科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

ばれいしょの残留農薬違反 本当に健康に影響を及ぼす恐れがあるのでしょうか?

斎藤 勲

寒くなるこの季節、鍋ものが恋しくなると春菊の需要も伸びる。それにつれて違反の報道も多くなる。昔から春菊とニラは農薬残留が多い感じがする作物である。12月に報道された違反を見ていると、個人農家が地場産野菜を少量販売しているような場所で起きており、違反農薬はすべて昔よく使われた有機リン系農薬で、現在適用がなく一律基準となっている農薬ばかり。残留濃度もドリフトに近いような濃度であった。

農産物を商品として販売するならば、いくら個人とはいえビジネスがそこに存在する以上、農薬の適正使用(適用作物、希釈倍率、散布時期・回数、使用期限の遵守)をしないと、いつまでたっても「野菜の農薬はやっぱりこわいね」みたいな誤解がだらだらと続いていくことになる。(農薬のラベルの表示は確かに字が小さくて読みづらいことは理解できるが…)

さらに違反報告を見ていると、でかでかと違反商品の写真が添付(商品回収するため)してあり、そこには生産者の名前がはっきりと書いてある。見せしめ的で嫌だが、違反するということはそういう事態なのだと肝に銘じてほしい。 

●ばれいしょ(ジャガイモ)の農薬違反を見てみると…

ところで、今回は春菊ではなくばれいしょ(ジャガイモ)の農薬違反事例について気になったところを紹介したい。

12月21日、愛知県西三河農協Aコープで販売したばれいしょからアセフェート(0.75ppm/0.5ppm、検出値/基準値)、メタミドホス(0.27ppm/0.1ppm)の基準違反があったとして、お詫びと回収のお知らせがあった

食品衛生法違反だから回収返金対応は仕方ないと思うが、「当該農産物を食べられますと、健康に影響を及ぼす恐れがあります。お手元に商品がある場合は絶対に食べられないようお願いいたします。」とただし書きがある。

0.75ppmと0.25ppmの検出で、どれだけ食べたら健康影響が出るのか?

一方、消費者庁の食品リコール情報を見ると(商品情報詳細|リコール情報サイト|消費者庁 (caa.go.jp) )、 ばれいしょが内容量3~5個・約550gの袋入りで、生産者の名前の入った商品写真が添付してある。メタミドホスは国内で使用できない農薬だが、オルトラン(アセフェートの商品名)変化生成物ときちんと説明してある。

このページから厚生労働省の公開回収事案詳細のページにいくと、「健康被害発生状況」は無く、「食品安全委員会が設定したメタミドホスの1日摂取許容量(ADI)が0.00056㎎/㎏体重/日であることから、体重50㎏の人が今回の検出量と同等のばれいしょを毎日1個(100g)を食べ続けたとしても健康に影響のない数値です。」と書いてある。「健康への危険度の程度」はクラスⅢ(急性参照用量を超えない農薬が残留した野菜や果物など)と判断されている。

本来、こういった一過性の残留農薬問題は、一生涯のADIよりも一過性の毒性評価の急性参照用量(ARfD)が理解しやすいと思う。メタミドホスの場合ARfD は0.003㎎/㎏で、体重50㎏の人がばれいしょを555g食べると急性参照用量となる。ちょうど違反のばれいしょの写真の量を全部食べるとということになると、なかなかの量ではある。

この程度の表現でおさえておけばよいが、「健康に影響を及ぼす恐れがあります」とは、かえって不安を与えてしまうことになるのではと感じた情報発信でした。

●じゃがいもの写真を見て気づいたこと

それよりも厚生労働省の公開回収事案詳細のページに添付されているばれいしょの写真、気になるのは上部にある小ぶりのジャガイモで、少し緑っぽく映っている。これって残留農薬の健康影響うんぬんよりも、ばれいしょのアルカロイド配糖体ソラニン、チャコニンの方が心配では?と思ってしまった。小学校などで毎年、子供たちが作った小さなジャガイモを調理して食べて食中毒が発生する事例が起こっている。

畝山智香子さんの著書「本当の「食の安全」を考える-ゼロリスクという幻想-」(化学同人DOJIN文庫)の中で、「ばれいしょのアルカロイド配糖体がもし残留農薬だったら」として、残留農薬の基準値設定方式と同じ方法で基準値(急性参照用量)を設定したらどうなるかを書いている。体重20㎏の子供がばれいしょを200g食べる量で、急性参照用量を下回る濃度として、8ppmを基準値としている。しかし、日本で市販されているばれいしょに含まれるソラニンとチャコニンの量は皮で190~320ppm、皮をむいた中身でも2.7~12ppmと報告されており、残留農薬と同じ検体部位なら全体なので、市販のほぼすべてのばれいしょが基準値違反で回収となるレベルだそうだ。

ばれいしょによる中毒事件は特殊な状況を除いてめったに起きないが、ばれいしょのソラニン、チャコニンの場合は日常で食べている量と中毒量が結構近いところになることは理解しておくのが良いと思う。

食品の残留農薬に関しては法律でいろいろな規制があり、そこから逸脱した場合は基準違反のような形で報道され回収措置が取られる。すぐにリスクが高まるとかいった話ではなく、状況を確認するために注意喚起情報が行き届いている。リスク管理とは、そういった事前情報を適切に利用して安心していくシステムだと思います。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

FOOCOMは会員の皆様に支えられています

FOOCOM会員募集中

専門誌並のメールマガジン毎週配信

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。