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消費生活相談の窓口から(平林 有里子さん)

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お住いの自治体にある「消費生活センター」をご訪問されたことはありますか?

私は、瀬戸内の島にある消費生活相談窓口の相談員になって10年ほどの、消費生活専門相談員です。消費生活の現場に寄せられる「健康食品」トラブルについて、所属を離れ個人的な意見としてお伝えさせてください。

●相談窓口で近年増加している「健康食品」の健康被害

「消費生活センター」や「消費者センター」などの名称で都道府県や市町村に設置された行政の消費生活相談窓口には、消費者の契約トラブルや商品事故の苦情など様々なご相談が寄せられます。その中でも近年増加しているのがいわゆる「健康食品」に関するもの、特に「健康食品」摂取後に体調を崩したというご相談が問題になっています。

全国の消費生活相談窓口に寄せられた苦情相談情報の収集を行う情報ネットワークPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)を元に国民生活センターが公表した事例にも「インターネット通販で定期購入したダイエットサプリメントを飲むと下痢が止まらない。2回目の商品が届いたが、返品して定期コースもやめたい。」「インターネットで見てお試しの妊活のサプリメントを購入した。2回目が届き、最低4回の定期購入と分かった。飲むとのどが痛くなるので、もう飲みたくない。」といったトラブルが紹介されています。

トラブルが増えた背景には健康食品市場自体が拡大した影響があるといえるでしょう。国民生活センターは2017年7月には「プエラリア・ミリフィカ」を含む健康食品に関する注意喚起を、2018年6月にはビワの種子を使用した健康茶等に含まれるシアン化合物に関する情報提供を公表しています。

2015年度には年間907件だった健康食品に関連した危害に関する苦情相談は、翌年には倍以上の件数と急増しました。2019年8月8日に公表された2018年度のPIO-NETの危害・危険情報の概要をみても、苦情相談件数は1,793件と高い水準のままです。

●消費生活相談の頼もしいミカタ「『健康食品』の安全性・有効性情報」

私がこれまでうかがった「健康食品」に関する苦情相談を振り返ると、その原材料には「青汁」「ヤマブシダケ」「難消化性デキストリン」「酵素」「水素水」「活性炭」など(中には果たしてそれが食材といえるのか疑問を感じるものまで)様々な素材が使用されていました。

消費者相談対応のため、それらの原材料がどのようなものか調べるとき活用するのが、国立研究開発法人医薬基盤・健康栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報、そして「健康食品」の素材情報データベースです。振り返ればこの素材情報データベースを知ったのは、私が相談員として働きはじめた頃に先輩相談員の方に「とても参考になる情報があるよ」と教えていただいたからでした。

たとえば「ビワ茶は生活習慣病の予防に効くの?」とご相談があれば、「健康食品」の素材情報データベースからビワのデータを出し有効性や安全性について情報を提供しています。それだけでなく、ご相談者が受けた勧誘の内容に不実告知などの問題がなかったか検討する際にも、データベース情報を契約トラブルの解決の助言や斡旋のために活かすこともあります。

●健康食品「通信販売」の問題点

消費者の多くは「健康食品」の広告表示から「痩身」「美容」「筋肉増強」「体調の改善」などの効果を期待して摂取されるのだろうと思います。しかし、食品では疾病の診断や予防、治療に関する表示をすることは禁止されていますし、ましてやそれ以外のものに、食品の持つ効果や機能を表示することはできません。それにも関わらず効果や効能を期待し「健康食品」を食べて健康危害が出たという消費者トラブルが起こる背景に、通信販売での販売方法や広告表示に問題があるのではないかと私は思います。

たとえば、健康食品の通信販売で「お試し」「1回だけ」低価格で購入できると思い申し込んだところ定期購入だったというトラブルが問題になっています。いつでも解約できると広告にはうたわれているものでも、解約の申し出に様々な制限があり、販売業者に連絡しても電話が繋がらないというトラブルも多くみられます。

2018年に消費者庁は「インターネット通販で購入した製品の事故に注意」と呼び掛け、「連絡先が分からない」「電話がつながらない」「返品条件を確認せずに購入したため返品などができない」といった健康食品などの通信販売苦情相談事例を紹介しています。

また、通信販売は、特定商取引に関する法律(特定商取引法)に定められている、事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、販売価格、代金支払い方法、商品引き渡し時期等を広告に表示しなければならないのですが、食品表示法に義務表示として定められた原材料名やアレルギー表示等は、特定商取引法の「通信販売についての広告」では表示義務がないのです。

通信販売で食品を購入する消費者は、商品を手に取るまで原材料に何が使われているのかも知らず、アレルギー物質が入っていないかどうかも確認することができない状況であることがしばしばあります。最近では、例えば2019年3月景品表示法違反で措置命令を受けた痩身効果を標ぼうする酵素サプリメントの広告表示のように、ウェブサイト広告の長いスクロールの最後に小さく原材料等を記載したものもありますが、消費者にとってわかりやすい表示であるとは言い難いものです。

こんなにわかりづらい「原材料表示」ではまるで、商品が体に合わず体調を崩した、湿疹が出たなどの理由で返品を申し出ることを拒絶する「言い訳」のための表示のようにみえます。

通信販売は、同じ特定商取引法で規制される訪問販売や電話勧誘と異なり、消費者から自発的に申込む不意打ち性のない取引であることからクーリング・オフ制度がありません。健康食品の通信販売広告に、返品条件など契約条件、そして「食品表示」情報が、消費者にとってわかりやすく表示されていないことは、契約トラブルだけでなく健康被害トラブルにもつながっているよう思われます。

●おわりに

Foocom読者のみなさまの中にはお伝えしたような「健康食品」トラブルを見聞きされた方も少なくないのではないでしょうか。もしトラブルに遭われたときは、どうかお住いの自治体の消費生活相談窓口をご活用ください(消費者ホットダイヤル=電話番号188)。また、法令に違反する疑いのある情報をみかけられたときは消費者庁が案内する各申出・問合せ窓口に情報提供くださいますようお願いいたします。

消費者行政を動かすのは消費者の声です。お届けした情報が、少しでも消費者問題を解決することに繋がれば幸いです。

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