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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

<乳児ボツリヌス症>はちみつの離乳食で乳児が死亡。はちみつ以外で注意が必要なのは?

瀬古 博子

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今年4月の東京都の発表によれば、足立区で、はちみつの摂取が原因と推定される乳児ボツリヌス症により、5か月の男児が死亡した。

経緯は次のとおり。

男児は、2月16日から、せき、鼻水などの症状がみられ、2月20日にけいれん、呼吸不全などを起こし、医療機関に救急搬送された。

症状が出る前の約1か月間、離乳食として、市販のジュースにはちみつを混ぜたものを与えられていた。

男児の便と自宅のはちみつからボツリヌス菌が検出され、3月15日に、足立区の保健所が「離乳食として与えられていたはちみつ(推定)」を原因とする食中毒と断定した。

3月30日に男児が死亡。4月7日に、死因は、ボツリヌス菌によるものと断定された。

●乳児ボツリヌス症とは

乳児ボツリヌス症は、1歳未満の乳児がボツリヌス菌の芽胞を含んだ食品を食べて感染する病気だ。

ボツリヌス菌は、熱に強い芽胞をつくる細菌で、土壌や河川、海洋などに広く存在する。

ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素によって、神経麻痺性の中毒症状が起こる疾患がボツリヌス症。

ボツリヌス症の食中毒は(1)食餌性ボツリヌス症と、(2)乳児ボツリヌス症がある。

(1)の食餌性ボツリヌス症は、食品中のボツリヌス毒素を摂取することによって起こるが、(2)の乳児性ボツリヌス症は、生後1歳未満の乳児が、ボツリヌス毒素ではなくて、ボツリヌス菌の芽胞を摂取し、その芽胞が乳児の腸管内で発芽・増殖して、毒素が産生されることによって起こる。

おとなであれば食べても健康に悪影響が出ないものでも、1歳未満の乳児では、腸内細菌の生態系が、ボツリヌス菌が定着してしまう状態になっていることがあるため、病気になることがある。

乳児ボツリヌス症の潜伏期間は、3日~30日間と推定されている。症状は、便秘傾向に始まり、全身の筋力低下、脱力状態、ほ乳力の低下、泣き声が小さくなる、顔面が無表情になる、首の筋肉が弛緩して頭を支えられなくなるなどだ。

●1歳未満の乳児にはちみつを与えない

乳児ボツリヌス症の主な原因として、はちみつが報告されている。

国内で乳児ボツリヌス症が初めて発見された1986年、感染源としてはちみつが疑われ、1987年に、厚生省から「1歳未満の乳児にはちみつを与えないように」との注意喚起が通知された。

現在は、母子手帳にも「はちみつは乳児ボツリヌス症予防のため満1歳まで使わない」旨が書かれている。

乳児ボツリヌス症を予防対策としては、はちみつ、はちみつを使った食品、飲料を1歳未満の乳児に与えないことが重要だ。

●はちみつ以外の食品は

では、はちみつ以外は特に問題ないのか。

過去には、自家製野菜スープが原因として推定された事例があった。

1996年に3か月の女児が発症した事例で、自宅(青果店)の店舗のちりから、女児と同一のボツリヌス菌が検出された。女児ははちみつを摂取したことがなく、自家製野菜スープを摂取していたことから、野菜に付着したボツリヌス菌の芽胞がスープに混入し、発症したと推定された。

野菜スープが特に危ないということではない。ただし、野菜類はきちんと洗浄し、必要に応じて皮をむくなどして、適切に調理することが大切だ。

●そのほかの過去事例

乳児ボツリヌス症では、前述のはちみつ(1986年5月、1987年10月)、自家製野菜スープ(推定)(1996年3月)のほか、井戸水(2006年9月)が原因としてあげられている。原因がわからないことも多い。

なお、乳児ボツリヌス症ではなく、おとなの食餌性ボツリヌス症では、これまでに鮭のいずし(1995年10月)、グリーンオリーブ(1998年7月)、あずきばっとう(2012年3月)などのほか、自家収穫したサトイモの缶詰(1993年)が原因となった事例がある。ボツリヌス菌の芽胞の無害化には120℃4分間の加熱が必要だが、缶詰については、現在は120℃4分間加熱等の製造基準が定められており、食中毒予防対策が講じられている。

●海外では

乳児ボツリヌス症は比較的まれにしか起こらないが、海外でも発生している。

WHO(世界保健機関)は、ボツリヌス症のファクトシートで、乳児ボツリヌス症にはいくつかの感染源が考えられるが、多くの場合、芽胞が混入したはちみつが関連しており、保護者は1歳未満の子どもにはちみつを与えないように注意されているとしている。

同様に、米国CDC(疾病管理予防センター)、英国FSA(食品基準庁)など、多くの国で、乳児ボツリヌス症の予防対策として、満1歳まではちみつを与えないこととしている。

ボツリヌス菌は土やちりの中に存在するので、完全に予防することはむずかしい。しかし、基本はやはり「1歳までは、はちみつを与えない」こと。もちろん満1歳を過ぎれば、はちみつは安全に食べられる。それまでは、はちみつやはちみつ入りの飲料・食品は与えないように気をつけよう。「オーガニック」とか「完全無添加」などと書いてあるはちみつでも、赤ちゃんに与えてはいけません。

(参考)

自家製野菜スープが原因と推定される乳児ボツリヌス症-東京都  

県内初のA型ボツリヌス食中毒の概要と当所の検査対応-秋田県

農林水産省 ボツリヌス菌

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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