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GMOワールド

GMチキンは存在するか?

宗谷 敏

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 時には結構杜撰な記事も堂々と混在するのが、ネット社会の面白くもあり恐ろしくもあるところだ。特にGMOの場合は、先端科学技術に対する記者やデスクの不勉強が原因だったり、いろいろとセンシティブな問題だけに「ためにする悪意」が背後にあったりもする。

参照記事
TITLE:Video of KFC chicken cruelty released
SOURCE:TBusiness Day (AFP?)
DATE: Oct. 9, 2003

 動物権利保護団体が、インドにある養鶏場でのニワトリの虐待ぶりを撮影したビデオを公表したという記事である。告発しているのは、米国ベースのPETA(People for the Ethical Treatment of Animals)であり、批判されているのはご存じKFC(Kentucky Fried Chicken)。PETAは、KFCやマクドナルドなどをターゲットに、訴訟を起こしたりしてなかなかパワフルな活動を展開している。
 ビデオの内容を説明した2パラ目に、「遺伝子工学(Genetic Engineering)と、繁殖や過給餌により変形させられた(ニワトリの)足」という表記がある。そして、8パラ目には「PETAはニワトリへの遺伝子工学や、刺すように残酷な人間による取り扱いを終わらせることを望む」ともある。しかし、学術目的の実験例は別として、ニワトリへの遺伝子工学など聞いたことがない。念のためにPETAのホームページを覗いてみよう。
参照記事
TITLE:Kentucky Fried Cruelty
SOURCE:PETA
DATE: Oct. 9, 2003

 PETAのビデオに関する説明には「体重を増加させるための繁殖と過給餌による足の変形により歩行が困難になり」とあるが、それが遺伝子工学に起因するなどとは一言も書いていない。しかし、このサイトの別のコーナーに、KFC の遺伝子育種(Genetic Breeding)を批判した部分がある。遺伝子育種とは優良形質を発現する遺伝子情報を基にした通常の交配により、更に優秀な種畜を生産していくことであり、これは遺伝子組み換え技術などの遺伝子工学(Genetic Engineering)とは全く異なる。
 この記事が掲載されている“Business Day”は、南アフリカ共和国のメディアである。転載したことになっているAFP(Agence France-Press)は、決してそんなにいい加減なメディアではない。AFP発として、同文の記事がカタールのメディアにも転載されていたので、なにかネタ元はあるのだろうが、AFPのオリジナル記事はどうやっても発見できなかった。
 シンガポールとインドのメディアもPETAビデオ報道の抄報を載せているが、シンガポールが遺伝子工学を足変形の原因としているのに対し、さすがにインドはそのようなことを書いていない。結論として、これらの記事は「遺伝子育種」と「遺伝子工学」とを取り違えた単純ミスの可能性が高い。しかし、もしかしたら情報を提供する側に、下記のような「都市伝説」を踏まえた悪意が存在したのかもしれない。
参照記事1
参照記事2
SOURCE:Urban Legends and Folklore, by David Emery
DATE: May. 1, 2000

 真相は分からないが、疑問(ここではGMチキンは存在するか?)を感じたら、原典(AFPの元記事やPETAのサイト、PETAとKFCの闘争史の検索など)に遡って再確認する姿勢は、常に大事だと思う。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)