科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

マスコミはなぜ伝えない 1万9000件超の検査結果

瀬古 博子

キーワード:

●「食品にベクレル表示をしてほしい」との声も

 厚生労働省は、9月11日までに1万9000件を超える検査結果を発表しています。多くの検査結果で、「ND」(Not Detected=検出限界値未満)の文字が並ぶようになっています。しかし、時折、基準値超過の食品が見つかるためなのか、それとも週刊誌で「○○から“放射線”が検出された!」といった記事が出るためなのか、あるいは基準値が“暫定”であるためなのか、今も根強い不安の声が聞かれます。なかには「食品をどう選んでよいのかわからない」、「食品にベクレル表示をしてほしい」という人もいます。

 実際には食品の検査は抜き取りで行われるので、一つ一つの食品が検査されるわけではありません。ですから、一つ一つの食品にベクレル表示というのは無理な話です。また、放射性物質というものがわかりにくく、不安も大きい現状では、数値だけを表示するようなやり方では、かえってミスリーディングになりかねません。

 では、どうすればよいか―。このような場合、消費者にできることは、公表された検査結果を見て、放射性物質の検出状況について大体の傾向を推測するということでしょう。せっかく1万9000件を超える検査結果が公表され、さらに毎日のように新たな検査結果が追加公表されているのですから、食品選択の判断材料として活用しない手はありません。しかも、この検査結果には産地が市町村まで書かれ、検査機関名や食品の採取・購入日、結果判明日なども明記されるのです。

●情報が消費者に行き着かない

 しかし、残念ながら、消費者の多くは、食品の安全を気にしながらも、こうしたデータを活用できずにいるようです。検査結果が公表されていること自体を知らなかったり、公表場所がわからないということもあるでしょう。また、検査結果は役所のホームページで公表されているので、インターネットを使えない場合は、情報を入手できなくなってしまいます。

 そこで、こうした情報をなぜメディアがもっと積極的に伝えないのか、と思うのです。NHKは、ニュースの時間帯に、天気情報などと同じように、東北・関東の放射線量を紹介しています。新聞では、大気中の線量を地図とともに示して掲載しています。食品の検査情報も同じように、毎日の情報として取り扱うことはできないのでしょうか。

 例えば、9月13日には、67件の検査結果が新規の情報として公表されています。検査対象の食品の産地は、北海道、岩手県、宮城県、群馬県、千葉県、山梨県、栃木県、茨城県、神奈川県、福島県、石川県、新潟県、山形県、埼玉県、静岡県で、多くの場合、さらに市・町・村まで細かく書き込まれています。食品の種類は、水産物(ワカサギ、ウグイなど)、米、牛肉、野菜(コマツナ、ユズなど)、鶏卵、果物(ブドウ、リンゴなど)、乳飲料、牛乳など、かなり広範囲におよびます。検査結果の値は、検出限界値未満であればND、検出されればベクレル数が示されています。基準値を超過したものについても書かれています。

 こうした情報をかいつまんで紹介することもできるでしょうし、場合によっては解説を付け加えることもできるでしょう。例えば、基準値を超過した食品については、出荷前の検査だから流通していないとか、流通しているものであればこの検査結果により出荷制限がかけられ、回収が行われることになるなどの説明も、読み手にとっては有用です。

 検査結果を見て、どのような品目が検査されているのか、またNDもあれば基準超過もあるといったこと、産地や食品の種類ごとのだいたいの傾向がわかれば、消費者にとっては有益な判断材料となります。

 もちろんテレビのニュースや新聞が、これまで食品の検査結果をまったく取り上げていなかったわけではありません。しかし、現在のところ、基準値を超過した食品だけがニュースになるという状況です。それでは、NDの食品があることや、基準値内での検出状況がどの程度のレベルなのかといったことがわかりません。こうした情報不足が消費者を惑わせる一因となっているのではないでしょうか。

 朝日新聞(9月14日)によれば、全国紙5紙の調査で、読者は「食料と放射能」に高い関心を示しているとのことです。情報の需要はあるのです。的確な情報さえあれば、消費者は納得のいくように食品を選ぶことができます。

厚生労働省発表の検査結果(9月13日分)

これまでの検査結果

朝日新聞「食料と放射能」に高い関心 全国紙5紙調査(9月14日朝刊)
(リンクが切れる可能性がありますが、ご容赦ください。)

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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