科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

相関関係と因果関係の違いを知ろう

児林 聡美

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 前々回のコラムでは、私たちの研究チームが実施した研究を紹介しました。
 この研究では、たんぱく質と抗酸化作用の高い食品の両方を多めに食べている人たちは、そうでない人たちよりもフレイルティ(虚弱)の割合が少ない、という結果が示されていました(連載第17回 効果的なフレイルティ予防食は?:ヒト研究でも信用できない真実 参照)。

 けれども、このような研究結果が出たからといって、たんぱく質と抗酸化栄養素の両方をたくさんとるとフレイルティを防げるという「因果関係」は言えないのです、というお話も一緒にご紹介したところです。
 この研究で示された関係は、「因果関係」ではなくて「相関関係」になります。
 今回は食情報を読み解くうえで知っておきたい「相関関係」と「因果関係」の違いを整理したいと思います。

●「相関関係」とは

 手元にあった辞書で「相関関係」の意味を調べてみると、「相関」のところに「一方が変化すればそれにつれて他方も変化するといったぐあいに、おたがいに関係があること」とありました(文献1)。
 この場合、一方の変化が他方の変化にどう影響しているかは、実は問題にしていません。
 つまり、そのふたつの変化が、独立して、単なる偶然で起こっていてもよいわけです。

 ひとつ例を挙げてみます。
 図1の左は、過去10年間の日本人1人・1年あたりの米の供給量です(文献2)。
 ここから、日本国内全体に1年間供給された米の量を人口1人あたりにすると、過去10年で少しずつ減っていることが分かります。
 一方で図1の右の図は、過去10年間の日本の年間交通事故死亡者数の推移です(文献3)。
 こちらも、毎年少しずつ減っています。

 このふたつの変化から、過去10年間では、日本人1人あたりの米の供給量が年々減るにつれて、交通事故死亡者も減っている、という「相関関係」が見えてきます。
 ところが、このふたつはおそらく偶然でしょう。
 一方が他方に影響を与えているわけではありませんが、同じ期間に同じ「減少」という変化が見られることから、お互いに関係性、つまり「相関関係」はあるわけです。

図1. 日本人1人・1年あたりの米供給量(左)と30日以内交通事故死者の状況(右)の過去10年間の推移:異なる調査の結果から、いずれも過去10年間で減少している様子が分かります。これらふたつに相関関係は認められますが、一方が原因でその結果他方が引き起こされたという因果関係はないと考えるほうが自然でしょう

図1. 日本人1人・1年あたりの米供給量(左)と30日以内交通事故死者の状況(右)の過去10年間の推移:異なる調査の結果から、いずれも過去10年間で減少している様子が分かります。これらふたつに相関関係は認められますが、一方が原因でその結果他方が引き起こされたという因果関係はないと考えるほうが自然でしょう

●「因果関係」とは

 同じ辞書で「因果関係」を調べると、「因果」のところには「原因と結果」とありました(文献1)。
 こちらは、一方が「原因」となって先に起こり、それがあとから起こる他方の「結果」を引き起こす、という関係性のことです。
 先に「原因」が、あとから「結果」が起こるという、時間的な順序があります。
 そして、その「原因」がなくなれば、その「結果」もなくなるはずです。

 例えば「消費エネルギーよりも多くのエネルギーをとると体重が増える」という例が挙げられます。
 ここでは、「消費エネルギーよりも多くのエネルギーをとる」ことが先に起こり、それが「原因」となってあとから「体重が増える」という「結果」が起こるため、ふたつの間には「因果関係」があるわけです。
 医学の世界で、予防や治療の根拠として使える情報は、この「因果関係」が明らかになった情報のみです。

●気づかぬうちに、ついだまされている?

 このように違いがあるにも関わらず、私たちはつい、相関関係が見られただけなのに、因果関係があったと混同して解釈してしまいがちです。
 例えば、図1の右の図が、交通事故死亡者数ではなくて、何かの疾患の死亡者数だったらどうでしょうか。
 その下に、「過去10年間で日本人はお米を食べなくなりました。その結果○○の病気の死亡者数は減りました。お米を食べないほうが健康によさそうです。」という説明が書かれていたりしたら?

 これらふたつの調査は別々に調べられていて、この結果から見られた関係は相関関係です。
 ここから因果を説明するのは不可能です。
 それに、お米の供給量が減少したグラフを示しながら「お米を食べなくなりました」という摂取量の説明をするのは、飛躍しすぎていますよね。

 ひとつひとつの言葉や情報を冷静に解釈していくと、説明がおかしいことに気づくものです。
 けれどもまことしやかに書かれていると、つい信じたくなりませんか?
 世の中に氾濫している情報には、こんなふうに誤った解釈の結果で生まれたものが多いように感じます。

●食塩の摂取で血圧が下がった?

 表面上に示された研究結果をそのまま解釈すると、真実を見誤ってしまうこともあります。
 今回のテーマである因果関係と関連していて、研究を読み解くうえで気を付けたい現象の例をひとつご紹介しましょう。

 食塩摂取量が多いと血圧が上昇することはよく知られています(文献4)。
 ところが日本の研究で、異なる結果が得られたことがあります(文献5)。
 その研究では、大阪、栃木、富山の3つの地域で、尿中ナトリウム排泄量と血圧の研究を調べていました。
 食塩摂取量の代わりに24時間蓄尿を行って尿中ナトリウム排泄量を調べたのは、この方法が摂取した食塩を正確にはかれる方法だからですね(連載第16回 見えない食塩をどうはかる?:24時間蓄尿 参照)。
 その結果を分析すると、栃木と富山では24時間蓄尿中ナトリウム排泄量が多い人ほど血圧が高めであることが示されました。

図2. 24時間蓄尿から得られたナトリウム排泄量と血圧の関係を調べた研究(文献5)から得られた結果:一見すると、大阪では食塩排泄量が少ない人ほど血圧が高いという、栃木や富山とは逆の関係が示されているように見えます

図2. 24時間蓄尿から得られたナトリウム排泄量と血圧の関係を調べた研究(文献5)から得られた結果:一見すると、大阪では食塩排泄量が少ない人ほど血圧が高いという、栃木や富山とは逆の関係が示されているように見えます

 図2の回帰係数が正の値になっていることが、そのことを示しています。
 ただ、この値は小さくて、「高い」とまで言い切れない状態でした。
 一方で、大阪ではこの値は負の値になっています。
 ということは、大阪の人は、食塩を少なくとっている人ほど血圧が高いという、逆の結果が見られたことになります。
 大阪の人は特殊なのでしょうか?

 この結果を解釈するカギは、図の右側の「減塩している人の割合」にあります。
 大阪の人は、高血圧だからこそ減塩しているという割合が43%と、ほかの地域よりも高くなっています。
 一方で、正常の血圧で減塩している人は12%です。
 つまり、「大阪の人たちの中には、自分の血圧が高いと知っていて、しかも血圧を下げるのに減塩が有効と知ったから減塩した人が多かったけれど、血圧は急には下がらないため、まだ下がるところまでにはいたっていない」と解釈するのが正しいようです。

 本来は、食塩が原因で、血圧が上昇するという結果が起こるはずです。
 けれどもこの研究では、その高血圧が原因になって、食塩摂取量が減るという結果が起こってしまったのですね。
 疫学の専門用語でいう「因果の逆転」という現象です。

●研究結果の解釈はとってもむずかしい

 このように、研究の結果が出たとしても、その背後にある様々な現象をよく知っておかなければ、その結果の「正しい解釈」はできません。
 みなさんが日常的に触れている健康情報は、専門家の解釈を通して提供されたものですか?
 研究論文を書いたことがない人たちの解釈だけを通して提供された情報を、正しいものとしてしまっていませんか?

 どの情報が正しいのか、間違っているのか、判断するのは簡単ではないと思います。
 判断には、前回のコラムで紹介したフロー図のような判定方法を使うのもひとつの方法です(連載第17回 図2 参照)。
 そこまで精査するのが大変な場合には、「正しい解釈を通して提供されていない情報が多いものだ」という見方で、氾濫する健康情報を眺めてほしいなと思います。

参考文献:
1. 見坊豪紀ら編. 三省堂国語辞典第四版. 三省堂 1993.
2. 農林水産省. 食糧需給表.
3. 警察庁交通局. 平成28年における30日以内交通事故死者の状況. 2017.
4. Intersalt Cooperative Research Group. Intersalt: an international study of electrolyte excretion and blood pressure. Results for 24 hour urinary sodium and potassium excretion. BMJ 1988; 297: 319-328.
5. Hashimoto T, Fujita Y, Ueshima H, Kagamimori S, Kasamatsu T, Morioka S, Mikawa K, Naruse Y, Nakagawa H, Hara N, Yanagawa H, Elliott P. Urinary sodium and potassium excretion, body mass index, alcohol intake and blood pressure in three Japanese populations. J Hum Hypertens 1989; 3: 315-321.

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします