食情報、栄養疫学で読み解く!
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.
私の専門が栄養学だと知ると「毎日何を食べればいいですか?」「日々の食事でこだわっていることはありますか?」とおたずねくださる方は多いんです。
日々の食事をできるだけ健康的なものにしたい、と思っている人が多いんだろうな、と感じます。
でも、どういうものを食べたらよいのかわからない、というのが現状のようです。
実際のところ、具体的にアドバイスをするには、その人がどんな食事を普段から食べているのかを知り改善点を考える、食事アセスメントを実施する必要があります(連載第11回 「食べるをはかる」が健康への第一歩 参照)。
今の栄養素摂取状態を測定しないまま、○○を食べたほうがよい、などのアドバイスはできないんですよね。
とはいえ、食事アセスメントをして習慣的な食事を評価するのは、知識をもった専門家でなければできません。
専門家でも、正確に実施しようとすると、日常生活を送りながらは難しいだろうなと思います。
私だってそこまで毎日、栄養素摂取量を計算しながら、何を食べたらよいか、考えているわけではありません。
どちらかというと、料理にはそこまで時間をかけず、おいしくて健康的な食事を食べたいです。
そして、そこまで厳密に栄養素摂取量を計算しなくたって、わりと健康的な食事ができているだろう、という自信はあります。
その自信がどこから来るのか、それではどんなふうに日々の食事にこだわっているのか、持論も含まれますが、紹介してみたいと思います。
食事指導に関わったことがある人に「人はアドバイスしても一度にせいぜい1~3つくらいまでしか頭に入らない」と聞いたことがあります。
自分がアドバイスされる側になる場合でも、重要ポイントはできるだけ少ないほうがいいですよね。
本来、健康の維持・増進には、たくさんの栄養素が必要です。
食事のガイドラインである日本人の食事摂取基準(文献1)によると34の栄養素の基準値が示されています。
そんなことを言っても、一度にそんなにたくさんの栄養素のことを考えられません。
日々の食事のこだわりポイントもなるべく減らしたいので、3つにしています。
1. 味付けは薄め
栄養疫学を学んできて、食塩と高血圧には関連があり、そのエビデンスの蓄積量は他の食事と健康の関連よりもかなりしっかりしているな、という印象を持っています。
これは食事摂取基準(文献1)を読んでいても感じます。
そして、食塩摂取量を抑えて薄味にすることは、特に若い人や子どもたちにとって意味のあることなんです。
その理由は、連載第20回「若いときからの「節塩」で自分も社会も健康に」で解説しているとおりなんですが、食塩摂取量が多いと、その次の年の血圧の値がより高くなるんですよね。
そのために、血圧が上がってから減塩しても意味は乏しくて、血圧が上がる前の若い人ほど、できたら子どものころから塩は控えめの摂取を目指すべきなんです。
食塩は高血圧の原因だけでなくて、胃がんや腎臓病など、他の生活習慣病の要因にもなりますから(文献1)、摂取を抑えることによる健康効果は様々にあるだろうなと思います。
こういう理由から、家で作る食事は薄味を心がけるようにしています。
食塩に含まれるナトリウムは、加工食品などに含量を表示しなければならない栄養素のため、購入したものを食べるときには、そこに含まれる食塩相当量の記載があります。
難しい栄養素摂取量の計算をしなくても、パッケージを見ればその食品にどれだけ食塩が入っているかわかるので、便利だし、気にしやすいですよね。
私としては、1食で2 g程度に抑えたいな、と思うのですが、たとえば出来合いのお弁当などは、どれを買ってもそれ以上(中には2倍とか3倍とかの量が入っている!)ですし、おにぎり1つでもすでに1 gを超えていることが多いです。
手軽に買って済ませたいのに、食塩のことを考えて躊躇してしまうことも多々あるため、ぜひ外食・中食でもっと食塩含量の少ない食品を作っていただきたいな、と思います。
2. 野菜は多め
献立中の野菜を多くして、健康に悪影響が出ることはあまりないように感じています。
野菜と果物の摂取量が多いと死亡率が低下するといった研究もありますし(文献2)、野菜や果物には、健康維持に必要なビタミンやミネラル、そして生活習慣病の予防として積極的にとりたい食物繊維も含まれています(文献1, 3)。
通常、どんな食品や栄養素でも、食べれば食べるほど健康になれる、ということはなくて、適量とることが大事です。
そのため「食品〇〇をたくさん食べるほどよい」というアドバイスは普段はしないようにしています。
けれども、野菜をたくさん食べることは、控えておきたいお菓子やソフトドリンクの摂取を抑えられる可能性もありそうな気がしていて(胃袋の大きさには限度があるためです)、「なるべくたくさん食べる」というこだわりでもよいだろうと思っています。
3.日々色々な食品を
最後のこだわりは、できるだけ同じものを食べ続けるのではなく、色々な食品を食べる努力をしようということです。
先ほど説明したように、健康のためにはたくさんの栄養素が必要なんですよね。
それを日々満たそうと思うと大変です。
そして、それができているか、日常の中で確認したくても不可能です。
それでも、食品が違えば含まれる栄養素が違いますし、ひとつの食品には様々な栄養素が含まれています(文献3)。
そして、同じ食品だけを食べるよりは、できるだけ昨日は食べていない食品を食べるほうが食べる食品の種類が増えます。
その結果、摂取する栄養素のバリエーションも増えると考えられますし、そういった研究結果もあります(文献4)。
つまり、色々な食品を食べることが、必要な各種栄養素を十分摂取できる可能性を高める方法だと思うんです。
こんなこだわりポイントを持って食事を続けていた中で、数回ほど、自分の食事を食事アセスメントで評価したことがあります。
自分たちの研究で使っていた食事質問票(文献5, 6)で栄養素摂取量を調べて、食事摂取基準の基準値と比べたところ、健康のリスクが高くて摂取状況を急いで改善するべき栄養素は特にありませんでした。
そんな確認作業のおかげで、こういう食事を続けていれば健康上の大きな問題はなさそうだな、という自信につながっています。
現在の私は子育て中で、家族の食事のことも考えないといけません。
子どもの食事だからといって、こだわるポイントは同じです。
ただ、子どもの場合、こちらが提供しても食べてくれない、ということは多々あります。
特に野菜、我が家はそこまで偏食の程度は大きくないのですが、それでもよそったものを全部食べてくれることはあまりなくて、野菜はよく残しますね。
野菜を食べないときには、それなら果物でいいや、と考えています。
果物には野菜と同じようにビタミンやミネラルが含まれていますからね(文献3)。
それに、海外では、Fruits&Vegetablesといって、「果物と野菜」ってひとくくりにして考えることが多いそうです。
しかも「果物」が先にきていますし、健康効果も「果物と野菜」の合計量で検討されることが多くあります。
そんな記述を恩師の著著(文献7)で読んでから「野菜を食べなければ果物でいいじゃない」と思うようになりました。
こだわり2の「野菜多め」は、子ども用にアレンジするなら「果物または野菜はできるだけ多め」になるかなと思っています。
ただ、果物は野菜に比べて高価なため、家計には痛手ですね…。
そんなわけで我が家の食事は、1. 薄味、2. 野菜多め、3. なるべく昨日使わなかった食品を加えて、をこだわりポイントにして毎日準備しています。
そうやってこだわりながら食事を作っても、子どもたちは食べないときは食べないです。
それでも「健康的な食事ってこんな食事だよ」というメッセージを日々目で見せて与えるために、食べなくても盛り付けて提供するところまでは必ずやっています。
それもひとつのこだわりでしょうか。
ひとまず、栄養学者の私だからって「この栄養素何グラム食べなくっちゃ!食べさせなくっちゃ!!」と白目をむきながら食べさせることはしていない、ということが伝わって、多くの人が救われたらいいなと思います。
参考文献:
1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2025年版案. 2024.
2. Wang X, et al. BMJ 2014; 349: g4490.
3. 文部科学省. 日本標準食品成分表(八訂). 2020.
4. Azadbakht L, et al. Eur J Clin Nutr 2005; 59: 1233-40.
5. Kobayashi S, et al. Public Health Nutr 2011; 14: 1200-11.
6. Kobayashi S, et al. J Epidemiol 2012; 22: 151-9.
7. 佐々木敏. データ栄養学のすすめ. 女子栄養大学出版部. 2018.
※食情報や栄養疫学に関してヘルスM&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。ぜひご覧ください。
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.
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