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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

現在パブコメ中 健康食品広告の留意事項の改正ポイント(消費者庁ヘルスケア表示指導室長・田中 誠さんに聞く)

森田 満樹

消費者庁は2022年8月9日、「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」一部改定(案)のパブコメを開始しました。

「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」冊子版

消費者庁の「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」は2013年に制定されて以来、健食広告規制のガイドラインとして健食事業者必携の冊子となっています。どのような広告が法に抵触するのかが明確にされており、図やイラスト等が多用され、わかりやすくまとめられています。

第1章から第4章の主な改正ポイントについて、表示対策課ヘルスケア表示指導室の田中 誠室長に、新旧対照表(案)に沿ってお聞きしました。

●明らか食品も対象であることを明示

【新旧対照表(案)1P (第2章 1 健康食品 (1)健康食品)】
健康食品の定義について、「錠剤やカプセル形状の食品のみならず、野菜、果物、調理品等その外観、形状等から明らかに一般食品と認識されるものを含め」が追加された。また一部改正(案)4Pの注釈3も「当然ながら明らかに食品と認識される物に関して虚偽誇大な表示をするときは、景品表示法及び健康増進法の規制の対象となる」が追加された。

(解説)
薬機法で「明らか食品」とされているものも、広告規制の対象となることを明示した。これまでもそう言ってきており、新しい解釈が加わったものではない。説明会などの質問で、「野菜や果物は明らか食品なので、広告規制の対象にならない」「『ピーマンでがん予防』は違反にならない」と誤解している方が一定数いるので、きちんと書き込んだ。

●事例に「コロナウイルスの予防」「認知症予防」「腸活」等を追加

【新旧対照表2P (第2章 2 健康保持増進効果等(1)「健康保持増進の効果」】
これまでの事例に「コロナウイルスの予防に」「認知症予防」「新陳代謝を盛んにする」「自然免疫力を高める」「歩行能力改善」等が追加された。
【新旧対照表3P (第2章 2 健康保持増進効果等 (3)「健康保持増進の効果等を暗示的又は間接的に表現するもの」】
「ア 名称又はキャッチフレーズにより表示するもの」の事例に、「妊活」「腸活」「スリム〇〇」「減脂○○」「デトックス〇〇」等が追加された。

(解説)
これらの用語を使っても直ちに違反というわけではないが、違反になりやすそうなものを例示した。今回第5章で追加した措置命令の例示や、これまでの改善指導などの用語を分類して盛り込んだ。

●「こんなお悩みありませんか?」の表示について新規に追加

【新旧対照表3〜4P (第2章 2 健康保持増進効果等 (3)「健康保持増進の効果等を暗示的又は間接的に表現するもの」】
この項に、「エ 身体の組織機能等に係る不安や悩みなどの問題事項を例示して表示するもの 例:「こんなお悩みありませんか?疲れが取れない。健康診断で○○の指摘を受けた。運動や食事制限が苦手。いつもリバウンドしてしまう。メタボが気になる。」等が新たに追加された。
【新旧対照表14p (第4章 景品表示法及び健康増進法上問題となる表示例 2 ⑴ 解消に至らない身体の組織機能等に係る不安や悩みなどの問題事項等の例示)】
問題となる表示例に(1)の項が新規に追加され、不安や悩みの問題事項の例示に関する考え方が示された。

(解説)
健康食品は特定の効果が言えないので、最初に「こんなお悩みありませんか?」として悩みの列挙をするのが多い。この部分は、こうした悩みが解消されることを暗示的にいうことが、まずは表示として認定されることを、まずは第2章で明確にした。
そして、第4章で、いわゆる健康食品において問題になる表示例として「解消に至らない身体の組織維持等に係る不安や悩みなどの問題事項等の例示」を新規に示した。

「こんなお悩みありませんか?」ということ自体はやってはいけない手法ではないが、そこに列挙されている内容が解消されないにもかかわらず効果を書くと、違反になる可能性があることを示したものである。なお、機能性表示食品でもトクホでも同じことが言え、機能性表示食品は事後チェック指針に明記されている。

●成分広告と一体化したケースも規制対象に

【新旧対照表6P (第3章 2 景品表示法及び健康増進法上の表示)】
事例に「特定の食品や成分の健康保持増進効果等に関する広告等に記載された問合せ先に連絡した一般消費者に対し、特定の食品や成分の健康保持増進効果等に関する情報が掲載された冊子とともに、特定の商品に関する情報が掲載された冊子や当該商品の無料サンプルが提供されるなど、それら複数の広告等が一体となって当該商品自体の購入を誘引していると認められるとき、」が新たに追加された。

(解説)
2019年11月の措置命令を受けて追加されたもの。免疫を高める成分の情報が掲載された冊子と一体になって特定の商品の購入を誘引した事例であり、これは表示として規制対象となることを明示した。

●成分広告と商品名を結び付けたケースも規制対象に

【新旧対照表6P (第3章 2 景品表示法及び健康増進法上の「表示」)】
事例に「特定の食品や成分の名称を商品名やブランド名とすることなどにより、特定の食品や成分の健康保持増進効果等に関する広告等に接した一般消費者に特定の商品を想起させるような事情が認められるとき」が新たに追加された。

(解説)
たとえば、乳酸菌の成分名の広告と製品名を一致させるような事例がある。成分広告と商品広告をネット上で切り分けているような事例で、たとえばある会社が乳酸菌○○の効果としてアレルギーを予防するような宣伝があり、これはあくまで成分広告ですと言っているようなケースでも、この菌の名称が「乳酸菌〇〇」と製品名となっている場合がある。これまでの措置命令にはないが、こうした成分広告が特定の商品を想起させるような場合について、新たに盛り込んだ。

●アフィリエイトの広告主の責任を明示

【新旧対照表6〜8P (第3章 3 規制の対象となる者)】
アフィリエイト広告について、「広告主がその表示内容を具体的に認識していない場合であっても、広告主自らが表示内容を決定することができるにもかかわらず他の者であるアフィリエイターに表示内容の決定を委ねている場合など、表示内容の決定に関与したと評価される場合には、広告主は景品表示法及び健康増進法上の措置を受けるべき事業者に当たる。」とし、「事業者が講ずべき表示等の管理上の措置」に留意することを追加した。

(解説)
2021年6月から約半年間開催された「アフィリエイト広告等に関する検討会」報告書を受けて、2022年6月29日に公示された「事業者が講ずべき表示等の管理上の措置」を盛り込んだ。

●No.1表示も規制対象に

【新旧対照表16P (第4章 2 保健機能食品以外の健康食品(いわゆる健康食品)において問題となる表示例 (4)最上級又はこれに類する表現を用いている場合)】
この項で、「また、健康食品の広告等において、例えば『ダイエット部門売上 No.1』、『顧客満足度ランキング第 1 位』などと強調する表示(いわゆる「No.1 表示」)が行われることがあるが、その商品等の内容の優良性又は取引条件の有利性を表す No.1 表示が合理的な根拠に基づかないなど、事実と異なる場合には、虚偽誇大表示等に該当するおそれがある。さらに、No.1 表示の根拠となる具体的な調査条件や出典等が明瞭に記載されておらず、一般消費者に実際のものよりも著しく優良又は有利なものと誤認させる表示をする場合には、虚偽誇大表示等に該当するおそれがある。」と新規に追加された。

(解説)
今年6月に問題となったNo.1広告で、消費者庁は豊胸施術に関する広告で措置命令を出したが、これは健康食品にも当てはまることを追加した。

以上、筆者が気になった部分を抜粋して田中さんに質問し、解説して頂きました。

●留意事項が周知され、健康食品の広告の健全化を期待する

今回の改正は、アフィリエイト広告検討会の報告書を受けてそれに伴う管理上の措置が公示されたため、それに伴う改正と予想していましたが、予想を超えるたくさんの改正点が盛り込まれていました。

とはいえ内容をよく読むと、この数年の様々な措置命令、改善指導が反映されていることがわかります。健康食品は次々と新しいタイプの悪質な広告がでてきて、もぐらたたきのように見えることもありますが、これまでの指導の際の考え方、注意点を網羅した充実した内容となっています。

パブリックコメントは9月7日まで。その後に公表されるのが12月1日を予定しているということです。

今後は、この留意事項をいかに周知させるかが課題となるでしょう。たとえば、これまで機能性表示食品の事後チェック指針なども公表されていますが、問題となる広告は後を絶ちません。

本改正を機に、消費者の誤認を招くような広告が少しでも減り健康食品の広告の健全化が進むように、留意事項が広く活用されることを願いたいと思います。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。