科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

中国産ウーロン茶農薬基準超過の検査内容

斎藤 勲

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 食品の回収サイトのリコールプラスを見てみると、この1か月弱で30社もの回収情報が載っている。11月26日、小谷穀粉(高知県)が福建省から輸入したウーロン茶ティーバック等の回収を始めたのを皮切りに、中には伊藤園のようなウーロン茶の草分けも入っている。どうなってしまったのか。回収にかかわる概要は、本サイトのリアル消費者/森田満樹「もったいない!ウーロン茶葉の自主回収」をご覧になってください。

 中国でもお茶は緑茶が主流だが、ウーロン茶は茶葉を摘んだ後、天日干し、室内で保管して発酵させる。釜で加熱して発酵を止め、よく揉んで商品に仕上げたものである。完全に発酵させれば紅茶になる。ウーロン茶の生産量は福建省がトップで日本ではウーロン茶といえば鉄観音の福建省と思っている方が多い。他にも北部の武夷山のお茶や台湾など質の高いお茶も多い。今回回収されたものの多くが、缶に入った高級茶というよりも、細かく粉砕したウーロン茶をティーバッグに入れたもの、ウーロン茶を混ぜた健康茶などで、お徳用の商品もあり値段的には安価で購入しやすい商品のようだ。

 基準超過は主に、自主検査で判明しているが、問題となった農薬は、茶の基準値が0.002ppmのフィプロニルと、日本で適用がないので一律基準0.01ppmが適用されるインドキサカルブである。インドキサカルブは検出されていない茶葉もある。ここで注意してほしいのは、この分析結果は茶葉そのものの検査数値である、ということだ。

 最近では茶の残留基準は、加工過程を入れない茶葉そのものの残留濃度として設定されているが、以前に残留基準が設定されていた塩素系農薬、ピレスロイド系農薬、有機リン系農薬など約100農薬は、熱湯で浸出した抽出液を用いて分析を行い、茶葉1g中にどれほど入っているか換算して適否を判断していた。茶葉9gに対して熱湯540ml使用して分析を行っていた。粉末の茶葉をそのまま飲む抹茶は、抹茶から直接抽出していたが、お茶に関しては飲み方に配慮した分析になっていた。

 塩素系、ピレスロイド系、リン系農薬(一部除く)は、水に溶けない性質(水分配係数LogPow)が大きいので熱湯にはほとんど抽出されてこないため、茶葉そのものでは検出されても抽出液は検出せずという分析結果が多かった。当然である。溶出の傾向を知りたい方は、食品分析開発センターサナテックのレポートをご覧ください。ちなみに今回のフィプロニルはLogPow=4、インドキサカルブは4.6と水にほとんど溶けないので、回収内容の文末に、通常の使用方法による飲用では健康被害を引き起こすことはありませんと書いているのは確かだろう。

 しかし、どうして今回の基準違反事例が起きてしまったのだろう。小谷製粉は900トン輸入して300万個を製造したという。900トンというと生産者は相当の数に上るのではないだろうか、そのあたりの実際の生産現場での農薬管理は大丈夫だったのか、農薬検査をしてもどれほどロットを代表していたかが先ず疑われる。輸出前検査はされていたと思うが、現地の検査では、トリアゾホスなど命令検査対象となった農薬などが優先されており、使用実態を踏まえて広く多成分分析を行っているわけではないだろう。

 分析機関の出した農薬検査結果がそのまま、閲覧できるサイトも多いが、ほとんどがすべて「検出せず」の結果となっている会社が多く、気になる。私の経験に照らして考えれば、茶葉などの検査で、「すべて検出せず」というのは、残留している可能性のある農薬を検査対象としていないか、検出限界に問題があるのでは、と正直疑ってしまう。あるサイトでは、福建省のウーロン茶で168農薬分析を行いアセタミプリド、シペルメトリン、ブプロフェジン等8農薬が適合範囲で残留しているが他はすべて検出されませんでした、という検査結果を公表していた。ちゃんと分析しているな、と信頼がおける。

 今回の事例でリスク回避の面から参考になったのは、グリーンピース(緑色和平)が2011年12月と2012年1月に購入した大手中国茶メーカーの緑茶、ウーロン茶、ジャスミン茶18商品を分析したレポートである。今年4月に公表されており、すべての検体から3-17種類の農薬が検出されている。

 詳しく見ると、中国で茶葉に使用が禁じられているメソミル(9)、エンドスルファン(2)、フェンバレレート(1)が検出されている。グリーンピースは、こういった状況の改善を要求している。この結果を見ていて興味深いのはウーロン茶を4件検査しているが、すべてからインドキサカルブが0.17、3.9、0.18、0.03ppm検出されていることだ。EUでは、インドキサカルブの残留基準は0.05ppmなので、3件は基準超過となる。フィプロニルはこの検査では検出されていないので無理だが、こういったデータを事前に見ておけば日本では残留基準がないインドキサカルブが、食品衛生法違反を招きかねない農薬であることは推測がつき、慎重な検査・対応ができたのではないだろうか。

 何はともあれ、現地での農薬散布管理、情報収集と現地でのリスクを想定した残留農薬検査をきちんと実施しながら輸入を行っていれば、そのあたりのリスクは、少しは回避できたのではないだろうか。
大手企業の中には、それなりに金と人をかけ今回の対応がきちんとしているメーカーもある。中小も中小なりに手を組んで、現地情報やロット情報、現地にかかわる検査情報などを共有して頑張ってほしい。

 基準超過の際の安全性説明としてその商品を毎日○.○㎏食べ続けても健康影響はありませんといったあまり意味のない表現がよく使われる。そうではなく、急性参照用量ARfD(一過性の摂取による健康影響を与えない量)が重要である。まだ日本では2つの農薬(アセタミプリド、メタミドホス)にしかないが、ARfDによる評価が進み、説明に合理性が加わることを期待している。

 最後に、いつもの話に戻ってしまうが、一律基準超過で今回の30社を超える商品を単純に回収して終わらせてしまうコンプライアンス重視のやり方(食品衛生法第11条3項)で本当にいいのかどうかを考えたい。
 イエローカードではだめなのか、ポジティブリスト制度6年経過した今、リスクの面から科学的に落ち着いて議論してもいいのではないだろうか。只々葬り去るだけでなく、小さなイレギュラーを丁寧に調査することにより、本来解決すべき背景の大きなトラブルの予兆が分かり、改善できる場合もあるのだから。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。