科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

特殊な吸収機構を持つビタミンB12、妊娠前から十分摂取したい葉酸:これでわかった!食事摂取基準20

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、信頼できる食情報のエビデンスとして活用できる「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」を連載でご紹介しています。

水溶性ビタミンの説明を進めているところです。今回は、ビタミンB12と葉酸です。

●ビタミンB12と貧血

ビタミンB12は、金属のコバルトを含んでいる化合物で、アデノシルコバラミン、メチルコバラミン、シアノコバラミンといった化合物が含まれます。
食事摂取基準の指標の値は、シアノコバラミンの重量として設定されています。

ビタミンB12は脂肪酸やアミノ酸を代謝するための酵素の補酵素として働いており、欠乏すると、貧血や抹消神経障害などが生じます。
そこで、貧血を予防できる最小量を必要量として、不足のリスクを回避するための指標が定められることになりました。

この「貧血を予防できるビタミンB12の摂取量」ですが、悪性貧血患者に様々な量のビタミンB12を筋肉注射し、赤血球容積や血中ビタミンB12濃度が適正に維持されるのに必要な量を検討した研究結果が基になっています。
具体的には、悪性貧血患者7人の半数で、筋肉内のビタミンB12量が1.4 μg/日の場合に赤血球容積が改善されたとの研究結果があります。
この研究を根拠に、1.5 μg/日程度がビタミンB12必要量と考えられました。
一方で、この研究では悪性貧血患者が対象者であり、このような人たちは通常の人たちに起こる、胆汁中に排泄されたビタミンB12を再吸収することができません。
正常な腸管再吸収が行われている人たちでは、0.5 μg/日は再吸収により確保できます。
その分を差し引いて、健康な成人のビタミンB12必要量は1.0 μg/日と考えられました。
また、食品中のビタミンB12吸収率はおよそ50%とされています。

以上のような値を用いて、成人の推定平均必要量と推奨量が定められています。
性別による必要量の違いなどは明確になっていないことから、男女とも同じ値が用いられています。
高齢者での必要量や吸収率といった情報は不足していることから、高齢者も成人(18~64歳)と同じ値としています。
小児は、成人の値をもとに、体重や成長因子を考慮して定められています。
乳児では、研究結果がないため、推定平均必要量と推奨量は設定されていません。
0~5か月の乳児は、現在摂取されている量が不足していない量であると推測して、母乳中の濃度と哺乳量から算出された摂取量の結果を用いて、目安量が定められています。
6~11か月の乳児は、他の年齢区分の指標の値と参照体重などを使って目安量が定められています。

●特殊な吸収機構

ビタミンB12が体内に吸収されるには、胃の壁細胞から分泌された内因子と結合し、複合体を形成する必要があります。
この複合体が腸内の受容体に結合して、体内に取り込まれます。
この特殊な吸収機構では、1食当たり2 μg程度のビタミンB12の吸収で吸収機構が飽和するため、それ以上ビタミンB12を摂取しても生理的には吸収されません。

このような調節が行われることから、過剰に摂取しても体内への吸収は制限され、通常の食品の摂取でも、サプリメント等の摂取からも健康障害の報告はありません。
そのため、耐容上限量は定められていません。

ビタミンB12の摂取と生活習慣病予防との関連に関しても報告はなく、目標量も定められていません。
こうして、ビタミンB12の推定平均必要量、推奨量、目安量は、表1のように定められました。

表1. ビタミンB12の食事摂取基準(μg/日)(文献1 1-6 P.261):ビタミンB12はコバルトを含む大きな化合物です。複数の形があり、食事摂取基準はシアノコバラミンの重量で設定されています。

ただし、必要量は筋肉内投与量を経口摂取に変換して求めており、特殊な条件下での数値を用いて指標を設定している点に留意しておきたいところです。

●葉酸も貧血と関係

葉酸は、化学名をプテロイルモノグルタミン酸といいます。
ただし、この状態で自然界に存在することはまれで、食品中では誘導体の形で、他の化合物と結合するなどして存在しています。
プテロイルモノグルタミン酸を「狭義の葉酸」、食品中に存在する葉酸を「食事性葉酸」と呼ぶこともあります。
食事摂取基準では、狭義の葉酸の重量で、指標を設定しています。

葉酸は、DNAやRNAの合成に関与していて、細胞分裂と深く関係しています。
欠乏すると貧血が生じます。
また、動脈硬化の引き金等になる血清ホモシステイン濃度を高くするとも言われています。
不足のリスクを回避するための指標としては、葉酸欠乏による貧血を防ぐことのできる赤血球中の葉酸濃度に関して報告があるため、この濃度を維持できる摂取量を必要量とすることとしました。
具体的には、200 μg/日程度です。

高齢者を含む成人ではこの量を用いて、推定平均必要量と推奨量が定められています。
必要量に性差が認められるとの報告はないため、男女とも同じ値で設定されています。
小児は、成人の値をもとに、体重や成長因子を考慮して定められています。
乳児では、研究結果がないため、推定平均必要量と推奨量は設定されていません。
0~5か月の乳児は、現在摂取されている量が不足していない量であると推測して、母乳中の濃度と哺乳量から算出された摂取量の結果を用いて、目安量が定められています。
6~11か月の乳児は、他の年齢区分の指標の値と参照体重などを使って目安量が定められています。

●神経管閉鎖障害発症の予防

葉酸が不足によって生じるもう1つのリスクに、胎児の神経管閉鎖障害があります。
受胎後およそ28日ごろに生じる神経管の形成異常で、無脳症、二分脊椎、髄膜瘤などの異常として現れます。
受胎前後に妊婦へ葉酸のサプリメントを投与することで神経管閉鎖障害のリスクが低減することは多くの介入研究で示されていて、そのときの摂取量は狭義の葉酸の量で400 μg/日程度であるとされています。

そこで食事摂取基準では、葉酸に関しては5つの指標とは別に、妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性および妊娠初期の妊婦に、神経管閉鎖障害の発症予防のために摂取が望まれる量として、通常の食品から摂取する葉酸以外に、サプリメントによる狭義の葉酸で400 μg/日を示しています。

通常の食品から摂取する葉酸でも、神経管閉鎖障害は予防できると考えられます。
そして、その量は450 μg/日であると試算している研究結果もあります。
けれども、まだ研究が不十分のため、神経管閉鎖障害の発症予防のための量は、通常の食品からの摂取は考慮せずに、サプリメント等の通常の食品以外からの摂取のみの摂取としています。

また、多くの場合、妊娠に気づくのは、神経管形成に重要な時期である受胎後およそ28日を過ぎた後です。
その時期にすでに、習慣的な葉酸摂取量が、神経管閉鎖障害の発症予防のために望まれる摂取量を十分に摂取できている状態である必要があります。
そのため、妊娠初期の妊婦だけでなく、妊娠を計画している女性もこの量を摂取することが望まれているのです。

ただし、葉酸の摂取のみで神経管閉鎖障害が予防できるわけではなく、この疾患の原因は複合的なものであることは知っておく必要があると思います。

●極端な摂りすぎは避けたい

通常の食品の摂取をしている場合には葉酸の過剰摂取による健康障害の報告はありません。
一方で、貧血の治療を目的とするようなサプリメントなどからの大量摂取では、神経症状が発現するといった健康障害が観察されるとの報告があります。
そこで、過剰摂取のリスクを避けるための指標が定められました。

研究結果によると、5 mg/日未満の投与では神経症状の発現と悪化の報告は少なく、5 mg/日以上を投与すると健康障害の報告が増加することから、5 mg/日が健康障害の発症する最低摂取量であると考えられます。
この摂取量と対象者の参照体重から、88 μg/kg 体重/日の摂取量の5分の1未満の量であれば健康障害は発症しないだろうと考え、成人と小児の耐容上限量は、18 μg/kg 体重/日という値と、各性・年齢区分の参照体重を使って定められています。

葉酸耐容上限量に関する研究結果の多くは対象者が女性ですが、男性も同じ方法で指標が設定されています。

葉酸摂取と生活習慣病予防との関連に関しては、循環器疾患の死亡率を低下させる可能性が考えられています。
けれども、研究結果が少ないことから、目標量としては定められていません。
こうして葉酸の推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量は、表2のように定められました。

表2. 葉酸の食事摂取基準(μg/日)(文献1 1-6 P.262):葉酸の食事摂取基準は、5つの指標以外に、神経管閉鎖障害のリスク低減のために望まれる摂取量が注釈で示されています。

表2のうち、推定平均必要量、推奨量、目安量は通常の食品から摂取する葉酸に関しての量です。

一方、耐容上限量は通常の食品以外から摂取する葉酸に関しての量です。
また、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために望まれる量は、表の下の注釈に説明がされています。
この量も通常の食品以外の食品からの摂取に関して示されています。

通常の食品以外の食品からの栄養素摂取を勧めているのは、食事摂取基準の中でもこの葉酸のみです。
葉酸の「(1)通常の食品から摂取する葉酸」と「(2)通常の食品以外の食品から摂取する葉酸」の2種類の葉酸に対する食事摂取基準に関しては、図を使っても説明されています(図1)。

図1. 12歳以上の男女における葉酸の食事摂取基準に関する諸量のまとめ(文献1 1-6 図12):葉酸には、(2)通常の食品以外から摂取する葉酸に関して、他の栄養素とは異なり、耐容上限量以外に神経管閉鎖障害の発症予防のために摂取が望まれる量が定められています

妊娠を計画している女性はサプリメントなどもうまく活用して、十分な量を摂取することが望まれます。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.

※食情報や栄養疫学に関してHERS M&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、通信講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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