科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食の安全・考

アスパルテームの安全性 畝山智香子さんに聞く

森田 満樹

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甘味料のアスパルテームについて7月14日、WHO(世界保健機関)傘下の「国際がん研究機関(IARC)」は、発がん性分類で「グループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)」と発表しました。同時に「WHO/FAO(国連食糧農業機関)合同食品添加物専門家会議(JECFA)」は、アスパルテームのヒトの健康影響の評価について、これまでどおりADI(許容一日摂取量)は変わらないと発表しました。(ニュースリリースはこちら、詳細はこちら

2つの国際機関の異なる見解を、どう判断したらよいのでしょうか。なぜIARCは、アスパルテームを取り上げたのでしょうか。この分野でわが国の第一人者である畝山智香子さん(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部長・薬学博士)に、お話をお聞きしました。(森田満樹)

右が畝山智香子さん、左がインタビュアーのFOOCOM・森田満樹

――7月14日のIARCとJECFAの発表内容について、教えてください。

IARCはWHO傘下の研究機関で、発がんハザードを評価します。
JECFAはWHOとFAOが合同でつくった食品添加物の専門家機関で、健康影響のリスク評価をします。リスク評価とは、いろいろなハザードを評価したうえにばく露評価を加えて総合的にヒトへの影響を評価することです。
2つはそれぞれ目的も異なる独立した機関で、IARCでのアスパルテームの分類は今回が初めて、JECFAは3回目の再評価となります。

IARCはモノグラフ計画において、「発がん性」のハザードについて評価し、根拠の強さ(確からしさ)によって4つに分類します。今回、アスパルテームはヒトに対する発がん性について「限られた根拠(limited evidence)」があるとして、下から2番目のグループ2Bと発表しました。
評価された動物実験では、いくつもの発がん性陰性の報告の他に一つの研究所から発表されている腫瘍が増加したという報告がありますが、この陽性報告は試験設計やデータに疑義があり、証拠は限定的でした。ヒトのデータとしては複数の疫学調査があり、人工甘味料と肝臓がんの関連が示されていますが、偶然性や交絡因子を排除できませんでした。

一方、JECFAは発がん性だけでなく、他の様々な毒性も含めてハザード(有害性)を特定し、メカニズムや、実際に食品からどの程度摂取しているのかばく露評価を行い、これらをもとに総合的にリスク(ヒトへの安全性)を評価します。

今回、JECFAはアスパルテームの再評価を行い「全体として、アスパルテームが摂取後に有害影響を及ぼすという説得力のある証拠は、実験動物データからもヒトのデータからも得られなかった」と結論づけました。このため、以前設定されたADIを変更する必要はないとして、これまでどおり40mg/kg体重であると再確認しました。

公表内容については、すぐに国立医薬品食品衛生研究所のウェブサイト「食品安全情報(化学物質)のトピックス」の「アスパルテームについて」に要約を掲載しました。また、7月19日発行の「食品安全情報別添」(右図)では、諸外国の声明も含めて関連記事を紹介しています。これは安全情報部第三室の登田美桜室長の尽力によるものです。食品安全委員会も「アスパルテームに関するQ&A」をまとめていますので、これらを参照してください。

●IARCのモノグラフ計画が、最近おかしなことになっている

――IARCの根拠は薄弱だったということですね。なぜ、そんなデータを用いて、わざわざ発表するのでしょうか。そもそもIARCは何をするところですか?

IARCは1965年、発がんのメカニズム、予防などを研究するWHOの外部機関として発足しました。歴史的にはがんの研究をするところですが、この中に人に対する発がん性について分類する「モノグラフ計画」があります。
モノグラフ計画は1971年以来、様々な物質・要因など1000以上を評価し、ヒトに対する発がん性を4段階「グループ1 発がん性がある」「グループ2Aおそらく発がん性がある」「グループ2B 発がん性がある可能性がある」「グループ3 発がん性について分類できない」に分けています。

IARCのモノグラフ計画が始まった50年以上前は、発がん物質が見つかり始めた初期にあたります。この頃、動物に何か食べさせたらがんになることが報告され始めて、「発がん物質」が注目を集めました。発がん性を調べる動物実験がさかんに行われ、モノグラフ計画は、様々な物質の発がん性を調べ、分類を行いました。当時は、発がん性であると判断されたものを世の中からなくせば、がんは減らせるだろうと思えた時代でした。

1970年代には、動物の発がん性試験のほかに細菌を用いて遺伝毒性を調べるエイムス試験が開発され、化学物質が調べられて陽性になると、発がん性の疑いがあるとして販売停止になったりしました。その後、食品として食べられる植物などに含まれる天然の物質にもエイムス試験陽性のものがたくさんあることがわかり、これだけでは使用禁止等を判断できなくなりました。

1970年代はエイムス試験で陽性のものを排除していけばいい、日本もそう思っていました。エイムス試験は絶大な影響力がありましたが、その後はエイムス試験だけではダメとなりましたが、モノグラフ計画はそのまま残りました。IARCは化学物質だけでなく、職業ばく露や生活習慣などにも対象を広げ、評価を続けています。

最近、このモノグラフ計画がおかしなことになっています。活動家やお金目的の弁護士などがIARCの悪用方法を発明し、乗っ取られてしまったようで、それが本格的に目立ち始めたのが農薬(除草剤)のグリホサートの時です。
2015年、IARCはグリホサートを「グループ2A」に分類しましたが、これを受けて、米国でグリホサートの影響でがんになったと訴える人が相次ぎ、巨額の訴訟ビジネスへと発展しました。

近年のIARCの発がん分類は、携帯電話や赤肉などで一時的に話題を提供しては特に何も変わることなくその後一般の人からは忘れ去られていくことが多く、せいぜい特定の研究分野の研究費を増やす程度だったのですが、グリホサートの時には膨大なお金が動きました。
アスパルテームでも似たようなことを期待した人達がいるようです。

――国際機関で、そんなことが起こるものでしょうか。たくさんの農薬、食品添加物の中からグリホサートやアスパルテームだけが取り上げられたのは、インパクトを狙ってということですか。

IARCの中には、注目を集めたい科学者がいるかもしれません。そもそもIARCそのものが、時代とともに役割が終わって必要性がなくなったと散々言われ続けています。2000年前後からリスクアセスメントの時代になり、IARCのように発がんハザードの同定だけやっても仕方がないだろうとの考えです。

現在は発がん物質の研究は以前より下火になっていて、メインストリームではありません。発がん物質であるとかないとかを言うだけの計画は必要なのか。かえって人騒がせという認識となっています。だからこそ、活動のインパクトが必要とされるのです。

そもそもモノグラフ計画のテーゼそのものが時代遅れです。発がん性があるとか、ないとかが分かればがんが減るという考え方は50年前のもので、アップデートすべきです。

IARCの評価方法にも問題が多く、説明としては動物実験とヒトのデータとメカニズムそれぞれを評価すると言っていますが、それ以外は考慮しない硬直的なものです。グリホサートの時に、一番問題だったのは、企業の関与した論文になっていないデータは見ないという点です。農薬や食品添加物は、企業が申請した動物実験などの結果をもとに許可をもらうものであり、そのデータはGLPなどでしっかり固められた、科学者から見ると質の高いものです。

一方、大学や民間の研究機関の論文の中にはいい加減なものもあります。申請に使った安全性データを排除して出版バイアスのために何らかの影響があったという論文が多い公表されている文献だけを採用するという方法によってグリホサートの評価はねじ曲げられました。
アスパルテームの場合は、幸い欧州食品安全機関(EFSA)が申請に使ったデータを公開していたり、一部の企業がデータを論文発表していたのでまだましだったと思います。

今回、アスパルテームを2Bにしたのは、ヒト疫学研究で人工甘味料入りの飲料の摂取と肝細胞がんに関連があるという限られた根拠(limited evidence)です。限られた根拠、というのは交絡やバイアスの可能性が排除できず、信頼性が高くはないことを意味します。

しかしIARCモノグラフでは、ヒトデータを重視しますので、ヒト疫学研究でlimitedと評価されればグループ2B以上は確定します。ヒトのデータが大事、というのはもっともなのですが、今回根拠とされた研究はアスパルテームそのものではなく人工甘味料入り飲料の摂取を調べたものです。

ある特定の国の特定の時期の人工甘味料入り飲料のかなりの部分がアスパルテームを使っていたから、アスパルテームの代理指標にできると主張されていますが、現在は全く状況が異なっていて、いろいろな甘味料をミックスして使うことが主流になっています。既にどこにも存在しない、再現することができない状況での話を、ヒトのデータのほうが妥当性が高いからと重視するのは本来の趣旨とは違うような気がします。

実際にアスパルテームの摂取量を調べたヒトの研究としてはNutriNet-Santéの論文が参考文献にあげられています。ただしこの論文では肝がんは調べられておらず乳がんやその他肥満関連がんとの関連を報告していて他の研究との一貫性がないと判断されています。

――ヒトの疫学研究では、一貫性がなくてさらなる研究が必要となった。それでは、動物のデータはどうですか?

ヒト疫学研究でlimitedと評価され、動物実験でも発がん性が確認された場合、グループ2Aとなるのですが、今回引用されている動物のデータは欧州ラマツィーニ財団だけが出している発がん性があると主張する論文でした。これらのデータは既にEFSAをはじめ世界中の規制機関がこれまでのアスパルテームの安全性に関する評価の結論を変えるものではないと評価してきたもので、IARCのワーキンググループでも試験デザインやデータに疑問があるため限定的(limited)と判断されています。

しかしLancet Oncologyには、ラマツィーニ論文を十分な根拠だとしてアスパルテームはグループ2Aだと主張していた人達が少数いたと記述されています。ラマツィーニ財団の人がワーキンググループのメンバーですから当然その少数に含まれるだろうと予想されます。

IARCの特殊なところなのですが、こうした論文の著者・関係者たちが複数、IARCのワーキンググループメンバーとして参加しています。一般的に研究の質を評価するには、著者や関係者ではない第三者の科学者のほうが適切だと考えられます。しかしIARCモノグラフの場合は、自画自賛が認められているわけです。企業のお金が入ったGLP研究への厳しい態度とは対照的です。

質の高いデータを排除して、質は悪いけれども何か健康影響があるかもしれないというものだけを集めると、何でもクロになってしまいます。そこに一部の人達が気付いてしまった。
ターゲットとなるのは、研究論文が多いもの、良く知られているもの。アスパルテームは何度も評価されており、ここまで安全性のデータがたくさん蓄積されていて問題がないものですが、活動家でもある学者が文句を言い続けて研究すれば必ずクロにできる。少しでも疑いがあれば、2Bと評価できます。IARCのモノグラフ計画の候補に上がった時点で、最低でも2Bの疑いありにするつもりなのです。

●砂糖の代わりにアスパルテームを使ってきた人たちが、不安に陥ることが心配

――それでも「2B 発がん性がある可能性がある」とされると、メディアはそこを強調して伝えます。一般の人も「2Bだから大丈夫だよね」とはなかなか思えず、長期間とり続けた人は心配してしまうのではないでしょうか。

IARCの2Bは一般の人にとってはあまり意味がなくて、研究者に対してデータがないのでもっと研究しましょうという程度のものなのですが、皆の良く知っているものを取り上げて騒ぎにしようと意図的にやっている節があります。

今回の発表前、6月30日にロイターが「最初の記事「独占:WHOのがん研究機関、甘味料アスパルテームは発がん物質の可能性があると発表へ – 情報筋」と記事を掲載しました。IARCのワーキンググループメンバーあるいはオブザーバーが、機密保持の同意書に署名しておきながら事前に内容をリークしたものです。7月14日にJECFAと一緒に発表すると、自分たちの発表は目立たなくなると考えたのでしょう。活動家のやることに、誠実さは期待できません。

今後、一番狙われているのは米国のダイエット飲料メーカーで、ダイエット飲料を飲んだことがあってがんになった人を集め、それで訴訟でお金をもうけることができると踏んでいるのではないでしょうか。訴訟になると、支払う力のある大手メーカーが狙われます。米国は陪審員制度でしばしば根拠は薄弱で恣意的内容にもかかわらず、イメージだけで訴えが認められてしまうことがあります。グリホサートのときに散々批判されてきたのに、もう一度繰り返すことになれば、それはおかしいと思います。

そうなると、砂糖の代わりにアスパルテームを代替甘味料として使ってきた人たちが不安に陥ることが心配です。偶然がんになった人(一生の間に何らかのがんになる確率はとても高いです)がそれをアスパルテームのせいだと信じてしまうと、それは不幸なことです。患者が子どもだったらそれを飲ませた親も苦しむことになる。そうなる前に、関係者もきちんと言っていかないといけないと思います。

少なくともアスパルテームは化学物質として、これ以上安全なものはないくらい安全性が確認され続けてきたもの。食べると吸収される前にアミノ酸(アスパラギン酸とフェニルアラニン)とメタノールに分解されるものです。メタノールは量が多ければ有害ですが少量は普通の食品に含まれますし体内でも生じます。これが有害だという話になったら、今の食品や食品添加物の安全性評価で、最終的に代謝されてアミノ酸になるものの評価が覆されてしまいます。

――IARCが参考にしたヒトデータのうちの一つは、10万人以上の人数で7年以上にわたって調査したNutriNet-Santéの論文でした。アスパルテームを摂取した人たちの研究がフランスで行われており、信頼が高いように見えました。

この疫学研究の研究者自身が、IARCのワーキンググループメンバーとなっていて、自らの研究の正当性を主張しています。私はこの疫学研究を見てまず思ったのは、研究者がアスパルテームのことを物質として何だかわかっていないのではということです。おそらく化学は専門ではなく、アスパルテームが体内にそのまま吸収されて蓄積される化合物のようなものと考えているのではないかと思われる書き方をしています。つまり全ての食品からのアスパルテームの摂取量を包括的に評価したと主張しているのですが、他の食品に由来するアスパラギン酸とフェニルアラニンのことは全く言及されないのです。

食品添加物のリスク評価はそこ(吸収・分布・代謝・排泄:ADME)が最初にくるものであり、化学物質としてのアスパルテームの特性について書きます。摂取後は消化管内で分解され、アミノ酸とメタノールとなり、これらは一般的な食品の代謝物と同じです。アミノ酸が悪いと言ったら、普通に食べているものも全部悪くなってしまい、そんなことはありえないのです。メタノールも例えばペクチンなどから相当量生じます。このような化学のサイエンスとしての信頼性は高く、アスパルテームは圧倒的に安全であることは間違いない。

この疫学研究でアスパルテームの有害性が証明されたと主張するのなら、それは疫学の不完全さなんですよ。化学のほうが圧倒的に確実で信頼性があり、それを覆すのはよほどのことです。この研究で因果関係が証明できたからアスパルテームは制限すべきという主張は、疫学の信頼性を毀損していると思います。

この論文については、日本でも食品安全委員会が令和4年度に実施した「食品添加物の海外の評価結果等に関する情報収集及び調査」でも取り上げられており、日本の専門家が評価しています。摂取量が多いほどリスクが大きくなっているわけでもなく、様々な理由から「残余交絡の存在をうかがわせる」と記されています。また、この報告書では動物実験に対して発がん性があるといったデータについても、専門家がとことん反論しています。

――栄養学の研究では疫学調査が優勢のように見えていましたが、疫学調査にもいろいろあるということですね。

英国の公共放送BBCが、この疫学研究を行っているマティルデ・トゥーヴィエ博士を特集で取り上げています。彼女は超加工食品等の研究で脚光を浴び、今回IARCでも大活躍だった人。IARCのワーキンググループメンバーが公開されていますが、この人を含むNutriNet-Santéの人が複数入っています。

白衣を着てメディアに出て、常に添加物は悪いと主張していますが、BBCニュースによれば、彼女の次のターゲットは乳化剤らしい。査読を受けていない研究としつつ、「乳化剤の摂取と、がん全体、特に乳がんのリスク増加との間に有意な関連性があり、心疾患にも関連している可能性がある」とコメントしています。

これを受けてBBCの記者は「こうした証拠があるにもかかわらず英国食品基準庁(FSA)は、乳化剤を制限する規制をまだ出していない」と述べています。

IARCは、化学物質だけでなく夜間シフトワークや早寝早起きの生活習慣の要因なども評価してきました。ここで使った疫学の手法を、物質としてしっかり評価している食品添加物や農薬に使うからおかしなことになります。食品添加物や農薬のリスク評価はJECFAやJMPRがやるべきで、こちらの評価が信頼に値します。

疫学調査の問題点については、人が何を食べたか過少申告などがあり実際のところわからない。日本の第一人者である佐々木 敏先生がそれを一番良くご存じで、最新の著書にもそのことが書いてあり、1つの調査だけで決定的とは言えない。しかし、それをすっ飛ばして信じてしまう人がいるのです。

●安全性が確認された食品添加物を、これからも選択肢の1つに

――今回の記者会見で、WHOは甘味料か砂糖かどちらを取ったらいいのかという質問に対して、両方ともダメで、水を飲めばよいと言っています。そんなこと言われても困ります。とりすぎはダメだけれども、甘い食品は私たちのくらしをいかに豊かなものにしてきたことか…。それは甘い考えでしょうか。

公衆衛生疫学の人たちの中には、砂糖が多くタンパク質やミネラルの少ない食品は意味のない食品として位置づけ、とらないようと勧める人達が多いです。しかし、そもそも意味がない食品などあるのでしょうか。砂糖は貴重なエネルギー源で病弱な人、途上国の人にとっては重要な食品です。現在の日本の健康な人達にとっても、甘いもので元気が出ることはあるでしょう。食べ物を一つの見方だけでいらないものといるものに分けることを研究するのは、金持ちの道楽のようにも見えます。

データがほぼ欧米なのは問題で、どうしても日本やアジアのデータが足りません。途上国などの現状を無視して、これを食べてよい、食べちゃダメというべき論を先進国がつくってしまうのは問題だと思います。

――最後に、これまでアスパルテームなど甘味料を食べてきた人たちにたいして、今後も食べ続けても大丈夫でしょうか。

先ほどから述べているように、アスパルテームの安全性はJECFAが総合的にリスク評価を行い、日本では食品安全委員会が確認しています。アスパルテームのADIは40mg/kg体重/日で、体重60kgの人は2400mgを毎日とり続けても問題ないということです。

これはたとえば、アスパルテームが200~300mg入っているダイエット飲料500mlであれば、1日に8~12本にあたります。砂糖の200倍ととても甘いので、調味料にしてもそんなにたくさん使うことはなく、今後食べ続けても全く問題はありません。

食生活においては、よくバランスよく食べましょうと言われますが、バランスよく食べるための様々な選択肢を無くさないようにすることが大切だと思います。たとえば、今、自分にとって不要と思われる食品でも、将来必要になるかもしれない。病気になってエネルギーをとるのに苦労したり、フレイルになったりすると、砂糖は大事。糖尿病になったら血糖値の上昇を招かないためのノンシュガー甘味料は大事です。

限りある資源の中で、安全性が確認されている食品添加物は、それぞれ意味があるもので、あらゆる選択肢は捨てるべきではないと思います。


【取材を終えて】

IARCが「アスパルテームに発がん性の可能性がある」と発表するらしい――6月30日のロイターの記事を読んで驚きました。そして、すぐに確認したのが畝山さんの食品安全情報blogでした。国内外の最新情報を読むことができるこのサイト、時に畝山さんの短いコメントが( )で入ることがあります。このコメントでどうやらIARCに問題があるらしいと気づき、取材をお願いしました。
お話を聞いて、国際機関で権威のあるIARCがわざわざアスパルテームを取り上げる理由がわかりました。IARCとJECFAの評価の違い、IARCが根拠としたデータの薄弱さ、そしてアスパルテームの安全性に揺るぎがないことも知ることができました。これまで摂取してきた方にもお届けしたい、科学的根拠に基づく情報です。

なお、本稿で触れられている食品添加物の安全性の考え方は、ご著書の「食品添加物はなぜ嫌われるのか―食品情報を『正しく』読み解くリテラシー」が参考になります。様々なメディアで「○○はからだによい」「○○には発がん性がある」といった記事を目にしますが、本当に信頼できる情報をどう見極めたらよいのか、様々な事例をもとに解説されています。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食の安全・考

食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。