新・斎藤くんの残留農薬分析
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
横浜市は1月28日神戸の輸入食品検疫検査センターの検査で米国産グレープフルーツから基準を超える殺菌剤ストレプトマイシンが検出され回収を命じたと報じた。輸入業者によると1300カートン、約5万5千玉輸入して、すでに半分は販売したという。
●規格基準違反だが健康への影響はなし
検出値はかんきつ類の基準値0.02ppmに対して0.06ppmと基準値の3倍で食品衛生法11条2項規格基準違反。当然のことながらすぐに健康への影響はなく今のところ健康被害の届出もないとの説明。当然でしょう。
最初のニュースで米国産グレープフルーツから殺菌剤の基準違反と聞いたので、食品添加物の防かび剤の違反があったのかなと思って読んだら、抗生物質ストレプトマイシンが検出されたとのこと。
ストレプトマイシン違反は中国からの輸入ハチミツやローヤルゼリーでは有名で、他にチリ産ブルーベリーなどからも違反が出ている。国内では60トンくらいが使われ、主に北海道でジャガイモや玉ねぎ(残留基準0.05ppm)の軟腐病、そうか病、黒足病等に使用されている。ストレプトマイシンは特別栽培農産物での化学合成農薬ではないので、使用回数にカウントされないという生産者側のメリットもある。
●かんきつ類の病気対策に抗生物質が用いられる米国の事情
かんきつ類でのストレプトマイシン使用は知識としてなかったので、ネットで見てみたらなかなか複雑な背景が分かった。
米国やブラジルでは以前からオレンジやグレープフルーツなどの柑橘かいよう病、グリーニング病が広まっており、重傷な場合は感染した樹木を伐採除去する以外に有効な対抗策がないところもあるという厄介な病気の蔓延である。
これに対して抗生物質のストレプトマイシンやオキシテトラサイクリンが有効ということで栽培時に使用されている。米国のストレプトマイシンの残留基準(e-CFR Title40 part 180)は2019年12月31日までの期限付きではあるが、かんきつ類で2ppm、乾燥果実で6ppmと病気対応の暫定基準が設定されている。グレープフルーツには昨年末までは0.15ppmの期限付き基準だったので、だいぶ引き上げられたわけである。
抗生物質を乱用すると、薬剤耐性菌の出現が以前から問題とされ、期限付き基準とはいえ抗生物質の使用を認めていることに、メディアではいろいろな批判も出ている。中にはトランプ政権EPA(環境保護局)が積極的に進めていると、トランプ影響をうたっている記事もある。
今回の残留濃度を見ていると、期限付き残留基準が2ppmなので米国ではおそらくストレプトマイシンは病気に対して適切に使われたであろうと想定される。しかし、日本の基準がそういったことを想定していない0.02ppmでは、フロリダなどで病気対応したグレープフルーツは相当数が輸入時にアウトとなるだろう。
ミカンの様に皮をむいて検査すれば別だが。米国はコーデックスにも働きかけているが基準の設定はまだのようで、かんきつ類輸出が相当影響を受ける事態となる。
●44年前のポストハーベスト農薬問題を思い出す
何となく今から44年前に輸入レモン事件を思い出してしまう。米国から輸入されたレモンから農薬のOPPが検出されたのである。当時はポジティブリストではなく、栽培時に使用されたものなら問題はなかった(?)が、OPPはいわゆるポストハーベスト使用農薬であり国内では収穫後に使用される農薬は認めていなかったので大量廃棄する事件へと発展した。
その後日本の規制の改善を米国は強く求めてきて、食品衛生法では収穫後に使用できるものは食品添加物なので防かび剤という区分を作って、OPP、ジフェニル、TBZ、イマザリルなどの残存基準を設定して実質的な使用を認めた。これが各方面から非難されたのである。
今年の春から日米物品貿易協定(TAG、米国は米日貿易協定という)が始まる。それとは別に科学的、安全評価を得たデータを基にインポートトレランスの交渉で残留基準の整合性が論じられるならばいいが、40年以上前のような曲解される事態となると、またぞろやっぱり農薬は良くないねえという悪い評判だけが定着することを危惧している。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。