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AP問題を採択〜Codexバイオテクノロジー特別部会

宗谷 敏

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 2006年11月27日から12月1日まで、千葉県の幕張メッセ国際会議場においてCodex委員会第6回バイオテクノロジー応用食品特別部会(TFFBT)が開催された。厚生労働省からは既に結果概要が公表されているが、「6.主な合意内容」の(6)にある米国から新規に提案され採択された「組換えDNA植物の低レベルの存在新規作業提案」について、若干の補足を試みる。

 「低レベルに存在する組換えDNA植物」とは、より広義には「食用農産物に対するGM原料物質の偶発的な、技術的には不可避の混在」と定義されるAP-Adventitious Presenceを指し、ここで対象とされるのは「未承認(unauthorized)のもの」に限定される。

 未承認APとCodexバイオテクノロジー応用食品特別部会との関わり合いについては、筆者も気になっており、昨年8月と9月にも書いた。昨年9月の第5回TFFBTで米国が提案したが、対象とする未承認APの定義が明確さを欠いたため、EUはじめ他国からの疑心暗鬼を招き、採択の同意にはいたらなかった経緯がある。

 今回米国は、「輸出国において安全性が承認済みだが、輸入国ではまだ未承認である組換えDNA植物の低レベルの存在」と対象をさらに絞り込み、「組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン」の付属文書としてのリスク評価法のみを検討しようという提案で再挑戦してきた。

 おそらく絶対に議論がまとまらない「低レベル」の意味する閾値(0.1%?1%?3%?5%?)などについては、リスク管理に属する問題だとして敢えて触れず論議の対象からも外し、各国がリスク管理規制に従い決めればよいという姿勢である。

 折しも06年8月に勃発したLLRICE601問題が重なったため、EUの一部などにはこれとの関係を指弾する向きもあった(LLRICE601の微量混入を認めさせるのが目的の米国の寝技?)が、米国の原案はこれより以前であり、直接的関連は希薄だろう。

 結論から言えば、米国のスコープの絞り込みはかなりの成功を納め、熱を帯びた非公式会合も含めて、オブザーバーの複数NGOから反対意見は出たものの、参加国政府代表で正面切って採択(ステップ1)に異を唱える者は皆無であった。この結果、米国、ドイツ及びタイの3カ国を共同議長国とするワーキンググループが設置される(ステップ2)こととなった。

 3カ国以外にワーキンググループへ参加表明したのは、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、チリ、中国、インド、イラン、アイルランド、イタリア、フィリピン、コスタリカ、デンマーク、EC、ギリシャ、日本、ケニヤ、メキシコ、フィンランド、フランス、マリ、ノルウェー、パラグアイ、南アフリカ、スエーデン、スイスの諸国及びNGO7組織であった。

 第一回のワーキンググループは、当初07年1〜2月に米国において開催されることになっていたが、部会の最終日に米国から準備の都合上2月末〜3月に遅らせて欲しいとの申し入れがあり、認められた。

 本件の採択に対するキーカントリーとしては、特にEU(EC)と日本の動向が注目されていたが、両国に共通する米国提案受諾への基本姿勢は、既存の関連指令(法体系)や従来からのリスク評価システムが何ら変更されることはないことを絶対必要条件とするものであった。

 日本政府代表団からは、(未承認ゼロ・トレランスに基づく)従来からの自国リスク評価システムが堅持され、このリスク評価法を必要とする国(リスク評価制度が十分整備されていない一部途上国などにとっては、より重要な意味がある作業だと考えられるため)があるのであれば、作業を行うことに対し特に反対はしないし、ワーキンググループが設置されれば参加したいとの意見表明があった。

 一方、EU(EC)の方は、例の通り一筋縄では行かない。「反対はしない、が、そのためには……」と抱き合わせの条件闘争を試みる。それは、本件においてはデータや情報の共有こそが鍵となるから、対象となるGMOの検知方法や検査法のプロトコルを含むデータシェアリングシステム(データベース)を、同時に構築すべきだという主張だ。

 昨年の第5回TFFBTでも、AP問題に絡めてこのデータベース論議は出ていた。EU(EC)の今回の主張の裏にある真意は計りかねるが、全体作業のデッドラインが2年後の第8回TFFBTと決まっている以上、本筋のリスク評価法のみでも各論や細部の合意形成が大変なのに、共同議長国は余分な大荷物を背負い込まされた印象は拭えない。時間切れに持ち込むためにEU(EC)が仕掛けた裏技という穿った見方も当然あるだろう。

 このAP問題には、「組換えDNA動物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン原案」のような派手さはない。しかし、GMO栽培面積や栽培国が拡大し、トレイトの多様化も進みつつある現在、以前から指摘している通り、穀物国際貿易上避けては通れない重要課題である。従って、今回TFFBTで本件が採択され、討議が二国間に留まらず国際的なテーブルに上がったことは、検討結果の如何にかかわらず一つの前進と評価できる。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)