食情報、栄養疫学で読み解く!
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.
私たちの健康を保つためには、体の中で様々な栄養素が働いています。
健康のことを考えて食事をするのであれば、どのような栄養素を、どのくらい食べるかを決めて、それを食べることになるわけです(文献1)。
けれども、この栄養素をこれだけ食べたい、と決めたとしても、栄養素をそのまま食べるわけではありませんね。
私たちが食事のときに食べるのは、食品で作られた料理です。
ある栄養素をこれだけ食べたいと思ったら、その栄養素がその量だけ含まれている食品を集めて、それを食べられるように調理して、出来上がったその料理を食べることになります。
健康のための食事を選ぶときの難しさは、この「健康のためには栄養素の種類と量を考えないといけない、けれども実際に私たちが食べるのは食品で作られた料理である」というところにあるように思います。
「栄養素→食品→料理」へと変換する作業は、知識がなければできませんよね。
しかも、「栄養素Aを含む食品=食品B」というふうにひとつには決まらず、栄養素Aを含む食品は無数にあります。
このことが、食事の選択をさらに難しくさせているように思います。
今回はこういったことを、たんぱく質を具体例にしてお伝えします。
以前、ある食事改善のセミナーを受講した知人から
「1日に必要なたんぱく質量を食べようと思ったら、お肉を400 gも食べないといけないんだね。」
という感想を聞いたことがあり、びっくりしました。
1日に肉400 gですって!
お店で普通サイズのステーキ肉を注文するときには、メニューに「150 g」くらいの量が書いてあるのを見たことがありますから、その2.5倍くらい。
ずいぶん多いですよね。
そのセミナーで、実際に「肉を毎日400 gは食べましょう」と言われたのか、詳細はよくわからなかったのですが、彼女はそのように解釈していたようでした。
30歳代の女性が食事摂取基準の目標量(文献1)程度のたんぱく質を摂取しようとすると、その量は1日におおよそ70~100 g程度になります。
それでは、70 gのたんぱく質を摂取しようとした場合、食品としては何をどのくらい食べたらよいでしょうか。
「栄養素→食品」に変換してみましょう。
肉や魚はたんぱく質が豊富に含まれている食材だとは聞いたことがあるかもしれません。
けれども、肉が100 gあったとしても、それがすべてたんぱく質というわけではないんですよね。
例えば、比較的たんぱく質を多く含む鶏むね肉でも、100 gのうち70 g以上が水でできていて、たんぱく質の含量は21.3 gです(図1;文献2)。
他の多くの肉や魚でも、重量に占めるたんぱく質の量は20%程度です。
70 gのたんぱく質を食べようとしたときに、肉という食品1つだけに換算すると、確かに400 g分くらいになります。
先ほど話に聞いたセミナーで「1日に必要なたんぱく質を摂取するにはお肉を400 g食べる」という説明の意味はそういうことなのかなと思いました。
肉や魚は確かにたんぱく質を比較的多く含む食品ではありますが、他にもたんぱく質を含む食品はあります。
というか、たんぱく質をまったく含まない食品は少なくて、量に違いはありますが、多くの食品にたんぱく質は含まれています。
例えば大豆などの豆類の場合、納豆1パックや豆腐1/4丁に6~7 gくらいです。
他にも、たんぱく質が「豊富」とは言われませんが、主食として食べられているごはん1杯には3 gほど、食パン6枚切り1枚には6 g程度含まれています(表1;文献2)。
主食のように、食品あたりに含まれている量は少ない食品でも、摂取頻度が多い食品はたんぱく質の大きな供給源となります。
こんなふうに「たんぱく質を含む食品=肉」という単純な式が成り立つわけではありません。
それでは私たちがどんな食品からたんぱく質を摂取しているかを見てみましょう(表2;文献3)。
調査結果によると、日本人の成人の1日のたんぱく質摂取量の平均値は72.2 gで、そのうちの24%を肉類から、18%を魚介類から摂取していました。
やはり肉類からの摂取は、他の食品よりも比較的多かったです。
一方で、穀類からの摂取も20%と、肉類や魚類に負けないくらい多いのです。
これは、ごはんやパンなどの主食に食べる食品中にたんぱく質が少しは含まれていること、そして日本人は主食をたくさん食べるため、その食品に含まれているたんぱく質がそこまで多くなくても、食べている食品の量が多ければそこから摂取するたんぱく質は多くなることが理由です。
こういった知識を持っておくと、「たんぱく質→食品」に変換する作業は、「たんぱく質→お肉」以外にも様々あることがわかりますね。
お肉以外の様々な食品に変換したほうが、食卓は豊かになりますし、健康はたんぱく質だけ十分に食べても得られるものではありません。
他にもたくさんの栄養素が必要で、それらも同時に摂取しようと思ったら、日々様々な食品を摂取することが効率的に栄養素を摂取するためのコツになりそうです(文献4)。
1日の食事を考えてみると、ごはん茶碗3杯、納豆1パック、豆腐1/4丁、卵1個、いわし1尾、鶏むね肉こぶし大、牛乳コップ1杯を1日で摂取したときの量が、たんぱく質およそ70 gとなります。
1食にすると、主食を1回分と、たんぱく質の多く含まれる肉、魚、豆などのおかずを小皿の場合は2~3品程度、大皿の場合は1品程度、と覚えておくと、日々の献立を考える際の目安になりますね。
付け合わせには野菜も加えて、色々な食材を楽しんでみてください。
ただし、お医者さんや栄養士さんからたんぱく質の摂取量を控えるように言われている方は、その指示に従ってくださいね。
参考文献:
—–
※食情報や栄養疫学に関してヘルスM&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。ぜひご覧ください。
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします