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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

気になる葉酸サプリ

瀬古 博子

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●耐容上限量に近い含有量のものも

健康食品が「いわゆる健康食品」などと呼ばれ、いまひとつ信頼できない状況だが、そんな中で信頼できるものがあるとしたら、それはまず、国が有効性と安全性を審査しておすみつきを与える特定保健用食品(トクホ)。そして、一定の栄養成分について、含有量の基準を満たした製品に、栄養成分の機能を表示できる栄養機能食品ではないかと思っていた。

栄養機能食品とは、栄養成分の補給、補完のために利用するもので、カルシウム、亜鉛、マグネシウムなどのミネラル類や、ビタミンA、C、ビオチン、葉酸などのビタミン類、n-3系脂肪酸を対象範囲としている。

これらの栄養成分について、一日あたりの摂取目安量に含まれる栄養成分量の上限値と下限値が決められており、その範囲内であれば、国への届け出等はなしで、栄養機能食品としての表示が可能となる。

ところが先日、葉酸を含む栄養機能食品の宣伝を見て、目を疑った。

「栄養機能食品」と書いてあるが、1日の摂取目安量に含まれる葉酸の含有量が800マイクログラムとやけに多い。

厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準(2015年)」では、葉酸の耐容上限量は、成人では900~1,000マイクログラムなのだが、それに近い値だ。

これでは、栄養機能食品の上限値を超過しているのではないか。

そう思ってよく見ると、この製品は「栄養機能食品(マグネシウム)」と表示されていた。

マグネシウムについて栄養機能食品の基準を満たしており、マグネシウムの栄養機能表示(「マグネシウムは、多くの体内酵素の正常な働きとエネルギー産生を助けるとともに、血液循環を正常に保つのに必要な栄養素です。」)が付されている。

それでいて、この製品の宣伝文句は「妊娠時に必要な栄養素を配合。葉酸を含むマルチサプリメント」なのだ。まぎらわしいのではないか!?

●栄養機能食品の葉酸の上限値は

栄養機能食品の葉酸の基準値は、下限値72(旧基準では60)マイクログラム、上限値200マイクログラム。「葉酸は、赤血球の形成を助ける栄養素です。 葉酸は、胎児の正常な発育に寄与する栄養素です。」との栄養機能表示が認められている。

店頭で販売されている葉酸サプリをチェックすると、1日摂取目安量に含まれる葉酸の量は400マイクログラム程度のものが多かった。栄養機能食品の上限値を超えてしまうため、「栄養機能食品(葉酸)」と表示されているものは少ない。

葉酸はビタミンB群の一種で、妊娠を計画している女性、または妊娠の可能性がある女性では、胎児の神経管閉鎖障害のリスクの低減のために、食事でとる葉酸の量に加えて、さらに400マイクログラムを摂取することが望まれる栄養素だ。

付加的にとるとよい量が400マイクログラムなのに、栄養機能食品の上限値は200マイクログラムというのは合わないが、栄養機能食品を包含する「保健機能食品」制度の創設時に、栄養機能食品の上限値が「医薬部外品の最大分量を超えない値」として設定されたらしい。

 ●摂取時期は妊娠前から妊娠3か月

葉酸サプリについて気になるのは、神経管閉鎖障害の発症リスクの低減効果が期待できるのは、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までという、摂取時期についての情報が、十分行きわたっているように思えないことだ。

厚生労働省(当時は厚生省)の通知では、保健医療関係者を通じて、“当面、食品からの葉酸摂取に加えて、いわゆる栄養補助食品から1日400マイクログラムの葉酸を摂取すれば、神経管閉鎖障害の発症リスクが集団としてみた場合に低減することが期待できる”旨情報提供を行うとしている。

通知では、「ただし」として、栄養補助食品は過剰摂取につながりやすいことも踏まえ、高用量の葉酸摂取はビタミンB12欠乏の診断を困難にするので、医師の管理下にある場合を除き、葉酸摂取量は1日あたり1,000マイクログラムを超えるべきではないことを、必ずあわせて情報提供するとしている。

そして、留意事項として、摂取時期については、「多くの研究報告と諸外国の対応では、葉酸の摂取時期を少なくとも妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までとしている。」とある。

また、内閣府の食品安全委員会でも、葉酸サプリのリスク評価を先ごろ終えたばかりだ。

特定保健用食品として疾病リスク低減表示をする際の葉酸の安全性評価について、「基本的な考え方」が示されるとともに、1日摂取目安量が400マイクログラムの製品2種類について、「妊婦又は妊娠を考えている女性が一日摂取目安量を守り、摂取期間を妊娠3か月までに限るのであれば、安全性に問題はない」との判断となり、ここでも摂取時期の区切りが示された。

葉酸サプリ妊娠3か月を過ぎて以降は、栄養補助食品の葉酸サプリを利用しても、神経管閉鎖障害のリスク低減という意味合いはないのだが、ここがわかりにくい。

サプリメントのイラストでも、おなかがふくらんだ女性が描かれ、妊娠中期~後期向けの製品のようにも見える。

葉酸サプリについては、妊婦さん向けの商品が多いだけに、用量や利用時期について、よりていねいな説明が必要なのではないだろうか。

※サプリメント等に添加される葉酸は「プテロイルモノグルタミン酸」といい、通常の食事からとる葉酸(食事性葉酸)よりも、体内での利用効率が高い。妊娠を計画している、または妊娠の可能性がある女性が、通常の食事に加えて摂取するといいとされる葉酸の量(400マイクログラム)、「日本人の食事摂取基準」の葉酸の耐容上限量(20歳代900、30~60歳代1,000マイクログラム等)は、プテロイルモノグルタミン酸としての量。

*なお、葉酸については、国立健康・栄養研究所が多くの情報提供を行っている。同研究所では、妊娠中の葉酸摂取について、「まず食事の充実、次に葉酸を添加した栄養機能食品や加工食品等の利用、どうしても足りなければサプリメントという順番で」とアドバイスしている。

「国立健康・栄養研究所 妊娠中の食事とサプリメントについて」

(参考)

「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書

 

 

 

 

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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