多幸之介先生の健康と食の講座
食や健康に関する間違った情報が氾濫し、食品の大量廃棄が行われ、無意味で高価な食品に満足する奇妙な消費社会。今、なすべきことは?
食や健康に関する間違った情報が氾濫し、食品の大量廃棄が行われ、無意味で高価な食品に満足する奇妙な消費社会。今、なすべきことは?
藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める
8月29日(木)、消費者庁の第4回食品添加物表示制度検討会が開催された。今回は会議時間がいつもより1時間長く討議された事項も多かったが、5つの論点が示され、最後にそのうち2つが議論された。
●“有害な”はどこにかかる?
会議は冒頭、これまでの委員指摘事項に対する回答として、膨大な資料1に基づいて消費者庁からポイントごとに説明があった。最初は「資料1-1学校教育関連の文部科学省告示等における食品添加物の取扱いについて」が示された。
この説明に、坂田美陽子委員、浦郷由季委員からは、中学校学習指導要領の技術・家庭編(平成29年告示)、高等学校学習指導要領の家庭編(平成30年告示)で食品添加物の基準値等の概念を教え、安全確保などについて教育するように変えられてきたことを評価した。
その一方で、浦郷委員から平成21年告示の「学校給食衛生管理基準」について、下記の記述について疑義が出された。
③食品の選定
二 有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他の食品添加物が添加された食品、又は内容表示、消費期限及び賞味期限並びに製造業者、販売業者等の名称及び所在地、使用原材料及び保存方法が明らかでない食品については使用しないこと。
また、可能な限り、使用原材料の原産国についての記述がある食品を選定すること。
浦郷委員は、こうした記述が教育現場において食品添加物に誤解を招く原因となっているので、文科省の早急な対応が欲しいとの指摘がなされた。また検討会に文科省に来てもらってその趣旨を説明してもらえないかという要望も出された。
この指摘に対して有田芳子委員から「確認をしたい」として、「『有害若しくは』と書いてあるので、『有害』は添加物にかかるのではなく、食品にかかると考えることもできるのではないか」との意見があった。武石 徹委員からは「添加物の問題は食育の中でも考えなければいけない。幸いにも有田委員はそちらにもかかわっておられるので、是非よろしくお願いしたい」との要望もあった。
この問題について、かつて私も「文部科学省が感情論的食品添加物バッシングを展開?」と寄稿して取り上げたことがあったので、興味深く聞かせて頂いた。有田委員の指摘については、後の議論で前後の文脈からみてこれは明らかに添加物にかかっていると断言される場面があった。私も自然に読めばそのように取れると感じた。
●添加物表示におけるコーデックスと日米の違い
次に「資料1-2 添加物に関する国際比較」に関して、有田委員からできるだけ日本もコーデックスの考え方に従うべきではないか、特に日本ではポストハーベスト添加物として扱っているいわゆる防カビ剤はコーデックスのように農薬として扱うべき、という意見があった。
この意見に西島座長から「この物質は農薬としても検査されている」という現状説明があった。さらに武石委員からコーデックスの定義を含めての現状の問題点が指摘された。
実際に資料1-2を見ると、コーデックスの定義と日米の定義は異なり、具体的な分類が異なるものもかなりある。添加物の安全性が高いレベルで国際的に確保されてゆく今後の情勢を考えると、基本的にはその物質の用途、目的別に分類をしてゆくコーデックスの考え方を尊重してゆけば、一括名表示、用途名表示といった考え方がずっと整理しやすくなるのではないか。そして、消費者に本当に伝えるべき必要な事項が分かりやすく伝えることのできる制度ができるのではと考えている。そんな観点から見ると、ポストハーベスト剤としての防カビ剤は農薬として分類する方が理にかなっているようにも感ずる。
●予測通りに少ない添加物使用の現状
「資料1-4 マーケットバスケット方式による食品添加物の推定一日、摂取量の推移」について、マーケットバスケット方式による調査方法に関する質問が出され、消費者庁からADIの決定されている添加物、または国民の関心の高い添加物について行われているという現状の説明があった。この資料を見る限り、流通している添加物の使用量は極めて低いことが明らかであった。
また、資料1-6 「食品表示の全体像に関する報告書」の概要について、武石委員から優先順位や見やすくするなどといった問題が検討されないままで進行しているもので、あらためてその点を今後まとめて行くべきではないかとの提言がなされた。
●絞られた5つの論点
続いて、消費者庁から「資料2 食品添加物表示制度の在り方の検討に当たっての論点(案)」 が提示され説明が行われた。
提示された論点は、
論点1 一括名表示(簡略名、類別名含む)の在り方
論点2 用途名表示の在り方
論点3「無添加」、「不使用」の表示の在り方
論点4 栄養強化目的で使用した食品添加物の表示
論点5 食品添加物表示の普及、啓発、消費者教育について
の5つである。
この論点の説明後、一社)日本食品添加物協会の上田要一委員から「論点整理にあたっての意見」に基づき、意見開陳があった。「食品添加物表示制度の現状を十分に検証すべき」「食品事業者の実行可能性につき十分に検証すべき」「食品添加物に係る無添加・不使用表示の禁止を論点にすべき」「行政によるリスクコミュニケーションと情報提供のあり方を論点とすべき」の主に4点について強調した。
また、一社)食品産業センターの武石 徹委員からも「食品添加物表示制度の論点整理と議論開始にあたって」に基づき、意見開陳があった。「現在の制度の十分な検証が必要」「食品表示全体を見通した議論が必要」「食品添加物表示についての消費者ニーズの的確な把握について」「エビデンスに基づいた議論が必要」について述べた。
この説明の後、森田満樹委員から論点1の表記について、一括名表示、簡略名、類別名は別なものなので「一括名表示(簡略名、類別名を含む)という表現は修正してほしい」「消費者団体、事業者団体のヒアリングのまとめ方を丁寧にしてほしい」という要望があった。さらに「論点2の消費者団体、事業者団体のヒアリングのまとめ方では用途名併記について何を求めているのか、わからない」との指摘もあった。
大熊委員からは、中小企業の方にも対応できる表示制度になるように論点を整理していただきたいとの要求がなされ、武石委員からも「繰り返しになるが」との前置きの後に、「添加物表示の改正が本当に喫緊の課題なのか、大熊委員からも主張されたように本当に中小企業の方が対応できるのかも含めて議論すべき」と主張された。
●生鮮食品に対する問題は?
休憩を挟んで、坂田委員からは「生鮮食品の添加物の問題も論点の一つとして加えるべきでないか」「表示がされていないので実態が良くわからず、まず実態調査から始めるべきではないか」との提案があった。
上田委員から「実態は把握していない」との発言に続いて、消費者庁からは生産者の実態について事務局も十分把握していないという点から特に取り上げなかった、との説明があった。食品表示基準では生鮮食品ごとに個別に定められているが、それ以外の実態がどうなのか、消費者庁は実態に関して調べて検討し報告書の中に盛り込むつもりであると述べてた。
●論点1,2の議論は?
5つの論点について、この日は最初の2つの論点についても議論された。最初に、消費者庁が「資料3 消費者庁説明資料」に基づき、加工食品の食品添加物表示例、一括名、簡略名、類似名、用途名の現在の表示制度、そうなってきた経過の説明があった。参考資料として、これまでのヒアリング等で得られた意見のまとめ、および消費者庁が行った表示に関する消費者のアンケート調査資料およびコーデックスの表示例の資料についても説明された。
ここでも武石委員からは「これまでのヒアリング等による事業者の実行可能性からみて、基本的には現状で良いと考えられる」という意見が出された。それに対し有田委員から「日本独自の表示も必要かもしれないが、コーデックスの表示を可能な限り取り入れてゆくべきでないか」といった意見も出された。有田委員は「地方の小企業が6次産業的に製造している製品では努力して無添加にしているケースもあるので、それを禁止するのはどうかと思う」という発言もされたが、座長から「この問題は論点3でお願いしたい」とされた。
続いて森田委員から、現状でコーデックスに合わせようとするのにはかなりの無理が生ずるとは思われるが、それでは具体的にどのような問題が生じるのか、一部の一括名を用途名にすることができるのか、整理すべきではないかという指摘があった。また、番号制度については全く話が出ていないが、ヨーロッパやアジアでは採用していることもあり、そのことも触れなくていいのかといった意見も述べられた。
この意見に対して、座長からは一つの物質でいろいろな用途の物があったりするから非常に困難ではないか、という発言があった。また、浦郷委員からは消費者団体としては内部でも意見は割れているが、大切なことは安全にかかわる事項なので、アレルギー表示などに十分スペースが取れるように考えてゆくべきである、という主張がなされた。さらに現状で大きな問題が起こっていないので、その点からももっと検証してから考えてゆくべきである、という意見も出された。
有田委員から「資料が十分でないので非常に議論がし難い」という発言はあったが、特に結論的なまとめはないまま、「全部の論点を議論したのちに意見集約として提示する予定である」と座長がまとめて検討会は終了した。次回は論点3の検討が行われる予定である。
藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める
食や健康に関する間違った情報が氾濫し、食品の大量廃棄が行われ、無意味で高価な食品に満足する奇妙な消費社会。今、なすべきことは?