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執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

北海道メロンが台湾で違反、気になることがある

斎藤 勲

台湾への輸出農産物で、いつもはイチゴやリンゴ等の違反が多いが、今回は北海道産メロンがフェニトロチオン(スミチオン)違反となったようだ。8月に山形のメロン:フェントエート0.02ppm、昨年12月熊本のメロン:ニテンピラム0.01ppmで違反となっている。
*フォーカス台湾の記事

台湾の輸入検査違反発表は以下のURLで確認できる。 https://www.fda.gov.tw/UnsafeFood/UnsafeFoodContent.aspx?id=3718

メロンのことを、鮮蜜瓜(FRESH MELON)と呼ぶようだ。違反食品には写真が添付してあり、ライデンメロンであることが分かる。北海道俱知安の西に位置するJAきょうわで生産されるメロンで、「ネギの混植栽培」で土壌微生物を改善させるユニークな栽培方法で糖度の高いメロンを生産しているとか。

違反物質はフェニトロチオン(スミチオン)が0.06ppm(基準は0.01ppm)。記事には基準値の6倍検出と書いてあるが日本の一律基準と同じようなものと比べて何倍というのは、もうそろそろ止めていただけないものか。(フェニトロチオンの漢字名は撲滅松、確かに松くい虫防除によく使われた農薬だからか、意味が良く分かる名前だ。)

フェニトロチオンは日本でも2019年6月に残留基準値が大幅に改定され、ポストハーベスト使用を想定した小麦の基準が10分の1の1ppm、葉物類(アブラナ科)は西洋わさびを除き削除等果実類の一部を除いて大幅に使えなくなった。

あれだけ身近だった農薬が使えなくなってきた。スイカは10分の1の0.01ppm(使うなという意味)、メロン類果実の残留基準も改訂され0.05ppmから0.02ppmとなった。今回、台湾で検出された0.06ppmは、日本でも違反ということになる。とは単純に言えない事情がある??

●検査部位は果皮を含む?果皮を除く?

厚生労働省は、2019年9月20日生食発0 9 2 0 第2号「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」で、「⑵ 今回残留基準値を設定する農薬等を含め、下表に掲げる食品については、同表の検体の欄に掲げる部位を検体として試験に用いること。」とした。

これによって、今後新たに基準が改定される農薬については、検査部位が従来の果皮を含まないものから、果皮を含む全果へと移行することとなった。多くの農薬は一般的に外果皮に含まれるので、数倍から一桁高い基準値が設定されたものが多い。コーデックス基準など国際的な基準と整合性をとる目的からの検査部位の改訂だが、基準値の改正に合わせて行うので時間がかかり、現状ではまだ3割くらいの農薬しかこの新しい検査部位には変わっていない。

そこで本題に戻る。フェニトロチオンは2019年6月に改訂されたが、残念ながら検査部位の変更には間に合っていないので、従来通りメロン、スイカなど果皮を除いた果肉部分での検査となる。当然のことながら皮をむいてしまえば、大多数の農薬では検出頻度は大きく下がるか低濃度となる。

農薬散布農薬の残留率を果皮と果肉で見てみると、ネット系メロンでは農薬の性質(水に溶けやすい、溶けにくい)にかかわらず、果皮ではほとんど検出されるが、果肉にはほぼ残留していない試験データがある。国内での管理はそれでいい。しかしそれを海外に持ち出すと話は違う。

台湾では従来からリンゴ、ナシ、スイカ、柑橘などは全果で分析を行っている(10年前台湾行政院衛生署薬物食品検験局TFDAを訪問時の資料より)。それが世界的な標準ではあるが。

今回のフェニトロチオン0.06ppm検出(基準0.01ppm)も当然全果で検査されているのだろう。ということは、このメロンを国内で通常検査していた場合は問題なく流通している。特にその農薬がドリフトなどで移染して表面に付着していたとなると、もうお手上げである。台湾で8月に違反となったフェントエートも、昨年12月違反のニテンピラムも、国内では検査部位は「果皮を除く」であった。

今回の違反の使用実態は定かではないので断定はできない。しかし、海外に輸出する場合、相手国の残留基準、その検査部位、検査方法も参考にしていかないと、たちいかない状況になることを今回の報道で実感した。また、国内で基準値がないものは一律基準の適用となるが、その検査部位は従来(果皮を除く)のものなので、この辺りも要注意である。


【参考】

台湾の検疫所の検索URLで出口國家に「日本」と入れて検索をかけると違反食品のリストが写真付きで表示されるので、現物を見たい方はこちらへ。

邊境檢驗不符合食品資訊查詢 (fda.gov.tw)

 

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

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残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。