科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

斎藤くんの残留農薬分析

加工食品 × 違反の蓋然性 = ??

斎藤 勲

キーワード:

 ポジティブリスト制度が施行される29日朝のNHKニュースで、このポジティブリスト制度が今日から施行されることを大手量販店、野菜農家、検疫所の映像を交えて紹介していた。最近の梅雨のような不順な天候だと、病気が発生して殺菌剤の使用が増えないかしら(残留が多くなる)と心配だが・・・。

 最近、厚生労働省が作成したポジティブリスト制度についてのパンフレットの中で、「加工食品も対象になるのですか」という問いに対して、個別の基準がなければ原則として一律基準が適用されることになる。しかし、基準に適合した原材料を使用していればいいですよ、という答えが書いてある。

 今、大手の食品加工会社、コンビニ屋さん、流通業界などでは生産現場に品質管理担当者が出向き農薬使用の履歴管理、生産現場のチェックなどきめ細かくやっている。自分の身は自分で守るである。こういったところが大手の大手たる所以(ゆえん)であろう。

 加工食品の検査結果の判断は具体的にはどういうことかというと、10%リンゴ果汁を検査してクロルピリホスが0.07ppm検出されたとする。一律基準0.01ppm以上であり問題となり、原材料のチェックが必要となる。

 クロルピリホスは以前中国産冷凍ホウレンソウで脚光をあびた農薬であり、国内ではリンゴからの検出事例がある。リンゴの残留基準は1.0ppm(1ppmではないので注意。1ppmなら1.4ppmまでは四捨五入で1ppmに丸められ基準を超えないので許されるが、1.0ppmでは1.04ppmまでしか許されない)であるので、果汁10%の場合、1.0×10%=0.10ppmがこの果汁飲料の「違反の蓋然性(恐れ)」判断基準となる。リンゴのクロルピリホス0.07ppmは0.10ppmよりも低い値なので、この果汁飲料は適正な原材料から製造されたと判断され違反の蓋然性はないとなる。

 リンゴ果汁、うどん、冷凍ホウレンソウ、枝豆、乾燥ヨモギなど原材料が1つ、または2つ位のものは上記の考え方で対処できる。しかし、通常加工食品というと、もっといろんなものが原材料と使用されている。

 農産物だけを原材料とした加工食品の代表である福神漬けのような漬物類を考えればよい。ある漬物から殺虫剤クロルフェナピル(商品名コテツ)が0.2ppm検出されたとする。クロルフェナピルはお茶など広く使われている農薬であり、よく使用される農薬だけに残留濃度は低いが検出される。この場合も加工食品としては一律基準の0.01ppm以上であり、原材料チェックとなる。

 原材料組成を調べてみると(これが出来なければ最初からお手上げ)、野菜類としてはハクサイ30%、野沢菜18%、キュウリ6%、ニンジン3%が使われている。それぞれの基準値(暫定含む)を当てはめる。ハクサイ1ppm×30%=0.3ppm、野沢菜3ppm×18%=0.54ppm、キュウリ1ppm×6%=0.06ppm、ニンジン0.1ppm×3%=0.003ppmとなる。ニンジンは根菜類なので基準が低い。全部を合計した0.903ppmで判断すれば0.2ppmは十分基準を満たしており、違反の蓋然性はないことになる。

 しかし、多分それでは適正な原材料を使用した証明にはならないのだろう。ハクサイ、野沢菜由来のクロルフェナピルならセーフである。しかし、キュウリやニンジンからクロルフェナピルがきたと想定すると?という話になり「違反の蓋然性」があるかなきやというハムレットの心境になる。この農薬は主な用途してはアブラナ科野菜や茶が多いのでハクサイか野沢菜に使用されたものからの残留とは推測できるが。

 原材料を調べようとするとこれが中々大変である。トレーサビリティとは言うものの、大口や地場生鮮品ならばそれなりの追跡はまだ可能である。しかし、漬物材料のような市場で少量ずつ値段の安い産地の違うものを購入したり(中には中国産も混じるかもしれない)、その時その時でいろんな材料で漬物を作っていたとすると、うまくいけばどこの産地位は分かるかもしれないがそのロットの農薬履歴など分からなくなってしまう。中間業者が多くなればもっと分からない。真面目な人(?)ならば売っていいものか悩んでしまう。知らなければ良かったなあという心境であろう。

 では現状ではどうするか。当面原材料のトレースできない商品は出来るだけ検査しない(そのかわり仕組みとしての原材料ルートの品質管理を目指す必要あり)か、そういった加工食品の検査から原材料ルートの追跡が出来る仕組みを作っていく苦難の道を選ぶか。誰が考えても道は決まるような気もするが。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)