九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
ドラッグストアやネット上などで、新型コロナウイルスの予防をアピールする健康食品や空間除菌用品などが販売されているのを見かけます。宣伝を見て購入される方もいらっしゃるでしょう。しかし、消費者庁は新型コロナウイルスの予防効果を示すことに客観性・合理性を欠くとして取締りを行っています。
取締りのスタートは1年以上前の2020年3月。消費者庁が新型コロナ緊急監視を行った結果、いわゆる健康食品(23業者40商品)、マイナスイオン発生器(4事業者3商品)、空間除菌剤(3業者3商品)に対して、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の観点から改善要請を行いました。(新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品 の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起 について【第1報】)
その後も消費者庁は監視を続け、2020年3月27日(第2報)、6月5日(第3報)、2021年2月19日に改善要請を行っており、その数は4回で144事業者(167商品)に及びます。要請された事業者の多くは修正したようですが、消費者の不安に付け込んだ製品は後を絶たず製品群も広がっています。(下表)
この間も、消費者庁は改善要請よりも強い権限を持つ行政指導や、課徴金などの罰則も伴う措置命令も出して取締りを強化しています。特にこの3月は毎週のように措置命令が出されました。3月4日は亜塩素酸による除菌効果又は空間除菌を標ぼうするスプレーの販売事業者3社、3月9日は健康食品1社、3月11日は次亜塩素酸水の販売事業者3社、3月18日には空間除菌販売事業者1社で、それぞれニュースになりました。
改善要請を受け表示内容を見ると実に様々です。たとえば健康食品では「新型コロナウイルス感染予防サプリメント!!ビタミンCとビタミンD」(第1報)、「今、世間をザワつかせている新型コロナウイルス、ビタミンD摂取の重要性が明らかに」(第2報)、「新型コロナ対策に、乳酸菌、ビフィズス菌」(第3報)、「抗酸化食品であるゴマをたくさん食べて新型コロナウイルスの対策を!」「コロナウイルス予防、ごまの脂質に含まれるリノール 酸やオレイン酸などの不飽和脂肪酸は、免疫力を高める」(2月19日)など、キャッチ―な表現が並びます。
なぜ、これらの表現がダメなのか、消費者庁は改善要請の文書で次のように説明しています。
新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、 民間施設における試験等の実施も困難な現状において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうするウイルス予防商品については、現段階においては客観性及び合理性を欠くおそれがあると考えられ、一般消費者の商品選択に著しく誤認を与えるものとして景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大 表示)の規定に違反するおそれが高いものと考えられます。
消費者庁 https://www.caa.go.jp/notice/entry/023162/
なるほど、常識的に考えると新型コロナウイルスを用いた実験はよほど限られた試験機関でなければ行えないはず。健康食品や一般食品できちんと試験ができるとは考え難く、感染症予防の効果効能がうたえるはずもありません。また巷に氾濫している「免疫力」ということばも、科学的に定義された用語ではありません。
それでも、新型コロナウイルス予防に効く食品はあるのではないかと思われるかもしれません。そのような時は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のウェブサイトに信頼できる情報が載っています。
「新型コロナウイルス感染予防によいと話題になっている食品・素材について (更新中)」というタイトルで最新情報を公開されています。ここでは、結論として次のように記されています。
新型コロナウイルス感染症に対する予防効果が確認された食品・素材の情報は見当たりません。いくつかの食品・素材においては、新型コロナウイルス感染症に対する予防効果が検討されていますが、現時点ではいずれも予備的な検討であり、科学的根拠を示すまでには至っていません。
国立健康。栄養研究所 https://hfnet.nibiohn.go.jp/notes/detail.php?no=2142
具体的に話題になっている食品ごとの情報も記されています。ビタミンD、乳酸菌、ビフィズス菌などのプロバイオティクス、他にも、納豆、マヌカハニー、水素水、カテキンなど、2021年3月25日時点で38品目の食品の解説が並んでいます。
また、新型コロナ感染予防をうたった除菌商品にも注意が必要です。たとえば物のウイルス対策等をうたう「次亜塩素酸水」が多数販売されていますが、新型コロナウイルス対策に用いる場合は有効塩素濃度や使用方法の条件が厳しく、経産省、厚労省、消費者庁は合同で昨年6月26日に特設ページを設けて消費者に注意を呼びかけています。
また、首から下げるタイプの除菌用品など二酸化塩素を利用した空間除菌製品についても、消費者庁は行政指導を行うなど監視を行っています。この中には、皮膚刺激性で乳幼児の健康被害が報告されているものもあります。
新型コロナで健康への不安が高まっているいま、こうした除菌商品や健康食品にどのような注意をはらえばいいのか、実際にどのような消費者被害が起きているのでしょうか。
そんなことがわかる公開シンポジウムをFOOCOM・消費者庁共催で3月31日(水)にオンラインで開催します(無料)。参加して一緒にまなびませんか。
ご案内はこちらまで(お申込締切りを延期しました)。
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。