科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

その解釈は間違いかも!論文に基づいた広告の実態

児林 聡美

キーワード:

今年の3月から話題に上ることが多くなった「機能性表示食品」。
FOOCOMでは、3月に明らかになった紅麹を原材料とした食品の事件や機能性表示食品に関して、様々な専門家の方が、情報提供や見解の発信をされていて、多くの記事が蓄積されてきました。

私も「国が責任を負ってくれない?機能性表示食品とは」という記事で、機能性表示食品とはどういうものか、解説したところです。

今回は今年発表された、機能性表示食品の広告の内容に問題があることを示した研究結果を紹介します。

●論文を題材にした研究

今回紹介する研究は、機能性食品の臨床試験の質や、その結果が消費者にどのように伝えられているのか、といったことを、論文を集めて分析した研究になります。

人や動物を対象に研究したのではなくて、食品の機能性を確認した臨床試験の論文を対象に分析した研究(文献1)です。

機能性表示食品の制度が開始してから、食品の機能性を確認するための臨床試験は数多く行われています。
そしてその臨床試験は、機能性食品を製造・販売する会社が直接行うのではなく、開発業務受託会社(CRO)が請け負うことも多いです。
今回著者らは、CROが実施した食品の臨床試験に注目し、その試験の質や、結果の伝えられ方を評価しています。

実際の研究結果

著者らのプレスリリース

●臨床試験開始前に行われること

ところで研究の紹介をする前に、臨床試験を行うときのルールを説明しておきますね。

臨床試験を行うときには、試験開始前にあらかじめ「臨床試験登録システム」というシステムに、試験の内容を登録しておかなくてはなりません(文献2)。
これは、食品の臨床試験だけでなく、薬や治療法など他の臨床試験でも同じです。

登録しなければならない項目はたくさんあります。
例えば、試験の名称や、試験の責任者や関わる研究者は誰で、対象者はどういう人で、何人いて、どんなものを「介入群」の人たちは食べるのか、その期間は何日間で、最終的にどんな健康状態に変化があることを確認する予定なのか…という具合です。

そして、登録内容は誰でも見ることができるように公開されています。
なぜこういった登録がされるのか、というと、試験の結果の透明性を確保するためです。

たとえば、試験の途中で「欲しい結果が出にくそうだな、予定より長めに研究すれば結果が出るかもれない…」と研究者が感じたとします。
こういった研究実施中に計画を変更する行為は、研究結果を意図的に操作したりゆがめたりすることにつながるため、本来はだめなんですよね。

もし試験の経過を見ながら試験のデザインを変更すれば、通常はこうやって試験の開始前に「計画」を公開しているため、他の人に分かってしまいます。
こんなふうに、事前の試験内容登録と公開は、恣意的な計画変更が簡単にはできないように監視する目的があります。

●登録システムUMIN

そういうわけで、臨床試験が実施される場合には、事前に臨床試験登録システムに試験の内容が登録されているはずなんです。

日本国内で認められている臨床試験登録システムはいくつかありますが、大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)により運営されているUMIN臨床試験登録システムは、そのうちのひとつです。
機能性表示食品の機能性の根拠となる臨床試験を行う場合の登録先としても認められています。

運営されているウェブサイトは図1のようなサイトで、登録されている試験情報は誰でも閲覧することが可能です。

図1. UMIN臨床試験登録システムのウェブサイトのトップページ(https://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm):臨床試験を実施する場合には事前に臨床試験登録システムに登録しておく必要があります。登録されている内容は検索することで誰でも閲覧できます(赤枠部分)。

●食品に関連した試験の数は?

今回著者らは、日本の大手CRO5社によってUMINシステム上に登録された臨床試験726件のうちの100件をランダムに抽出し、その中から食品に関連したものを選びました。

100件のうち、食品に関連したものは76件でした。
さらにそのうち32件が論文化されていました。

また、臨床試験の結果を広報したプレスリリースが3件、結果を活用して販売された食品の広告が8件というふうに、11件が研究結果を一般向けに伝える食情報として公表されていました。

●測定項目が増えた!

公表されていた論文32件に関して、元々UMINシステム上に登録されていた「食品の効果として測定する予定の項目(主要評価項目)」の数は、実際に論文になったときには2倍になっていました。

これは、研究実施中に、効果が出ると考えて測定することにしていた項目では結果が得られず、途中で予定を変更して、測定項目を追加した可能性が考えられます。
十分にメカニズムが説明できないような項目も測定してみて、偶然に結果が得られたということもあるかもしれません。

●結果の一部を有利に伝えていた!

また、食情報として公表されていた11件の多くが、実際の研究結果と、それを解釈して食情報となった内容の間に「不一致」があったそうです。
不一致の内容というのは、たとえば、結果の有利な点を強調して、不利な点を伝えていないということです。

もし、ある食品を食べた結果、体重、体脂肪率、腹囲、内臓脂肪を測定したとします。
このうち体脂肪率が増え、体重や体脂肪率は変化していないにも関わらず、腹囲が減ったという結果が得られたとします。
その場合、腹囲が減った説明を論理的にはできませんから、腹囲が減ったのは偶然かもしれません。

研究の場合、たくさんの項目を測定すると、そのうちひとつの項目で偶然に結果がよい得られることはよくあります。
そういった事実を正確に伝えずに「研究の結果からこの食品は腹囲を減らす機能が認められました」とだけ伝えるのは、実際の研究結果とは不一致ということになります。

こういった不一致が11件中8件あったということです。

●機能性表示食品の研究や広告には見直しが必要?

こういった状況があることが今回の研究で明らかになりました。
今後、機能性表示食品の臨床試験を実施する場合には、臨床登録システムに、測定項目を登録するだけでなく、測定する方法や時期など、より詳細に記載する必要があるかもしれないと著者たちは伝えています。

研究者や試験依頼元企業の意図が入らない、客観的な方法で試験が行われるような仕組みづくりが求められているように感じます。

参考文献:

1. Someko H, et al. J Clin Epidemiol 2024; 169: 111302.

2. 西内ら. 臨床薬理 2009; 40: 111-7.


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執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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