科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

激辛ポテチ 海外では死者が出てリコールも

畝山 智香子

キーワード:

7月に都内の高校で「激辛ポテチ」を食べて高校生14人が救急搬送されたというニュースがありました。

同じく7月に、米国で昨年9月に激辛チップスを食べた14歳の少年が死亡した件で、母親が製造業者と販売業者を訴えたというニュースがありました。
Hershey sued by family of teen who died from ‘One Chip Challenge’ (usatoday.com)

そこで今回は激辛食品をめぐる話題について紹介しようと思います。

●米国の激辛チップスがリコール

まずアメリカの事例ですが、Paquiというブランドが、世界で一番辛い菓子とうたうワンチップチャレンジというチップスを販売していました。これは棺の形のパッケージに1枚だけ入っていて、それを全部食べた後、水やその他の食品を口にしないでどれだけの時間我慢できるかを競ってSNSに投稿するように促すというマーケティングをしていて、製品は毎年組成が変わり、今回問題になっているのは2023年バージョンです。

カナダのリコールサイト「Paqui brand 2023 One Chip Challenge recalled due to reported adverse reactions(2023.09.09)より画像抜粋(編集部作成)

2023年に14才のHarris Wolobahが死亡し、2024年に得られた検視の結果は、死因として高濃度カプサイシンによる心肺停止とされました。彼には先天性の心臓欠陥があり心肥大をもっていたとのことです。この商品は2022年にも食べた学生が入院するなどして既に問題になっていました。

訴えられたのは親会社のHersheyと、商品を売っていた小売店のWalgreensです。死亡の報告があった後、商品はリコールされ、販売は中止されています。商品には危険であるとの表示があり、子供向けではないため事業者側は訴えには同意しないとしています。

●韓国の激辛製品がデンマークでリコール

また2024年6月に、韓国の激辛製品3種がデンマークで辛すぎることを理由にリコールされました。ブルダック炒め麺激辛3倍、ブルダック炒め麺激辛2倍、ブルダック湯麵の3種で、これに対して韓国が異議申し立てを行い、7月に激辛3倍以外は販売を継続できることになりました。この判断の根拠がデンマーク工科大学(DTU)から7月15日付のプレスリリースで公表されています。

・プレスリリース
Opdateret risikovurdering af stærke nudelprodukter (dtu.dk)
・DTUによるリスク評価
Risikovurdering af tre nudelprodukter på baggrund af målinger af totalcapsaicinindholdet i chilisaucen — Welcome to DTU Research Database
(いずれもデンマーク語)

この中で、製品中のカプサイシンとジヒドロカプサイシンの量を測定しています。

3 x Spicy & Hot Chicken(炒め麺激辛3倍)はカプサイシン 1袋あたり総カプサイシンとして 16,7-22,3mg 、平均19.1mg でした。 2 x Spicy & Hot Chicken(炒め麺激辛2倍)については7,2-9,9 mg 、平均 8.9 mg、 Hot Chicken Stew(湯麵 )は6.3-7.5 mg 、平均 6.8 mgとなっています。

問題はどの程度の量のカプサイシンを有害影響があると判断するのか、ですが、以下のように説明しています。

ヒト試験によって成人はカプサイシンあるいは総カプサイシン0.5-4.0 mgを摂取すると影響が出る(口の中や胃のあたりが熱い感じがする、胃酸反射等)ことがわかっている。4 mg 以上から今回問題になっている用量のヒトでの実験はないものの、21.6–31.1 mgで血圧が上昇するという観察報告はある。近年こどもや青少年がどれだけ耐えられるかを競う目的でチャレンジとして辛いチップスを食べて有害反応(消化管症状、呼吸の問題、循環器疾患)を起こしたという報告があり、その際に食べたチップスに含まれるカプサイシン量はチップひとつあたり11.8-59.3 mg だった。こうしたデータから、総カプサイシン11.8mgの摂取はリスクとなると評価した。2024年6月11-28日に、デンマーク中毒相談電話に、今回回収対象となった麺を食べて腹痛や口の中が痛い、嘔吐などの症状がでた成人や青少年から14の問い合わせがあった。これらの情報をもとに、激辛3倍は消費者が急性症状を発症するリスクとなる。

●ドイツBfRのカプサイシンの評価

DTUは判断の根拠としてドイツBfRの評価も参照しています。
BfRの2023年のカプサイシンの評価は以下で紹介しています。

食品安全情報(化学物質)No. 20/ 2023(2023. 09. 27)
厳しい試練:激辛食品は特に子供の健康に有害になる可能性がある
Trial by fire: Extremely spicy food can be particularly harmful to children’s health
07.09.2023
https://www.bfr.bund.de/cm/349/trial-by-fire-extremely-spicy-food-can-be-particularly-harmful-to-children-s-health.pdf
(一部抜粋)
BfR は、伝統的に成人が食事中に許容できる辛さは、最大用量 5 mg カプサイシン/kg 体重と割り当てられる可能性があると想定している。これは、1 回の食事中に体重 60 kg の成人が 300 mg のカプサイシンを摂取するのに相当する。
入手可能なデータに基づき、BfRは、唐辛子や他の調味ソース、食品1 kgあたり100 mg以上のカプサイシンを含む製品を表示し、子供が開けにくい包装を提供するよう助言している。さらに、BfRは、カプサイシン含有量6,000 mg/kg以上の製品を摂取しても安全だと見なせるかどうか、関連する食品管理機関が個別の事例で検査するよう助言している。

デンマークの判断が激辛チップスによるチャレンジの有害事象を根拠としているのは若干厳しすぎると思われるかもしれません。BfRの出している数値とも違うのですが、辛いもののカプサイシン量として参考になるかもしれません。

●若者が食品で遊ぶ行為に対策は?

韓国の食品事業者にとっては、激辛チャレンジのとばっちりを受けた感があると思います。

ただ米国での事例のように、近年はSNSで受けを狙って食品で遊ぶ行為が過激化しています。シナモンを大量に食べてむせるシナモンチャレンジが流行して警告が出されたこともあります。若者は羽目を外すもの、とはいえ企業自らが率先して煽るようなマーケティングをするのは感心しません。辛いものがブームになっているから歓迎、ではなく暴走しないよう注意する必要があったと思います。

なお韓国食品医薬品安全処(MFDS)は7月16日にデンマーク獣医食品局のリコール問題を迅速に解決した成功事例であるという発表を行っています(https://www.mfds.go.kr/brd/m_99/view.do)。

日本で販売されていた激辛チップスのカプサイシン量はわかりません。そもそも食品の唐辛子による辛さの参考としてカプサイシン量が表示されているものはあまり見たことがありませんが、安全性のために警告を考えるのであれば目安はあったほうがいいかもしれません。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。