科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

個別の要因を足し合わせて決定した鉄、亜鉛:これでわかった!食事摂取基準24

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、信頼できる食情報のエビデンスとして活用できる「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」を連載でご紹介しています。

多量ミネラルに続き、今回からは微量ミネラルの解説に入ります。
食事摂取基準では指標の定められているミネラルのうち、必要量が数十mg以下のものを微量ミネラルと呼んでおり、8種類あります。
今回は鉄と亜鉛の解説です。

●貧血予防に摂取しておきたい鉄

鉄は、血液や各種の酵素に含まれている栄養素です。
不足すると貧血を招くため、十分に摂取しておきたい栄養素です。
そこで、不足のリスクを回避するための指標が定められることになりました。

指標を定めるためには、カルシウムと同様に要因加算法という手法を使っています。
カルシウムの解説でも説明したように、要因加算法とは、その栄養素の体内蓄積量、尿中排泄量、吸収率、といった、必要量を考えるための要因をひとつずつ挙げていき、その量を足し合わせていくような方法です。

鉄の必要量を考えるときに考慮された要因は1) 基本的鉄損失(日常生活の中で自然に排泄される鉄)、2) 成長に伴う鉄蓄積、3) 月経血による鉄損失、の3つです。
さらに2) の成長に伴う鉄蓄積に関しては、(1) ヘモグロビン中の鉄(血液中の鉄)蓄積、(2) 非貯蔵性組織鉄(酵素などを構成して体内を循環している鉄)の増加、(3) 貯蔵鉄(肝臓や筋肉などの鉄)の増加、という3つに大別されます。

これらの要因に関して、各性・年齢区分別に、どの区分の人にどの要因が影響しているかを考えながら、指標を定めているのです。

●性・年齢区分ごとに細かく計算

具体的に、各性・年齢区分別に、どのような要因が影響しているかを確認していきましょう。
成人の男性と月経のない女性で考慮すべき要因は、1) 基本的鉄損失のみです。
成人の月経のある女性で考慮すべき要因は、1) 基本的鉄損失と3) 月経血による鉄損失です。
小児の男児と月経のない女児で考慮すべき要因は、1) 基本的鉄損失と2) 成長に伴う鉄蓄積です。
小児で月経のある女児では、1) 基本的鉄損失と2) 成長に伴う鉄蓄積と3) 月経血による鉄損失です。

この1)~3)の要因に関して、どの程度の鉄が失われたり蓄積されたりしているのかは、様々な研究で測定されいます。
それらの値を用いて、各性・年齢区分ごとの値が推定できます。
たとえば、1)の基本的鉄損失に関しては、各性・年齢区分ごとに表1のような値が得られました。

表1. 基本的鉄損失の推定(文献1 1-7 P.312):日常生活で自然に失われる鉄の量に関して、研究結果を基に、各性・年齢区分別に推定しています。

このようにして得られた、各性・年齢区分で必要な鉄の合計量と吸収率を使って、推定平均必要量と推奨量が定められています。
ちなみに、食品中の鉄は、たんぱく質と結合したヘム鉄と、結合していない非ヘム鉄に分けられます。
吸収率はヘム鉄で50%、非ヘム鉄で15%などという報告があります。
吸収率がかなり異なりますが、日本人の鉄の主な供給源は植物性食品(たとえば白米、豆腐や味噌などの大豆製品、ほうれん草などの葉野菜)であること(文献2)、非ヘム鉄の摂取量が多いことを考慮して、吸収率は15%を使用しています。
この吸収率は国際的にもよく用いられている値です。

0~5か月の乳児は、現在摂取されている量が不足していない量であると推測して、母乳中の濃度と哺乳量から算出された摂取量の結果を用いて目安量が定められています。
6~11か月の乳児は、貧血の発症が多いことから、小児(月経血による鉄損失がない場合)と同様の方法で推定平均必要量が定められています。

●摂りすぎには注意

成人では、体内組織への鉄の蓄積が多くの慢性疾患の発症を促進するとの報告があります。
通常の食事で過剰症が生じる可能性はありませんが、サプリメント、強化食品、貧血治療用の鉄剤の不適切な使用で過剰症が生じる可能性があります。
そこで、耐容上限量を定めることになりました。

たとえば1日当たりの鉄摂取量が推定で100 mgを超えた場合に、中年男性でバンツー鉄沈着症が発生したとの報告があります。
このことから、その2分の1の量である50 mg/日であれば過剰症は発症しないだろうとして、15歳以上の男性の耐容上限量は50 mg/日としました。
女性は体重差を考慮して、40 mg/日としました。
小児では別の研究結果に基づいて、1~2歳で体重増加量の低下が生じないと考えられる量として、2 mg/kg 体重/日という値を用いています。
3~14歳では、この1~2歳の値と、15歳以上との値の連続性を保つため、3~5歳は1.6 mg/kg 体重/日、6〜7歳は1.4 mg/kg 体重/日、8〜9 歳は1.2 mg/kg 体重/日、10〜11 歳は1.0 mg/kg 体重/日、12〜14 歳は0.8 mg/kg 体重/日を用いて耐容上限量が定められています。

鉄が生活習慣病の発症予防になるというような研究結果はありません。
一方で、鉄の過剰摂取は生活習慣病の発症リスクを高めるとの報告は増えつつあります。目標量の上限を設定するための根拠は不十分のため、目標量は定められていませんが、過剰摂取には十分に注意する必要があります。

以上のように、鉄の推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量は表2のように定められました。

表2. 鉄の食事摂取基準(mg/日)(文献1 1-7 P.366):性・年齢区分以外に、女性では月経なしとありの場合別に、推定平均必要量と推奨量が定められています。

●場合によっては食品以外からの摂取も必要

ただし、月経のある成人女性と女児の推定平均必要量や推奨量は、過多月経ではない場合(経血量80 mL/回未満)を対象とした値です。
過多月経の場合、それを補うために指標で示された以上の鉄が必要ですが、通常の食品のみで摂取するのはかなり難しくなります。
過多月経で貧血になりやすい人は、食事のみに頼らず、医療機関で必要に応じて鉄補給を受ける必要があります。

このように、女性の鉄必要量は月経血の有無と量に大きな影響を受けるため、貧血の有無を個別に把握しながら、食事摂取基準は柔軟に用いることが必要です。

●味覚や免疫を司る亜鉛

次に亜鉛です。
亜鉛は、筋肉、骨、皮膚や各種臓器に存在しています。
たんぱく質と結合することで、様々な生理機能に関わっており、欠乏すると皮膚炎、味覚障害、慢性下痢、免疫機能障害、成長遅延などが生じます。
そのため、不足のリスクを防ぐための指標が定められることになりました。

指標の値の決定には、鉄と同じく要因加算法を使っています。
考慮する要因としては、1) 腸管内の排泄量と2) 腸管以外への対外排泄量の大きく2つがあります。
それぞれ日本人を対象にした報告がないため、海外の食事摂取基準の値を活用しています。

まず1)の腸管内の排泄量は、性別や体重に関わらず、真の吸収量に比例して変化することが知られていて、関係式が研究で示されています。
また、2)の腸管以外の体外への排泄量は、尿中排泄量、体表消失量、精液中または月経血中消失量の3つが考えられ、それぞれ1日あたりの値が研究で示されています。
これらの情報をもとに18~29歳男女の亜鉛の1日当たり総排泄量を数式で表すと、以下のようになります。

男性:総排泄量=0.6280×真の吸収量+0.2784+(0.549+0.470+0.087)(mg/日)

女性:総排泄量=0.6280×真の吸収量+0.2784+(0.379+0.396+0.086)(mg/日)

この式で総排泄量=真の吸収量となる値が、出納がゼロとなる値で、必要量となります。
さらにその吸収量を達成するためにどの程度摂取する必要があるか、という関係式も研究で示されています。
それらの計算で得られた値と、各性・年齢区分の参照体重を使って、成人の推定平均必要量と推奨量が定められています。

12~17歳の小児は、成人の値をもとに、体重や成長因子を考慮して定められました。
1~11歳の小児では、成人の値を求める計算の過程で考慮した精液または月経血損失量を除いて、体重や成長因子を考慮して定められました。
0~5か月の乳児は、母乳中の濃度と哺乳量から算出された摂取量の結果を用いて目安量が定められています。
6~11か月の乳児は、0~5か月の乳児の目安量と、体重や成長因子を考慮して、目安量が定められています。

●大量摂取は他のミネラル吸収阻害に

亜鉛の継続的な大量摂取は、銅の吸収阻害、鉄の吸収阻害、胃の不快感などを生じます。
通常の食品からの亜鉛摂取で過剰症が生じることはありませんが、サプリメントや強化食品の不適切な利用によって過剰摂取が生じる可能性があります。
そのため、耐容上限量を定めることになりました。

アメリカ人女性の研究では、亜鉛の総摂取量が60 mg/日程度で、血清HDLコレステロールの低下や血中の酵素活性の低下などが生じることが報告されています。
この値を1.5で除した値であれば過剰症は生じないだろうと考え、参照体重を参考にして算出された0.66 mg/kg体重/日と、各性・年齢区分の参照体重を用いて、成人の耐容上限量が定められました。
小児では十分な研究結果が存在しないため、耐容上限量は定められませんでした。

亜鉛と生活習慣病との関連に関しては明確ではないため、目標量は定められませんでした。

亜鉛と糖尿病の関連に関しては、重症化予防になるとの報告も少しはありますが、耐容上限量を超える量を摂取するなどの極端な場合であり、これは食事で摂取する範囲を超えていることから、重症化予防のための量も設定されませんでした。

以上のようにして、亜鉛の推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量が定められました(表3)。

表3. 亜鉛の食事摂取基準(mg/日)(文献1 1-7 P.367):食事の献立ごとに亜鉛の含量はかなり異なるため、1~2週間の平均で十分に摂取しておくことが望まれます。

食事の献立により亜鉛の含量はかなり異なるため、1~2週間の範囲の中で十分な摂取ができているかを考えるようにしましょう。

数日の食事で不足の状態だからといって、すぐにサプリメントを用いる必要はなさそうです。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.
  2. 厚生労働省. 令和元年国民健康・栄養調査報告. 2020.

※食情報や栄養疫学に関してヘルスM&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、通信講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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