなされた。上田委員は誤認につながる具体例を11項目例示され、11番目に「平成7年の食品衛生法の改正で「食品添加物規制において合成と天然を区別しないとされたこと」と整合しない、不当表示として人工甘味料、合成調味料、天然甘味料などの用語の禁止を求めた。また、「人工や合成を冠した用途名、一括名の法令からの削除」も要求事項として提示された。
続いて武石委員は、「食品産業センターとしては、消費者庁のアンケート調査結果等を踏まえると、消費者の誤認を招かないようにするとの視点は最優先の課題と考えるので、食品表示基準のQ&A等について一定の整理が必要だと考る」との観点から「食品表示法に基づく規制と景品表示法の規定との考え方の整理」が必要と考えるとの意見を述べた。さらに景表法第31条の規定により認定を受けた公正競争規約で「無添加」の自主基準を定めている事業者について、食品表示基準第 9 条との関係をどのように整理するのか、との問いかけがなされた。
最後に森田委員からは、「無添加」「不使用」表示は消費者に様々な誤認を与えており、現行の表示規則を見直す必要があること、そして食品表示基準 Q&A「加工―90」に関しては、遵守しない事業者がいて公平な競争になっていないこと、かえって「●●無添加」「●●不使用」表示をしやすくしていることなどから削除が望ましこと、そして結論として食品表示基準の見直し、新たなガイドラインの策定を提案された。
●味噌の「無添加」はダシの無添加?
消費者庁が示した案について、武石委員からは「そもそも消費者庁に移管する前の食品衛生法の中で『食品、添加物、器具又は容器包装に関しては、公衆衛生に危害を及ぼすおそれがある虚偽の又は誇大な表示又は広告をしてはならない。』という以外に規制がなかった」ことを指摘された。
また有田委員からは、「強調表示はコーデックスの『条件付き強調表示」の考え方』を取り入れて認めてゆくべきではないか」と発言された。
私も個人的にはこのコーデックスの案(資料3p5)は、厳密な意味で守られるのなら良いと感じている。しかし現実の実効性には大きな疑問があるので、厳罰を含めてこの検討会で議論していただきたいと考えている。
さらに浦郷委員からは「本当は完全に禁止にしても良いとは思うが、小規模事業者などの努力のためにもガイドラインをしっかり作るのが良い、ただ人工、合成や単なる無添加表示は禁止すべきではないか」との意見を加えられた。
全国スーパーマーケット協会の大熊 茂委員からは「味噌には無添加の表示が多いが、あの無添加の意味はダシを加えずに伝統的な手法のみで作られた味噌に許されている事項である。従って味噌の無添加は消費者の商品選択に当たっての情報提供のためであって誤認をさせるためのものではない、また無塩漬についても業者の長年の努力によって添加物に少しでも不安を抱く方々のために開発されたものであるので、無添加扱いは問題がある」との発言がなされた。
この発言に対し無塩漬に関しては製法なので認めるべきとの意見が出されたが、「味噌の無添加が大熊委員の発言のようであることは知らなかった」と、やや驚きを持っての意見がいくつか出された。中には「『ダシ入り味噌』と書けばわかるし、一般には『無添加』と言えば何となく健康に良さそうとの誤解を招いているのではないか」といった意見も出された。佐藤委員からは「現在は添加物を添加すれば必ず表記しなければならないので、わざわざ無添加の表示は必要ない」との発言もなされた。
私もこの味噌に多い「無添加」表示が、ダシの入っていない味噌だということを初めて知った。そこでこの考えがどれくらい一般市民の知るところかということを早速調べてみた。この検討会の翌日から参加した第66回日本生薬学会に参加していた32人の参加者、24日に私の大学の教職員15名および私の家族関係者に尋ねところ、一人もダシ入りでない味噌を「無添加」と表示すると知っていた人はいなかった。
さらに森田委員からは、「味噌には公正競争規約で無添加の表記についての基準があり、そのことによって多くの味噌が大きな字で無添加を表示している。しかし、食塩に加工助剤を使っていないのか、その観点からは疑問がある。一方、業界によっては無添加表示を全く認めない業界もあるので、公正競争規約のバラツキも考慮に入れて今後検討をすすめるべき」との発言もなされた。
●食品表示基準第9条の禁止事項ですべきか?
こうした議論の中で、多くの委員の方から「無添加表示が添加物の安全性を危惧させるようなことに繋がっている」との指摘があり、食品表示基準第9条の(表示禁止事項)の題1号の優良誤認だけで禁止するのは無理があるから、新たに第14号として「無添加」を設けてはどうかという提案がなされた。
この提案に対する委員の意見聴取が行われた。何らかの規制をかけるべきとの意見が出される中で、一律に無添加表示を禁止するのは行き過ぎであるという武石委員の意見や、加工助剤なども一切使用せず本当に無添加の場合に果たして誤認にあたるのかといった森田委員の意見、コーデックスのガイドラインに準拠したガイドラインで良いのではないかといった有田委員の意見も出された。
●ガイドラインでまとめられる?
議論がかなり白熱化してきたところで時間となり、事務局から「皆様のご意見をまとめますと、細かい中身はともかくとして手段としてはガイドラインの策定となったと考えられる」との発言があった。しかしそこまで言ってしまってもよいだろうか, もっと法令の中で食品表示基準で考えるべき要素があるのではないか等の意見が出された。今後の問題も考えてもし第9条の禁止に盛り込む改正で対応できないというなら、それなりに理由を明確にしておくべきだろう。
このように、9条との齟齬がないように検討を勧めるべきなどのコメントが出される中で、検討会は終了したが、さらに検討が行われることを求めたい。今回は論点3として無添加表示に関する議論がメインということであったが、時間が足りず中途半端に終わった。第4回の検討会資料の論点整理の議論でも時間不足で、いずれも十分な検討が行われないのは残念であった。
藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める
食や健康に関する間違った情報が氾濫し、食品の大量廃棄が行われ、無意味で高価な食品に満足する奇妙な消費社会。今、なすべきことは?