科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

食情報、栄養疫学で読み解く!

エネルギー代謝を助けるナイアシン、たんぱく質代謝を助けるビタミンB6:これでわかった!食事摂取基準19

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、信頼できる食情報のエビデンスとして活用できる「日本人の食事摂取基準(食事摂取基準;文献1)」を連載でご紹介しています。
前回から9種類の水溶性ビタミンの説明に入りました。

今回は、ナイアシンとビタミンB6です。

●ナイアシンとペラグラ

食品中に存在しているニコチン酸とニコチンアミドを合わせてナイアシンと言います。
ナイアシンは、エネルギー代謝を進めるときに補酵素として作用し、体の機能を正常に保つためのDNAの修復、合成、細胞分化などに関わっています。

一方で、アミノ酸の一種であるトリプトファンも、摂取すると体内で消化されてナイアシン活性を持ちます。
トリプトファンのナイアシンとしての活性は、重量比で60分の1です。
そこでナイアシンの食事摂取基準は、ナイアシン活性に注目して、トリプトファンの摂取量も考慮したナイアシン当量(mgNE)という単位で、ニコチン酸の量に換算して設定されています。

ナイアシンが不足するとペラグラというナイアシン欠乏症が発症します。
その主な症状は、皮膚炎、下痢、精神神経症状などです。
そのため、ペラグラ発症を予防できる最小量を必要量として、不足のリスクを回避するための指標が定められることになりました。
ヒトを対象にした欠乏実験からは、尿中のN1-メチルニコチンアミド(MNA)排泄量が1 mg/日を下回った頃からペラグラ症状が顕在化することが報告されています。
そこで、MNA排泄量を1 mg/日に維持できる最小ナイアシン当量摂取量を必要量としました。
ナイアシンはエネルギー代謝と深く関わっていることから、必要量はエネルギー摂取量当たりで算出しました。
研究結果によると、MNA排泄量を1 mg/日に維持できるナイアシン摂取量は、4.8 mgNE/1000 kcalであることが報告されています。

成人ではこの値と各性・年齢区分の推定エネルギー必要量を用いて、推定平均必要量と推奨量が定められています。
小児の場合の特別な知見はないため、小児も成人と同様の方法で定められています。
乳児は研究結果がないため、推定平均必要量と推奨量は設定されていません。
0~5か月の乳児は、現在摂取されている量が不足していない量であると推測して、母乳中の濃度と哺乳量から算出された摂取量の結果を用いて、目安量が定められています。
また、この時期はトリプトファンからの供給はないとみなし、単位はmg/日となっています。
6~11か月の乳児は、他の年齢区分の指標の値と参照体重などを使って目安量が定められています(表1)。

表1. ナイアシンの食事摂取基準(mgNE/日)(文献1 1-6 P.259):ニコチン酸とニコチンアミドを合わせてナイアシンと言いますが、トリプトファンもナイアシン活性を持つため、推定平均必要量と推奨量はナイアシン当量(mgNE)で示されています。

●2つの耐容上限量

通常の食品の摂取をしている場合にナイアシンの過剰摂取による健康障害の報告はありません。

一方で、サプリメントや治療薬として大量に摂取した結果、消化器系や肝臓に障害が生じた例が報告されています。
そのため、ナイアシンの過剰摂取のリスクを避けるための指標が定められました。

Ⅰ型糖尿病患者へはニコチンアミドが、脂質異常症患者へはニコチン酸が治療薬として使われていることや、それぞれに研究結果が存在することから、耐容上限量は表1のように、ニコチンアミドの量はかっこなしで、ニコチン酸はかっこで囲む形で、別々に示されています。

具体的な値は、研究結果よりこれまでに健康障害が発現していないとされている量は、ニコチンアミドで25 mg/kg 体重/日、ニコチン酸で6.25 mg/kg 体重/日です。
その量の5分の1未満の量であれば健康障害は発症しないだろうということで、成人と小児の耐容上限量は、ニコチンアミドが5 mg/kg 体重/日、ニコチン酸が1.25 mg/kg 体重/日という値と、各性・年齢区分の参照体重を使って定められています。
乳児ではサプリメントなどの摂取がないとして、耐容上限量は設定されていません。
ナイアシンの摂取による生活習慣病の予防効果に関しては研究報告がないため、目標量は定められていません。

以上のようなことから、各性・年齢区分のナイアシン推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量は、表1のように定められています。

なお、ペラグラの発症リスクはナイアシン全体の摂取不足よりもトリプトファン摂取量の欠乏により高まるとの報告もあり、食事摂取基準の本文中では、ナイアシン栄養状態を良好に維持するために12 mg/gたんぱく質の摂取が望ましいとの目安を示しています。

●たんぱく質摂取量と相関するビタミンB6

ビタミンB6は、体内のアミノ酸を代謝するときなどに補酵素として働く栄養素です。

ビタミンB6活性を有する化合物には、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンがあり、それぞれのリン酸型も消化管でビタミンB6に消化されて体内に取り込まれます。
そこで、食事摂取基準では、ピリドキシンの量として、指標を設定しています。

ビタミンB6が欠乏すると、ペラグラ様症候群や皮膚炎、リンパ球減少などが生じることが知られています。
そこで、これらの欠乏症を防ぐための不足のリスクを回避する指標を定めることとなりました。

生細胞中に含まれるビタミンB6の多くは、リン酸化体であるピリドキサール5-リン酸(PLP)などの形で酵素たんぱく質と結合した状態で存在しています。
そして血漿中のPLP濃度は体内組織のビタミンB6の貯蔵量をよく反映します。
研究結果によると、この血漿中PLP濃度を30 nmol/Lに維持することができていれば、脳波の異常や神経障害発症などが観察されなくなることが示されています。

そこで、血漿中PLP濃度を30 nmol/Lに維持することができるビタミンB6摂取量を推定平均必要量とすることにしました。

一方で、ビタミンB6の必要量はたんぱく質摂取量が増加すると増えるということや、血漿中PLP濃度はたんぱく質当たりのビタミンB6摂取量とよく相関するということが知られています(図1)。

図1. 血漿PLP濃度とたんぱく質摂取量当たりのビタミンB6摂取量との関係(文献1 1-6 (2) 図8):血漿PLP濃度はたんぱく質当たりのビタミンB6摂取量とよく相関します。血漿PLP濃度を30 nmol/Lに維持できていればビタミンB6欠乏症は観察されないことから、その量を維持できるビタミンB6摂取量である0.014 mg/gたんぱく質を必要量としています。

以上のようなことから、ビタミンB6の必要量は、たんぱく質摂取量当たりで算定して、その値を用いて指標を定めることになりました。
血漿中PLP濃度を30 nmol/Lに維持することができるビタミンB6量は、ピリドキシンで0.014 mg/gたんぱく質です(図1)。

研究は消化吸収率が100%の状態で実施していますが、実際の食事でのビタミンB6生体利用率は73%であるとの報告があります。
この値を考慮して、ピリドキシン0.019 mg/gたんぱく質という値を必要量算定の参照値としました。

成人と小児では、この量と、各性・年齢区分のたんぱく質推奨量を用いて、推定平均必要量と推奨量が定められています。
乳児では、研究結果がないため、推定平均必要量と推奨量は設定されていません。
0~5か月の乳児は、現在摂取されている量が不足していない量であると推測して、母乳中の濃度と哺乳量から算出された摂取量の結果を用いて、目安量が定められています。
6~11か月の乳児は、他の年齢区分の指標の値と参照体重などを使って目安量が定められています。

●生活習慣病予防因子としての認定はまだ

通常の食品の摂取をしている場合にはビタミンB6過剰摂取による健康障害の報告はありません。

一方で、サプリメントなどから大量に摂取した場合には、感覚性ニューロパシーという健康障害が観察されるとの報告があります。
そこで、過剰摂取のリスクを避けるための指標が定められました。
平均体重70 kgの人にピリドキシン300 mg/日を投与しても健康障害が発症しなかったとの報告があります。
このときの摂取量である4.3 mg/kg 体重/日の摂取量の5分の1未満の量であれば健康障害は発症しないだろうと考え、成人と小児の耐容上限量は、0.86 mg/kg 体重/日という値と、各性・年齢区分の参照体重を使って定められています。

ビタミンB6の摂取と生活習慣病予防との関連に関しては、ビタミンB6が大腸がんの予防因子となる可能性が考えられています。
けれども、研究結果が少ないことから、目標量としては定められていません。

こうしてビタミンB6の推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量は、表2のように定められました。

表2. ビタミンB6の食事摂取基準(mg/日)(文献1 1-6 P.260):ビタミンB6の活性を持つ化合物は複数ありますが、ピリドキシンの重量を用いて指標が示されています。たんぱく質摂取量が多い人ではビタミンB6必要量が増えます。

ビタミンB6はアミノ酸代謝に関わることから、たんぱく質摂取量が多い人などは必要量が指標の値よりも多い可能性もあります。

とはいえ、水溶性ビタミンで体内から比較的排泄されやすいものの、過剰に摂取すれば健康障害が生じることが知られており、ナイアシンと同様にサプリメントなどからの大量摂取には注意が必要です。

参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.

※食情報や栄養疫学に関してHERS M&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、通信講座も開講しています。ぜひご覧ください。

執筆者

児林 聡美

九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.

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