九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
同検討会はこれまで第1~6回までの前半の議論で、中間論点整理がまとめられ4月4日までパブコメ募集、3月23日には意見交換会が行われたところである。今回ははじめに、その内容について事務局から説明があり、そのうえで事務局が作成した「論点についての検討方向(たたき台)」をもとに議論が進められた。
中間論点整理についての意見募集結果の概要
中間論定整理に関する意見交換会の概要
論点についての検討方向(たたき台)
○意見募集結果及び意見交換会の概要について
意見募集結果の概要については、委員から「意見募集結果の数字の取り扱いが100件を超えるものは100件超となっており、それ以下は一桁までの数値が書いてあるのはおかしい」という意見が出た。事務局からは「意見募集で寄せられた数、多数決で決めるわけではない。自由筆記の様々な意見には分類が不正確なものがあるためこのような取り扱いとした」とする説明があり、出てきた意見を多数決で判断しないことが確認された。また、アンケート調査や農林水産省の説明会の意見なども総合的に参考にすべき、監視・執行の実務についている担当者の問題意識を把握すべきなどという意見もあったが、今回は間口を広げず、たたき台の議論を先に進めるべきとして、本論に入った。
○たたき台について 論点1「食品表示の目的」について
まずは、たたき台の論点1「食品表示の目的について」意見が交わされた。事務局の説明では、中間論点整理で出てきた考え方1-1(食品衛生法、JAS法、健康増進法のそれぞれの目的を並列する)と、考え方1-3(消費者基本法の理念が図られること)の二つの折衷案として、たたき台として「食品表示の目的については、消費者基本法に示された消費者の権利を踏まえつつ、食品の安全性に関わる情報が消費者に確実に伝えられることを最優先とし、また、品質などの消費者の選択に資するために重要な情報の提供としてはどうか」とする案が示された。
この中の「食品の安全性に関する情報を最優先」については、委員から「食品の安全性にかかわるものは定義可能か?食品添加物や遺伝子組換え食品表示は安全性が確認されたものだけ使われているので安全性情報ではない。一つひとつの表示項目についてレビューをして、それから目的は何かを明確にするほうが先ではないか」「アレルギー表示や期限表示は短期的な安全性、栄養表示は長期的な安全性といえる」などの意見が出たが、事務局は「この表示項目は安全性、この表示項目は消費者の商品選択と一対一対応をする必要はない」と回答した。また、新法が出来た後「食品衛生法の19条1項2項(食品表示)は残るのか消えるのか。」との質問に対して、事務局は、19条は消えるという解釈を示した。
また、他の委員は「前回の事務局の説明では消費者の権利は上位概念であるため、食品表示法の目的に入らないということだったが、なぜここで入るのか」という質問が出たが、「たたき台の文章は報告書のもとになるもので、法律の条文とは別のものである」という説明だった。このように、事務局と委員の意見はなかなかかみ合わなかった。
○論点2「食品表示の考え方1-表示事項」について
ここでは「重要な情報が確実に伝わるように、優先順位をつけて検討を行うことが適当」とたたき台では記されている。これについて委員からは「現行の項目を増やすにしても減らすにしても、まずは現行表示のレビューが先」「表示事項については少なくとも現状を守る」といった意見が出された。「遺伝子組換え食品の表示等についても考え方を整理することが必要ではないか」とたたき台で示されていることについては、「遺伝子組換え食品表示についてこの検討会では議論していないので、ここで取り上げるのはふさわしくない」とする意見が多かった。
○論点2「食品表示の考え方2-わかりやすくする取り組み」について
たたき台で「可視性の向上を図るため以下について検討すべきではないか」の一例として「食品添加物の識別番号(EUなどで実施されている)を代替表記として認めること」が示された。これについて「相当難しい、既存添加物には国際的な番号がないし、EUのようにたくさんの言語で表示しなければならない状況と日本の状況とは異なる」「添加物名よりわかりにくくなるのではないか」といった意見が相次いだが、事務局は「字を大きくすることは重要でそのためにできることはないかということを言いたかった」と説明した。また、事務局は「容器包装上の商品名などの文字の最大ポイントに応じて、義務表示にかかる最低ポイントも連動させて大きくさせる制度を導入してはどうか」という案をたたき台に示したが、これも「そういうことは法律上で細かく決めるべきではない」とする委員の反論があった。「高齢化社会では文字サイズが8ポイントは小さい。パッケージの表示可能範囲との関係もあるのではないか」という意見も示された。
○論点3「食品表示の適用範囲」について
たたき台で「外食や量り売りでは、容器包装食品と同様に情報提供を行うことは困難であるが、アレルギー表示に係る情報提供が可能となるよう、義務付けを行うことや自主的な取り組みを推奨することについて検討してはどうか」という案が示された。委員からは「アレルギー表示の対象範囲を増やすという点については、アレルギーの専門家の委員会をつくって別途議論するべき。またネットやカタログの販売についても、自販機についてもきちんと調べたうえで議論しないと、今の段階では議論はまとまらないのではないか」という意見になった。
論点4と論点5は時間が足りず、結局、次回に持ち越されることになった。
(感想)
事務局の中間論点整理の意見の件数の提示法や、たたき台のまとめ方に問題があるように感じたのは私だけであろうか。たとえば、どの章で書くべき内容か、十分整理ができていないまま文節がつなげられていて、位置づけも委員にきちんと伝わらず、そのせいで議論が空回りする感じを受けた。しかも、たたき台には、表示を大きくわかりやすくするためとはいえ、今まで検討会で取り上げられたこともない食品添加物の番号制や文字サイズの連動制などの提案が加わったり、各論として議論が出来なかった遺伝子組み換え表示の提案が突然入ってきたので、委員から反発が出てもしかたがないと思った。
また、わかりやすくするために表示の優先順位をつけようということが示されたが、現行の表示項目を減らすことにつながってしまうのかどうかもあいまいなままだ。表示項目ごとにレビューすれば、現実を突きつけられ、反論も出来ないが、根拠ないままの抽象論の下では、それぞれの背景を背負っている委員は意見を変えることは出来ないだろうし、結局は堂々巡りのままだろう。これからも検討会は消費者と企業のどちらの意見も優先したように見えるような、玉虫色の折衷案を出すべく進んでいくのであろうか。(食品アナリスト・板倉ゆか子)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。