科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

食品中の放射性物質の検査情報、しっかり伝わっている?

瀬古 博子

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昨年末、毎年行っている食の十大ニュース選びをやっていて、ふと思ったのだが、食品中の放射性物質の検査結果が、ニュースの中にあまり出てこない。
私が十大ニュースの一つに選んだ「19都県食事調査で、放射性物質2年連続検出せず(3月)」についても、取り上げたメディアは、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞などほんの数社で、しかも小さい記事にしかならなかった。ニュースとしての取り扱いが小さかったので、逆に印象強く心に残ってしまった。

●米の全袋検査は、昨年に引き続き、基準値超過なし

昨年末から今月にかけて、魚介類や米の放射性物質検査に関しては、いくつかニュースで取り上げられている。
例えば、米については、福島民報「全て基準下回る 28年産県産米 全量全袋検査 昨年末現在」(1/7)、魚介類については、産経新聞「セシウム基準超ゼロ 福島の魚介類、原発事故後初」(1/12)など。
ネットのニュースで見かけた方も多いかもしれない。報道された中身を見てみよう。

米のニュースは、福島県が行っている玄米の全量全袋検査の結果で、平成28年産については、検査点数10,092,995 点を検査し、基準値を超過するものは1点もなかった(1/16現在)。27年産も基準値超過はなかったので、2年連続になる。
スクリーニング検査では、10,092,945点検査し、99.99%以上に相当する10,092,534点が25Bq/kg(測定下限値)未満、25~50Bq/kgが404点(0.004%)、51~75Bq/kgが7点(0.0001%)、76~100Bq/kgのものは1点もなかった。詳細検査では、50点を検査し、すべて25Bq/kg未満だった(福島県ホームページ)

●福島県の海産魚介類は、震災後はじめて基準値超過なし

魚介類に関しては、福島県水産試験場によると、平成28年に採取した魚介類8,502検体のすべてが基準値を下回った。うち、8,080検体(95.0%)が、不検出だった。
年間をとおして、基準値を超過した検体が見られなかったのは、震災以降はじめてのことだ。
県では、魚介類の放射性セシウムの濃度が低減している理由として、体内から排出されること、世代交代が進んだことが挙げられるとしている(福島県水産試験場,1/12現在)。
(基準値(100Bq/kg)を超えた海産魚介類の検体数・割合と、不検出の検体数・割合)

原乳についても、検査が継続されている。平成28年4月~11月30日で、17都県で1,018点(うち福島県312点)検査し、すべて不検出だった(農水省ホームページ)。

●基準値超過が見られるのは、野生鳥獣肉や山菜など

米以外の農畜産物、福島沿岸以外の魚など、食品全体ではどうなっているだろうか。
厚生労働省が公表した平成28年度の検査結果(概略)(1/18現在)によると、全国で行われた食品検査の総数は259,782件。うち基準値超過は423件あるが、423件すべてが、野生鳥獣や山菜など「栽培/飼育管理を行っていないもの」だ。
検査結果は産地別に整理されており、福島県産品は検査件数が31,150件で、基準値超過は284件。うち野生鳥獣肉が274件(イノシシ肉249件、ツキノワグマ肉20件、ヤマドリ肉4件、ニホンジカ肉1件)。そのほかの10件は、山菜や淡水魚など。
宮城県産品は検査件数が22,880件で、基準値超過は55件。うち33件が山菜などで、21件がイノシシ肉など野生鳥獣肉だ。群馬県産品は検査件数が24,099件で基準値超過は24件。うち22件がニホンジカ肉など野生鳥獣肉。その他の県でも、基準値超過は野生鳥獣肉、山菜が主だ。

このように、通常の栽培管理ができる農産物などについては、基準値超過が見られなくなっているが、食品によっては産地を限定して出荷制限が引き続き行われている。対象は、主に、野生のきのこや山菜、野生鳥獣肉、ヤマメやウグイといった淡水魚などだ。海産物としては、福島県の海域で、シロメバルなど12種類の魚介類が出荷制限を受けている

●放射線が人体に与える影響、「知っているものは特にない」が33.4%

こうした検査結果は、時折ニュースとして報道されるが、どれだけしっかりと伝わっているのか。
ニュースを見る側も、関心が薄れてきている。年月がたつとともに、震災当時に学んで蓄積した放射性物質に関する知識も、忘れられてしまうのではないか。

消費者庁が平成25年以降に毎年行っている「風評被害に関する消費者意識の実態調査」では、放射線が人体に与える影響についての知識を問う質問で、「知っているものが特にない」が、第1回(平成25年)の18.5%から第8回(平成28年)では33.4%と倍近くなっている。また、食品中の放射性物質の検査についての質問でも、「検査が行われていることを知らない」が、同様に22.4%から34.8%と増加している。

セシウム137の半減期は約30年と長い。生産者の方々の努力の甲斐があって、通常の栽培管理された食品では基準値超過が見られなくなってきているが、除染で生じた廃棄物の処理や山菜・野生鳥獣肉の対策など、問題はたくさん残されている。松永さんが1月19日の記事で書かれたように、放射性物質の検査のあり方についても、検討が始められている。産地から離れているとしても、消費者側の責任として、関心を忘れてはいけないと感じる。

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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