科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表としてフリーランスで栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

あれもこれも炭水化物に含まれる:これでわかった!食事摂取基準15

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、信頼できる食情報のエビデンスとして活用できる「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」を連載でご紹介しています。

たんぱく質と脂質に続くのは、同じくエネルギー産生栄養素のひとつとして扱われている、炭水化物です。

●エネルギー産生をする炭水化物としない炭水化物

炭水化物とは、糖で構成される化合物の総称です。
構成されている糖の数やつながり方によって分類され、種類によって栄養学的な意味が全く異なります(図1)。

図1. 炭水化物とその構成:炭水化物は糖で構成されている物質の総称です。使われている糖の個数やエネルギーを産生するかといった特徴によって、おおむねこのように分類されます。点線で囲んだ3項目が、食事摂取基準を定めるべきとされている栄養素です。

まずは大きく2つにわけることができます。
ひとつは、ヒトの消化酵素で消化でき、エネルギーを産生することができる、糖質です。栄養学的には、エネルギー源として重要です。

もうひとつは、ヒトの消化酵素では消化できず、エネルギー源とはならない、食物繊維です。数多くの生活習慣病の発症と負の関連が示されている栄養素です。

炭水化物はエネルギー産生栄養素として扱われますが、食物繊維は炭水化物の一種であるにもかかわらず、エネルギーを産生することができません。
けれども、糖で構成されているという炭水化物の定義を満たしているので、炭水化物に分類されています。

糖質に関しては、構成している糖の数によってさらに3つに分類することもできます。
1つめは、糖が1~2個でできている、糖類です。調理で使われる砂糖(スクロース)はここに含まれます。

2つめは、糖が3~9個でできている、オリゴ糖です。加工食品などに使われることがあります。

3つめは、糖が10個以上でできている、多糖類です。でんぷんとも呼ばれ、穀類やいもなどの食品に多く含まれています。

ちなみに食物繊維は、多くの場合、糖が10個以上でできているため、非でんぷん性多糖類とも言えます。

●どの炭水化物の指標を定めるか?

糖質にはエネルギーを産生するという特徴があります。
そして、たんぱく質や脂質の項で説明したように、エネルギー産生栄養素のうちのどの栄養素からエネルギーを摂取しているのかという比(バランス)は、生活習慣病の発症との関連から大切なことです。

そこで、糖質からのエネルギー摂取量をどの程度にすべきか、という観点で、食事摂取基準の指標を定めることになりました。

ところで、食物繊維はエネルギーを産生しない栄養素です。
そして、炭水化物全体の摂取量から見ると、食物繊維は糖質に比べて摂取量がとても少ないという特徴もあります。
そういうわけで、糖質からのエネルギー摂取量を考えることは、炭水化物からのエネルギー摂取量を考えることとほぼ同じことになります。

そのため食事摂取基準では、糖質という細分類された栄養素に対してではなく、炭水化物全体での、エネルギー摂取割合に関する指標を定めることになりました。

また、炭水化物の中でも、糖類は肥満や齲歯の原因となることから摂りすぎに注意が必要ですし、食物繊維は生活習慣病の予防となるため積極的に摂取しておきたい栄養素です。そこで、これらの栄養素も指標を定めることになりました。

このような背景から、炭水化物の項では、図1の点線で囲まれた3つの項目に関して指標を定めることになっています。

それでは、これら3つの栄養素に関して、どのように指標が定められているかを見ていきましょう。

●炭水化物は残りものとして考える

炭水化物はエネルギー源として、不足を避けたい栄養素ではありますが、ヒトの体内ではエネルギー源としての糖が不足すると、代わりに筋肉や脂肪組織を分解してエネルギーを産生させるという現象が起こります。

そのため、炭水化物としての必要量を定めることはできず、摂取不足を回避するための指標も定められていません。
また、炭水化物が直接的に疾患の原因となることを示すような研究結果もないため、耐容上限量も定められていません。

一方で、炭水化物からのエネルギー摂取割合は、たんぱく質や脂質のエネルギー摂取割合に影響を与えますし、これらの比は生活習慣病との関連から重要なことです。
その観点で、目標量として、エネルギー摂取割合の範囲(%エネルギー)を定めることになりました。

決め方の方針ですが、炭水化物の目標量は、たんぱく質と脂質の目標量を優先して決め、その残りである、という考え方で指標が定められています。

たんぱく質と脂質の残りということで、炭水化物の目標量には、エネルギー産生栄養素のひとつであるアルコールからのエネルギー摂取割合も含んだうえでの量ということになります。

ただし、アルコールの摂取を積極的に勧めているわけではありませんのでご注意ください。

さて、目標量を具体的にどう決めたかというと、上限値は、たんぱく質が下限値の13%または15%エネルギーで、脂質が下限値の20%エネルギーとなったときに、足して100%となるための残りの%エネルギーです。
これを計算すると65%または67%エネルギーとなります。

ところで、炭水化物の多い食事というのは、食事内容に配慮しないと、精製度の低い穀類や、甘味料、酒類の過剰摂取につながりやすいです。
そのため、目標量の上限値は高めよりは低めに設定したほうが好ましいということで、65%と設定されました。

一方、目標量の下限値は、たんぱく質の上限値20%エネルギーと脂質の上限値30%エネルギーを用いて、残りの50%エネルギーと定められました。

1歳以上の人すべてで、同じ値に定められています(表1)。

表1. 炭水化物の食事摂取基準(% エネルギー)(文献1 1-4 P.164):炭水化物の指標は、たんぱく質と脂質の残余という考え方で定められています。ここにはアルコールを含むことが、注釈で説明されています。

●糖類はわからないことだらけ

次に糖類の指標です。

糖類は単糖類や二糖類のことを指し、調理・食品加工の際に甘味として加えられる砂糖やシロップなどに含まれます。
糖類の過剰摂取は、齲歯や肥満の原因となるとの研究結果が知られていて、WHOでは食品加工や調理中に加えられる糖類を、総エネルギーの10%未満にすること、できれば5%未満にすることを推奨しています。

そこで、日本人の摂取量がどの程度なのかを把握しておきたいところですが、日本で使われている、食品中の栄養素含量が示されている「日本食品標準成分表」に糖の成分値が載るようになったのは最近のことです。

そして今でも、すべての食品中の糖の値は掲載されておらず、今後測定されるのを待たなければならない食品も多くあります。
そのため、日本人が糖をどの程度摂取しているのかを調べた研究結果はほとんどありません。

摂取量が調べられなければ、当然、日本人を対象にして糖の摂取をどの程度にすればよいかを検討した研究もありません。
もし指標が定められたとしても、それを達成できているかどうか、摂取量を調べる方法もありません。

というわけで、本来であれば生活習慣病の関連から過剰摂取を防ぐための目標量を定めたいところでしたが、定めることができませんでした。

健康増進法で食事摂取基準を定めることとされている栄養素のうち、この糖類とコレステロールに関しては指標が定められておらず、糖類は今後指標を定めたい栄養素として挙げられます。

●食物繊維は実現可能性を考慮

食物繊維は、ヒトの消化酵素では分解できない栄養素で、未精製の穀類や、野菜、果物などに含まれています。不足による欠乏症などは見られず、摂りすぎによる健康上のリスクに関する報告もないことから、不足や過剰のリスクを回避するための指標は定められていません。

一方で、数多くの疫学研究で、生活習慣病と負の関連を示していることから、積極的に摂取したい栄養素であり、目標量を定めることになりました。

ところが、研究結果からは閾値が見られず、どの程度摂取すれば十分なのかが明らかになっていません。このような特徴により、海外でも閾値に基づいた基準値は定められていません。

たとえばアメリカ・カナダの食事摂取基準では、生活習慣病との関連を検討したたくさんの研究結果を集めて、最も大きな予防効果が見られたときの対象者の摂取量を参考にして、14 g/1000 kcalという摂取量を基準に用いています。

そこで、日本の食事摂取基準もその値を参考にすることとしました。
この量を1日あたりの摂取量に換算して目標量を作成すると、おおよそ24 g/日以上となります。

ところが、日本人成人(18歳以上)の食物繊維摂取量は、この値と比べるとかなり少なく、調査結果の中央値は13.7 g/日です。もし24 g/日以上という値を目標量に設定しても、多くの日本人は目標量を達成することができなさそうです。

そこで、もう少し目標量を低めに設定することとなり、計算方法が決められました。
具体的には、上述した13.7 g/日と24 g/日の中間値である18.9 g/日を参照値として使いました。

この値と各性・年齢区分ごとの参照体重を使って、目標量が定められています(表2)。

表2. 食物繊維の食事摂取基準(g/日)(文献1 1-4 P.165):食物繊維は生活習慣病との関連から積極的に摂取したい栄養素ですが、どの程度摂取すれば十分なのかという閾値がよく分かっておらず、指標を定めるのがとても難しいです。

小児でも同じ計算方法で指標が定められていますが、摂取量調査結果の中央値のほうが計算値よりも大きい場合は、調査結果の中央値を用いています。

●エネルギー産生栄養素まとめ

今回までの3回分で、エネルギー産生栄養素であるたんぱく質、脂質、炭水化物の食事摂取基準の指標をそれぞれ説明しました。

これら3つの栄養素の目標量は%エネルギーという単位で示されていて、たとえばたんぱく質と脂質の割合が増えれば炭水化物の割合は減るという具合に、この摂取割合(バランス)はお互い常に影響を与え合っています。

そのような関係性が栄養素ごとに見てしまうと少し見えにくいことから、食事摂取基準では炭水化物の項の次に、「エネルギー産生栄養素バランス」という項で改めて、たんぱく質、脂質、炭水化物のバランスに関してまとめて触れられています。

記述している内容は各栄養素の項で説明したことの復習になります。

ここまでで、エネルギー産生栄養素の食事摂取基準の紹介が終わりました。次回以降はビタミンやミネラルといった、微量栄養素と呼ばれる栄養素に進みます。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html


※食情報や栄養疫学に関してHERS M&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、通信講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表としてフリーランスで栄養疫学研究の支援を行う.

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