科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

アフラトキシン違反 EU・日本の現状

斎藤 勲

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令和元年6月6日、厚生労働省はインド産アーモンド加工品(品名はアーモンド由来植物たんぱく:オイルを分離して粉末化したもので、白色でクセのない風味、マスキング機能がある)からアフラトキシンが総アフラトキシン50µg/kg検出されたとして、検査命令の実施を発表した。昨年度は輸入実績がなく今回の届出で検体で違反、即命令検査である。

アフラトキシンの検査で大変なのは、カビの汚染がとても局在しておりばらつきも多いことである。極端な例では、1粒10.5ppmの汚染粒が、汚染されていない999粒と混じって1000粒になっても、11ppb(µg/kg)となり違反となる。その一粒が入るか入らないかで全く異なる検査結果となり、均一なサンプリングがとても大変な検査である。

●アフラトキシンの発がん性と規制値

アフラトキシンは、コウジカビ(Aspergillus flavus)等が産生するカビ毒で、疫学調査などで、食事中汚染濃度と発がん(肝がん)の相関性が証明されている。特にHBV(B型肝炎ウィルス)の罹患率の高い汚染地区では、発生頻度が30倍くらい高くなるとのデータもあり注目する必要がある。

アフラトキシンにはB1、B2、G1、G2の4種類があり、カビの種類により主にBグループを産生するものと、Gグループを産生するものがある。アフラトキシンンの構造で重要なのは、フランが二つつながったビスフラン環であり、その外側の部分が二重結合になったものがB1、G1、二重結合でないものがB2、G2と命名される。この二重結合が重要で、肝臓で酸化されエポキシドに変化・活性化されDNAに結合する、いわゆる遺伝毒性物質である。

アフラトキシンB1は明らかに発がん性が強く、G1も遺伝毒性・発がん性も認められているが、B2、G2の場合は情報が限られている。このため、従来はアフラトキシンB1に実質的な基準値10µg/kg(検査法の検出限界濃度でそれを超えてはいけない)を設けて対応していた。しかし、「合理的に達成可能 な範囲でできる限り低いレベ ルにするべき」というALARAの考えから、コーデックス規格で木の実に設定されている「総アフラトキシン 10 µg/kg」を参考に、日本も2011年10月からアフラトキシンB1を含む4種の総合で10µg/kgが規制値となった。従来のアフラトキシンB1だけよりも、厳しくなったことになる。

●EUと日本の違反状況

最近のカビ毒アフラトキシンの違反状況はどうか、EUは畝山智香子さんの「食品安全情報blog2」のRASFF(the Rapid Alert System for Food and Feed:行政当局が深刻なリスクへの対応について情報交換)から、日本は平成30年度厚生労働省輸入食品検査から調べてみた。

1. EUのアフラトキシン違反状況

RASFF Alert情報には、様々な種実類などのアフラトキシンの基準超過事例報告が載っている。ピーナッツはアルゼンチン、中国、インド、エジプト、米国産が、ヘーゼルナッツはジョージア(昔のグルジア)産、アゼルバイジャン産が、アーモンドは主に米国産が、ピスタチオはトルコ、イラン産の違反報告がある。

EUでは「落花生、その他のオイルシード及びそれらの加工品 で、人が直接食べるもの又は食品の原材料として用いられるもの」に、アフラトキシンB1(以下B1)2.0、総アフラトキシン(以下 総)4.0µg/kgとかなり厳しい基準を設けている(2ではなく2.0µg/kgと厳しいことにも注意)。ピーナッツでも、原材料として用いられる前に選別やその他 の物理的処理が行われるものはB1 8.0、総 15.0µg/kgの基準となっている。アーモンド、ピスタチオはB1 8.0,総 10.0µg/kg、ヘーゼルナッツや乾燥果実はB1 5.0,総 10.0µg/kgと種類ごとに基準が設定されている。

ピーナッツでは、アルゼンチン産でB1が2.2µg/kg、米国産2.7µg/kg等、Codex基準10µg/kgと比較すると4,5倍基準が厳しくなったことになるが、多くの違反はB1でも10µg/kgを超えており、中にはエジプト産B1が154.5µg/kg(総184.1µg/kg)と大半がB1汚染のピーナッツもある。

中には有機栽培ピーナッツでも、中国産(B1 21、総80 µg/kg)、エジプト産(B1 13、総15 µg/kg、B1 8、総9.3 µg/kg、B1 29.8、総38.3 µg/kg)といった違反報告もある。ピスタチオはイタリア産有機ピスタチオでB1 948、総1253µg/kgと際立って高い汚染もあり、当然のことながらカビ毒汚染は栽培方法の違い、有機農産物の価値とは別問題であることに注意が必要である。その他、乾燥果実としてトルコ産乾燥イチジクからB1で13.5、総20µg/kg 、B1 29、総32µg/kgという汚染事例もある。

2.日本のアフラトキシン違反状況

昨年度の輸入食品の総アフラトキシン、アフラトキシンB1の違反事例を見てみた。1年間で158件の違反事例があり、アメリカ合衆国74件、中華人民共和国34件、パキスタン11件、トルコ7件、インド5件、スペイン4件、南アフリカ4件、タイ3件等となっている。アメリカ合衆国産のとうもろこしは、以前は違反重量の大半を占めていた時期もあったが、近年天候不順が少ないのか品質管理の向上なのかの違反事例が減少している。

種類別に違反状況を見てみた。

アーモンド類23件(大部分がアメリカ合衆国)、総アフラトキシン12~122µg/kg、平均値36.6µg/kg、中央値24µg/kg、アフラトキシンB10.79、中にはGグループの汚染もありB1の割合が30,40%のものも一部見られたが、大半は従来からのB1基準と同等の結果であった。
ピーナッツ類の違反件数が一番多く、うち13件21%はGグループの汚染もあり、従来の基準では適合の10.4µg/kg未満で最少は1.5µg/kgとかなり厳しい違反となったものもあった。B1の総アフラに対する割合は0.72でGグループの汚染がなければ0.85以上(残りはB2)のものが多かった。

 

特に、中国からの大粒落花生では産生カビの違いにより B1が10~20%で主にG1というものもあり、従来より違反率が高くなり注意が必要である。

ピスタチオ、乾燥イチジク、チョコレートでは汚染濃度の高い検体があり、平均値では高めの数値となっている。タイ産ピーナッツチョコレートのB1が402µg/kgや米国産チョコレート類の70~90µg/kgの汚染を見ると原料として使われた種実類はどんなものだったのかと類推したくなる。

以上、輸入食品中のアフラトキシンの汚染状況を紹介したが、総アフラトキシンにより注意範囲が広がったことや、種実類の外観が見えない加工品類に、より注意が必要であることを実感した。地球温暖化の中で、日本でもじわじわと南からカビ毒生育条件が変化する中、国内外通じて一番リスクのあるアフラトキシン汚染の状況には目を光らせて適切な対応が望まれる状況を実感した。

コンプライアンスとはいえ、残留農薬では健康に影響がない濃度として一律基準10µg/kgが設定されているが、それがアフラトキシンと同じ数値というのはいつもいつも不思議に思っている。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

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残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。