科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はHERS M&S代表としてフリーランスで栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

研究不足の中での指標づくり、パントテン酸、ビオチン、ビタミンC:これでわかった!食事摂取基準21

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、信頼できる食情報のエビデンスとして活用できる「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」を連載でご紹介しています。

今回は、残る水溶性ビタミンのパントテン酸、ビオチン、ビタミンCです。

●糖や脂肪酸の代謝を助けるパントテン酸

パントテン酸は、体内では様々な酵素の一部として存在していて、糖や脂肪酸などの代謝に関わっています。
不足すると、これらの酵素濃度が低下して、成長停止や副腎傷害、手や足のしびれなどの様々な症状が現れると言われています。
とはいえ、広く食品に存在するため、ヒトでの欠乏症は稀で、報告はほとんどありません。

推定平均必要量や推奨量を定めるための研究結果がないことから、目安量を定めることになりました。

いくつかの調査結果から、日本人のパントテン酸の摂取量が調査されています。
それらの調査対象者で、パントテン酸の欠乏症が現れたという報告はないため、現在の摂取量で不足のリスクはほとんどないと考えることができます。

得られた複数の調査結果の中で比較的少ない摂取量を示した調査の結果を使って、各性・年齢区分の摂取量の中央値が目安量として定められました。
小児や高齢者といった他の年齢区分でも同様の方法で定められています。

通常の食品でパントテン酸を過剰に摂取する可能性はなく、サプリメントなどの通常の食品以外の食品からの大量摂取に関しては報告が少ないないため、耐容上限量は設定されませんでした。
また、生活習慣病との関連に関しては、発症予防や重症化予防に関する報告はなく、目標量も設定されませんでした。

以上のようなことから、パントテン酸は目安量のみが示されています(表1)。

表1. パントテン酸の食事摂取基準(mg/日)(文献1 1-6 P.263):パントテン酸は体内で様々な栄養素を代謝するための補酵素の一部として働きます。食品中も補酵素の一部として存在しています。

●摂取量を知るのも大変なビオチン

ビオチンも体内では糖代謝などに関わる補酵素として機能しています。
欠乏すると、乳酸アシドーシスなどの障害が起き、欠乏症状としては、皮膚炎、食欲不振、憂うつ感などが生じます。

欠乏実験などは実施できず、必要量に関する十分な報告がないため、目安量を定めることになりました。

とはいえ、目安量を決めるために必要な、現在の日本人の習慣的な摂取量の調査結果というのも、十分にはありません。
その理由は、栄養素摂取量の計算に必要な、日本標準食品成分表(個々の食品100 gあたりに含まれる栄養素含量を測定した結果が収載されている表)にビオチンの含量が収載されるようになったのが2010年で、歴史が浅く、まだ収載されている多くの食品でビオチンが測定されていないためです。

どのような食品を摂取しているかを調査したとしても、その食品に含まれるビオチンの含量が多くの食品で不明なために、摂取量を計算できず、調査結果がほとんどないのです。

そこで用いられているのが、トータルダイエット法による調査結果です。
トータルダイエット法とは、その集団が食べている食品群の摂取量を、政府などの統計調査を使って調べます。
また、その食品群を代表する食品(よく食べられているものやよく売られているもの)をスーパーや市場へ行って購入し、その食品を分析して含まれている栄養素を分析します。
そして、測定した食品中の栄養素の値と、統計調査の摂取量を用いて、その集団の摂取している栄養素摂取量を推定する方法です。

この方法で推定した摂取量の結果がいくつか存在しており、それらを活用して、現在の日本人の習慣的な摂取量に近い値と考えられる50 μg/日が成人の目安量として定められました。

高齢者も十分な報告がないため、成人と同様の値としています。
小児は、成人の値をもとに、体重や成長因子を考慮して目安量が定められました。
乳児は、母乳中の濃度と哺乳量から算出された摂取量の結果を用いて定められました。

通常の食品でビオチンを過剰に摂取する可能性はなく、サプリメントなどの通常の食品以外の食品からの大量摂取に関しても十分な報告がないため、耐容上限量は設定されませんでした。
また、生活習慣病との関連に関しては、発症予防や重症化予防に関する報告はなく、目標量も設定されませんでした。

こうしてビオチンも目安量のみが設定されました(表2)。

表2. ビオチンの食事摂取基準(μg/日)(文献1 1-6 P.264):ビオチンは主に糖代謝に関わる補酵素の一部として働きます。食品中にどのくらい含まれているか十分に測定されていない栄養素です。

●ビタミンCと壊血病そして心血管疾患予防

ビタミンCは化学名をアスコルビン酸といいます。
体内では皮膚や細胞のコラーゲン合成に関わっており、欠乏するとコラーゲン合成ができず、血管がもろくなって出血しやすくなり、壊血病となります。

そのため、壊血病を予防する摂取量を必要量として、不足のリスクを回避するための指標を定めることが考えられました。

ところが、ビタミンCを1日当たり10 mg程度摂取していれば壊血病は発症しないという古い研究結果はわずかにあるものの、指標を定めることができるほどの十分な結果はありません。

一方で、ビタミンCには抗酸化作用があり、生体内でビタミンEと協力して、活性酸素を除去して細胞を保護しています。
また、心臓血管系の疾病予防効果が期待され、そのような観点からどの程度摂取すれば予防効果が期待できるかといった研究は、欠乏実験よりも多く報告されています。

それらの研究から、血漿ビタミンC濃度は50 μmol/L程度あれば、心血管疾患の予防効果が期待できることが示されています。
この濃度を維持するために必要な摂取量は、成人では83.4 mg/日ということも示されています。

そこで、指標を定めるための十分な根拠が得られた心血管疾患発症予防のための必要量を用いて、成人の推定平均必要量と推奨量が定められることになりました。
この値は、壊血病を予防できると考えられる摂取量に比べるとずいぶん多い量です。

高齢者ではもう少し多くビタミンCを摂取する必要があるとの研究結果もありますが、値を定めるほどの十分な結果が得られていないため、成人と同じ値で設定されています。
小児は、成人の値をもとに、体重や成長因子を考慮して定められています。
乳児では、研究結果がないため、推定平均必要量と推奨量は設定されていません。
0~5か月の乳児は、現在摂取されている量が不足していない量であると推測して、母乳中の濃度と哺乳量から算出された摂取量の結果を用いて、目安量が定められています。
6~11か月の乳児は、他の年齢区分の指標の値と参照体重などを使って目安量が定められています。

以上のような考え方をもとに、ビタミンCの推定平均必要量、推奨量、目安量は表3のように示されています。

表3. ビタミンCの食事摂取基準(mg/日)(文献1 1-6 P.265):ビタミンCの推定平均必要量は欠乏症である壊血病予防のための摂取量から定められていないことが注釈で説明されています。活用には注意が必要です。

●排泄されるが過剰摂取には注意

通常の食品でビタミンCを過剰に摂取する可能性はありません。

サプリメントなどの通常の食品以外の食品から大量に摂取した場合でも、消化管からの吸収率が低下して尿中排泄量が増加するため、ビタミンCは多めに摂取しても比較的安全とされています。
そのため、耐容上限量は設定されませんでした。

とはいえ、成人の推奨量である100 mg/日よりも極端に多い摂取が健康に良い影響を与えるとは考えにくく、逆に問題であることが示されています。
たとえば、1日に3~4 gの摂取で下痢を認めたといった報告があります。

ビタミンCの摂取量と血中濃度、排泄量などの検討をした研究結果から、1 g/日以上を摂取しても意味がないことが示されていて、1 g/日以上を摂取することは推奨できません。

また、慢性腎臓病患者では、ビタミンCの過剰摂取により尿路結石や腎蓚酸結石が生じるため、避けるべきとされています。
生活習慣病との関連に関しては、発症予防や重症化予防に関する報告はなく、目標量も設定されませんでした。

このように、ビタミンCの指標は、不足のリスクを回避するための指標に関しては心血管疾患予防のための量として定められていて、欠乏症である壊血病を予防する量よりもかなり高めに設定されています。
そのため、推定平均量を下回ったとしても直ちに欠乏症が生じることは考えにくい状態です。

そこで、ビタミンB1やビタミンB2と同様に、「活用に当たっての留意事項」の項に、推定平均必要量に関して、「災害時等の避難所における食事提供の計画・評価のために、当面の目標とする栄養の参照量として活用する際には留意が必要である」という記述で、活用するときに注意が必要なことを知らせています。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.

※食情報や栄養疫学に関してHERS M&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、通信講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

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