科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

目に関わるビタミンA、骨に関わるビタミンD:これでわかった!食事摂取基準16

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、信頼できる食情報のエビデンスとして活用できる「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」を連載でご紹介しています。

今回は脂溶性ビタミンの説明に入ります。

●毎日食べなくても大丈夫

食事摂取基準の指標が定められている脂溶性ビタミンには、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKの4種類があります。

これらの栄養素は、一部の限られた食品に含まれていることが多いため、ほとんど摂取しない日もあれば、大量に摂取することもあるという、摂取量の日間変動が大きいという特徴を持っています。
(脂溶性ビタミンの日間変動が他の栄養素よりも大きい様子は、「食事調査法の理解が必須:これでわかった!食事摂取基準8」の図3に示されている、ビタミンDの日間変動が参考になります。)

また、脂溶性というだけあって、水には溶けにくく、油や有機溶媒に溶けやすい栄養素です。
必要以上に摂取した場合には、体の組織に蓄積しやすく、排泄されにくいという特徴も持っています。
このような特徴から、摂取しない日がしばらく続いたとしても、体内に蓄えられた栄養素を活用することで健康上の問題は生じないため、たまに摂取すれば十分なのです。
そういうわけで、他の栄養素と同じように1日当たりの摂取量で指標は定められていますが、他の栄養素に比べると比較的長期的な視点で必要量を考える必要があります。

一方で、簡単には排泄されにくいということは、大量に摂取すると過剰症を引き起こしやすいということにもなります。
また、ビタミンDに関しては、紫外線を浴びることによって体内で合成できるという、他の栄養素にはない特徴もあります。

これらの特徴があることを知ったうえで、各栄養素の指標がどのように定められたかを見ていきましょう。

●目の健康維持に必要なビタミンA

ビタミンAは、目の細胞の働きに重要な役割を持つ栄養素です。体内でビタミンAとして働いている化合物には、レチノール、レチナール、レチノイン酸といった、構造が少しずつ異なる化合物が含まれています。
そして、それらの化合物とは異なる構造であるものの、摂取すると体内で分解されてビタミンAとして働くようになるカロテンなどの栄養素も、ビタミンAの一種として位置づけられています。

このように、ビタミンAには色々な化合物が含まれるため、食事摂取基準の指標の値は、主なビタミンAのひとつであるレチノールに換算するといくらになるかを示した、「レチノール活性当量( μgRAE)」という単位で示されています。

ビタミンAが欠乏すると、夜盲症や失明などが生じる可能性があります。
そのため、不足のリスクを回避するための指標が定められることになりました。
ビタミンAは肝臓に蓄えられており、肝臓内ビタミンAが20 μg/g 以下になるまでは、血中ビタミンA濃度が低下しないことが、研究から明らかになっています。
そこでビタミンAの必要量は、この「肝臓内ビタミンA量を維持できる摂取量」とすることになりました。
維持するためには日々体外に排泄される量を補えばよく、その量が体内貯蔵量の2%であることも研究から分かっています。
また、研究結果からは、体重が1 kg増加すると肝臓がどのくらい増加するのか、ビタミンAが肝臓と他の体内の組織にどのくらいの割合で存在しているのか、なども分かっています。

そのような細かい値を使って計算することで、成人では体重1 kg 当たり1日のビタミンA 体外排泄量は9.3 μg/kg 体重/日であると算出され、この値と各性・年齢区分の参照体重を用いて、推定平均必要量と推奨量が定められています。
一方、小児は成長により必要となる量、妊婦は胎児の成長に必要な量、授乳婦は母乳中に分泌される量も考慮して定められています。
1歳未満の乳児では、必要量を定めるために参考となる研究結果が存在しないため、推定平均必要量と推奨量は設定されていません。
代わりに、現在摂取されている量が不足していない量であると推測して、母乳中の濃度や哺乳量から算出された摂取量の結果を用いて、目安量が定められています。

●摂りすぎは肝臓に障害

次に過剰摂取のリスクを避けるための指標を見ていきます。
ビタミンAの過剰症が現れたと報告されているのは、レチノールを多く含む食品のひとつであるレバーを大量に食べたときや、サプリメントを摂取したときなどで、通常の食事の範囲ではあまり考えられません。
症状としては、肝臓障害が起こる可能性があります。
この発症を避けるための耐容上限量が定められることになりました。

過去に成人で、ビタミンAを13,500 μgRAE/日摂取すると肝臓障害が生じたという報告があります。
その量の5分の1未満の量であれば健康障害は発症しないだろうということで、成人の耐容上限量は2,700 μgRAE/日と定められています。
小児は、成人の値と各性・年齢区分の参照体重を使って定められています。
乳児では、ビタミンAの摂取量が6,000 μgRAE/日のときに頭蓋内圧亢進が生じたという別の症例報告を参考にして、その10分の1の摂取量であれば問題は生じないだろうということで、耐容上限量は600 μgRAE/日と定められています。

ビタミンAの摂取による生活習慣病の予防効果に関しては研究報告がないため、目標量は定められていません。

以上のようなことから、各性・年齢区分のビタミンA推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量は、表1のように定められています。

表1. ビタミンAの食事摂取基準( μgRAE/日)(文献1 1-6 P.205):ビタミンAには様々な化合物が含まれるため、主な化合物であるレチノールに換算するといくらになるかというレチノール活性当量で、推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量の値が示されています。

●骨の健康維持に必要なビタミンD

ビタミンDは、体の中でカルシウムやリンの吸収を助ける働きをする栄養素です。
ビタミンDを体に供給するための方法は2とおりあって、ひとつは他の栄養素と同じように食品から供給されます。
もうひとつは、体のなかのコレステロールの一種を材料にして、紫外線を浴びることによって合成されます。
この体内合成があることから、必要量を定めるのがとても難しい栄養素です。

ビタミンDの摂取が不足すると、カルシウムやリンを体内に吸収しにくくなり、小児ではくる病、成人では骨軟化症といった、骨の病気の発症リスクが高まります。
そこで、摂取不足を避けるための指標が定められることになりました。
体の中のビタミンD栄養状態を知るには、血中の25-ヒドロキシビタミンDという、ビタミンDが代謝された物質を測定する方法が使われます。
日本人を対象とした研究で、この血中25-ヒドロキシビタミンDの濃度20 ng/mL以上である場合、骨折の発生を低下させる可能性が示されています。
そこで、この濃度を保つのに必要なビタミンD摂取量を調べて、推定平均必要量や推奨量を定めたいところでした。
けれども、ビタミンDの摂取量がどの程度のときに、血中25-ヒドロキシビタミンDが20 ng/mLとなるのか、日本人を対象にして調べた研究結果はありません。

一方で、アメリカ・カナダの食事摂取基準では、摂取量と血中25-ヒドロキシビタミンD濃度を同時に調べた欧米の研究結果などを用いて、ビタミンDの推奨量を70歳以下で15 μg/日と定めています。
とはいってもこの量は、日照によるビタミンDの生成が考慮されていません。
日本の場合、カナダなどと比べると日照量が強く、日照からのビタミンD産生が比較的多いと考えられることから、日照を考慮して指標を作成しておきたいところです。
日本人で日照によりビタミンDがどの程度生成されるのかを調べた研究はまだごくわずかですが、その結果から、日照時間や日差しの強さによってビタミンD産生量にとても大きな違いが生じるものの、冬の札幌のようなあまり日差しが強くない時期と場所でも、日常生活の中で1日に平均5 μg程度のビタミンDは産生されると考えられました。

このような状況を踏まえると、1日に必要なビタミンD摂取量は15 μgから日照により産生される5 μgを引いた、だいたい10 μgだと考えられます。
このことを念頭においたうえで、推定平均量や推奨量を定める根拠となる研究結果はないため、目安量を定めることになりました。

現在の日本人の摂取量で摂取不足となっているという報告はないため、現在の日本人の摂取量を調べた調査結果を参照して、その中央値を目安量とすることにしました。
そのような場合に食事摂取基準でよく参照される調査結果は、国が毎年調査している国民健康・栄養調査の結果です。
この調査は毎年11月のある1日の食事を調べており、その結果によると、日本人のビタミンD摂取量の中央値は3~5 μg/日となっています(表2)。

一方で、全国4地域の食事摂取量を調べた別の研究結果もあり、それでは6~11 μg/日と示されていて、値がかなり違っています(表2)。

表2. 調査期間及び調査方法が異なる二つの調査における成人ビタミンD摂取量(中央値)(文献1 1-6 表2):全国4地域における調査は、1年のうち4季節ごとに4日間の合計16日間の食事記録調査を実施した結果です。国民健康・栄養調査は、秋のある1日間に食事記録調査を実施した結果です。2調査でビタミンD摂取量の中央値は大きく異なっており、その理由は調査日数、調査時期などが考えられますが、はっきりとはわかっていません。

その理由には、調査日数や調査時期などの違いが考えられますが、詳しいことはわかっていません。
どちらが実態に近いのか、判断するのは難しいところですが、1年のうち4季節4日間の食事記録調査を実施した調査のほうが日間変動の大きいビタミンDの摂取量をうまくとらえられているだろうということ、そしてビタミンDの目安量としてはだいたい10 μg/日くらいがよさそうと考えられていることを考慮して、全国4地域の研究結果を活用して目安量を定めることになりました。
具体的には、この研究で得られた摂取量中央値を平均した8.3 μg/日を丸め処理して、成人で8.5 μg/日としています。

高齢者では骨折の危険が高まることから、成人と同じ目安量で問題ないかを検討する必要がありました。
けれども、高齢者で適度に日光を浴びている人の血中25-ヒドロキシビタミンDの濃度や、その人たちのビタミンD摂取量を検討した研究結果がありません。
そのため高齢者も、適度に日光を浴びることを推奨しながら、成人と同様の目安量とすることになりました。
小児は、成人の値を参考に、成長因子を考慮して目安量を定めました。
乳児では、くる病が発生しなかったビタミンD摂取量を調べた研究結果に基づいて、5 μg/日と定められました。

●摂りすぎは高カルシウム血症に

次に過剰症のリスクを考えます。
日照によりビタミンDが産生されるものの、これは体内で調整されており、必要以上には産生されません。
一方で、サプリメントなどでビタミンDを過剰に摂取した場合には、高カルシウム血症などを生じることがあります。

いくつかの研究結果から、250 μg/日未満の摂取では高カルシウム血症は生じないと考えられるため、その値を2.5で割った摂取量であれば問題なさそうだと判断し、成人の耐容上限量は100 μg/日と定められました。
高齢者も、成人と同様の値としています。
乳児では、多量のビタミンD摂取によって成長遅延が生じる可能性があります。
それを調べた研究によると、44 μg/日の摂取では成長遅延は現れなかったという結果が示されています。
その結果から、それより少ない25 μg/日であれば過剰症のリスクはないと考えて、この値が耐容上限量として定められました。
小児は参考となる研究結果が存在しないため、成人の値と乳児の値をもとに、各性・年齢区分の参照体重を使って計算して、耐容上限量を求めています。

●いずれにしても日光浴を

ビタミンDの摂取量が生活習慣病の予防になるという研究結果は存在するものの、まだ十分とは言えないことから、目標量は定められていません。
一方で、ビタミンDが筋力維持に役立つ可能性が考えられるようになってきています。
それがフレイル予防につながるのではないかとも考えられ始めていますが、まだ十分な研究結果がないことから、フレイル予防を目的とした摂取量は定められませんでした。

いずれにしても、どのような年齢や健康状態であっても、体の中で十分な量のビタミンDが機能するためには、ビタミンDを摂取することに加えて、適度な日照が必要です。

そのことをお知らせするために、ビタミンDの食事摂取基準の表には、目安量、耐容上限量の値とともに、適度な日光浴を心掛けるようにとの注釈が書かれています(表3)。

表3. ビタミンDの食事摂取基準(μg/日)(文献1 1-6 P.206):ビタミンDは日光を浴びることで体内で合成されます。摂取するだけではなく、適度な日光浴が必要なことが注釈に書かれています。推定平均必要量や推奨量、そして目標量を決めるための研究結果は不足しているためそれらの指標は定められませんでした。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.

※食情報や栄養疫学に関してHERS M&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、通信講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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